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ラゼルの青の遐福  作者: あいせ
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ミレイアの親心

ミレイア・コレットの視点のお話となります。

 すぅすぅと寝息を立てる華奢な少女─ラゼルちゃんの艶々の柔らかい髪を撫でつける。

 ぐっすりと眠っているのか、反応1つしないその様子に笑みが溢れるのが自分でもわかった。

 ほんの少し幼く見えるその穏やか寝顔の頬にそっと触れる。

 暖かな温もりと、吐き出す温かな息が私の手を掠る。


 アルメリア様と出かけて行った日は本当にとても疲れているのか。触れても、一度も目を開けることはない。

 初めの頃は、覗いただけでも目を覚ましてこちらを伺うように見ていた。それが無くなったことが本当に喜ばしい。

 ラゼルちゃんの安心できる帰る場所になってきているのだと思えた。



 初めてアルメリア様が店に訪れた時は本当に驚いた。

 それも、ラゼルちゃんに会いに来ていたのだと知って驚きはさらに大きかった。

 どんな人にも分け隔てなく接することができる優しい人。けれど、そこには決して踏み込ませない貴族の令嬢であると言う確かな存在プライドが存在していた。

 分け隔てなく接しようとも、貴族と市民では立場が違う。それをアルメリア様もしっかりと理解していた。

 ご友人として、ラゼルを呼んでいてもきっとその線引きがあるのだろうと。

 けれど、幼なげな顔で笑うアルメリア様の顔は、貴族の令嬢ではなく、ただのアルメリア様が笑っているように見えた。

 まるで、たった1人さらけ出せる友人のように扱うアルメリア様にも、対等に対峙するラゼルにも驚いた。

 そしてそれは、対等な関係に見えた。まるで、貴族の子女2人がそこに並び立つように見えていたのだ。


 友達と呼べる人を作らないラゼルちゃんがずっと気になっていた。

 優しく人に接していても、どこか自身と相手の間に線引きがあった。

 踏み込まず、踏み込ませない。けれども、相手にそれを悟らせない器用さ。

 同じ年頃の子供と会話していても、どこかお姉さんのように接していた。


 ふと、思い浮かんだ。

 あの小さな女の子に優しく笑いかけたあの慈愛の表情。

 優しいなんて、言葉で済ませることのできないあの温かな光を宿した瞳は紛れもなく、子供のする顔ではなく大人と謙遜のない表情だった。


 下の子に接し慣れた・・・。ううん、下の者に接し慣れている。

 守護し、平等に扱い、与える。

 貴族の義務(ノブレス・オブリージュ)と呼ぶものにも該当するその行為全て。

 子供が成す行為として、いきすぎている。大人が義務の元に動くはずのソレに何もわからずではなく、線引きをして尚且つ与えている。


 どれだけ、この年頃の子供には難しいことだろう。

 キチンと理解した義務。それを自然と成し遂げる。施されていると思わせないその技量。


 それほど過酷な環境で育ったのかとおもえば、涙が溢れそうだった。

 徹底した教育だったのか。やらなくてはならない状況だったのか。


 唯一、思えることがあるのなら。ラゼルちゃん自らがそれを望んでいてくれれば、ソレ以外はない。

 無理矢理ではなく。貴族として生まれたのなら、と自らの意思で進んでその道を歩いていてほしい。そんな願望が顔を覗かせる。

 全てが苦しかったと思わないでほしい。楽しかったこと、やりたいことがあってその道を進んだのだと。そう思いたかった。



 途端、部屋に灯が篭れ落ちた。


 ──コンコン


 同時になり響くその音。


「ミレイア」


 柔らかい声音で自信を呼ぶ声。振り返った先には愛してやまない人が立っていた。


「テオ」


「眠ったかい?」


「えぇ。ぐっすりよ〜」


 もう一度さらりと髪を撫でる。

 むずがる様に動くラゼルちゃんにこれ以上は起きてしまうかと、テオと一緒に部屋を後にする。


「ラゼル、ずいぶん起きなくなったね」


 テオもあの頃のことを思っているのか振り返った扉を見てそう言った。


「安心してくれているのよ、きっと」


「そうだね。安心して眠れる場所になれているってことだ」


 テオのその優しい表情に一瞬、見惚れてしまう。



「ねぇ、テオ」


 ふと、思いついた様を口にする為に名を呼ぶ。そうすると、琥珀の瞳が私を見つめる。


「もっと、ラゼルちゃんの安心と楽しいのために明日のおやすみ、一緒に出かけましょう〜?」


「それは、良い考えだね」


「あ、でも。最近はアルメリア様とも遊んでいるものね。ラゼルちゃんにしっかりと予定を確認しなくっちゃね!」


 決まったお話に今から楽しみで仕方ない。


「出かける場所、水族館なんてどうだ?」


「いいアイデアだわ!!」


 テオのその提案に、間を開けることなく返す。

 きっと、ラゼルちゃんが楽しんでくれる。そう思うだけで楽しみだった。

 もちろん、自身もテオやラゼルちゃんと出かけられるのが嬉しい。けれどそれよりも、楽しそうに笑うラゼルちゃんが愛おしいと思える。


「せっかくなら、水族館なら隣のウェルデの街まで行きましょう?」


 隣町であるウェルデと呼ばれる場所にある、一際大きな水族館を思い浮かべる。

 テオも同じことを思い浮かべたのか、うっそりと頷いた。


「それはいいね。朝早くから、準備していこうか」


「昼食はどうしましょう?向こうで食べようかしら・・・」


「そうだね。お魚ご飯って言うのがあると聞いたことがあるし、変わったご飯もたまには楽しいだろうしね」


 どんどんと纏まっていく話に、ときめきが止まらない。



 思いを馳せる、明日へ。



 子供を産めなかった私のところに来てくれた天使の様に綺麗な女の子。

 あの子が、笑っていられるなら。あの子が安心して幸せであれる場所でありたい。


 なにがあっても、あの子の帰ってこれる場所になりたい。


 これをきっと、親心と呼ぶのだろう。




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