人攫い後編そのに
「さすが聖女様、気づいていたのですね」
抑揚の無い声。でも聖女という言葉だけ何処か特別が込められていた気がする。
そんなことを思いながら、俺はヨルと一緒に一つ一つ扉を開けながら進んでいく。この屋敷は見た目からは考えられないほど部屋数が多すぎる。そして広い。
んー、多分これ嵌められたな。
「ヨル、私の手を掴んでください。絶対に私の手を離さないこと。いいですね?」
後ろにいるヨルに手を差し伸べながら言うと、ヨルは一瞬だけ驚愕の表情を浮かべたがその後はまた無表情に戻った。でも俺の手を掴むその手はとても震えていた。
けど俺は手を掴んでくれた事が少し嬉しかった。
だって俺が怖いもん。
「ごめんなさい、ヨル。どうやら幻影かそれに似た魔法にかかってしまっているみたいで。でも安心してください。私が貴方を守ります」
「ーーーどうして?どうしてそこまで俺を守って頂けるのですか。魔法にかかっているのなら聖女様だって危ない」
彼は相変わらず無表情だが、その手は少しだけ震えていた。怖いとかそういうのではなく、なんで俺が自分を守るのかわからないんだろう。
俺は自分よりも背が高い彼を抱きしめて、綺麗なその髪を赤子をあやすかのように優しく撫でる。
「君の素性を私は知らない。もしかしたら君はとても危ない人かもしれない。だがヨル、君は私を慕ってくれている。私は私を慕い信じてくれてる人を守りたい。それだけだよ」
俺の言葉に彼は何も言わず黙ったまま。
だけど微かに彼を纏う雰囲気が柔らかくなった気がする。




