人攫い後半そのさん
ヨルとはぐれないように手を繋ぎながら何処までも続く廊下を歩いた。魔法にかかったせいで中々と抜け出せない。
無限廊下みたいで最初は楽しいとか思ったけど今はしんどい。そんなに体力ないんだよ、分かれよ術者め。
「聖女様、知っていますか。女、子供、それらは男よりも儀式に向いているのですよ」
ヨルの言葉に歩みを止め、俺はゆっくりとヨルのほうに体ごと向ける。
その瞬間、背筋がぞわりと粟立つ。それは弟がたまに俺に向けて笑う笑顔、そして前世で誰かが俺に対して向けていた感情そのもの。とても恐ろしくて怖くて、今すぐ手を振りほどってでも逃げたい。
ヨルは笑顔だった。けれど瞳は狂気じみている。その瞳はじっと俺を見つめていた。
ヨルの腕が伸びてきてゆっくりと俺の細い首を掴む。
どうしたらいい?どうすればいい?
「あれ、怯えているんですか?、、、ふふ、ほんと可愛らしいお方だ。大丈夫、俺は貴方になにもしない。俺の存在を知って欲しかったからコイツを借りたまでのこと。俺の可愛い可愛い婚約者、早く俺の元においで。じゃないと死ぬのは民たちだ。儀式にはもっと人間が必要でな」
「おう、、か、、様??」
「うん、正解。えらいね、俺のお姫様」
ヨルの体を借りたというオウカ。俺の婚約者で、サクラ王国第1皇子であり、王候補にもっとも近く、他の王子たちよりも勢力を伸ばしている。冷酷で冷徹、血も涙もない非道な皇子様。
まさか黒幕が国のトップにたつ王族だったとは予想外だな。それと同時に厄介なことになった。
王族を捕まえることも処罰することも出来ない上に、教会はなるべくサクラ王国、神界を敵に回したくないためこの件を有耶無耶にするだろう。