1話・乙女ゲームの主人公が男になっていました。
それはいつも通りの日常だった。
いつも通り仕事をして家に帰ってゲームをして寝る。
この時までずっとこれは変わらない日常だと思っていた。
『〇月✕日、連続殺人鬼による殺人がまたも―――』
イヤホンからニュースが聞こえる。
最近巷を騒がせている連続殺人鬼の話だろう。男か女か、若いのか老人かも分からぬその存在。
「やっと見つけた、愛しい俺のお姫様」
イヤホンをしてても透き通るその声につい俺は聞こえて来た方に顔を向ける。
顔はよく見えないが目が合った。
グサッ
胸の辺りになにか衝撃を感じいつの間にか目と鼻の先にいた彼の手を見ると、そこには真っ赤に染った白い肌と自分の心臓である場所に刺さっているナイフ。
「あ、、れ、、、?」
そう、いつの間にか刺されていたのだ。自分が刺されたと気づいたと同時に視界が段々と真っ暗に染まる。
ああ、こんな呆気なく俺は死ぬんだな。
―――――――――
「お姉様、何処に出かけられるのですか?」
前世で殺された時の事を思い出していたら目の前にいつの間にかいた今世の弟に声をかけられる。
最悪なことに今世の俺はどうやら女になっていた。それも俺がずっとハマって仕事終わりにやっていたゲームのラスボスキャラになっていたのだ。
最初こそは驚いたが過ごしていく内に段々と慣れた。
それにしてもおかしい、、、主人公は女でラスボスは主人公の兄であったはず。なのに何故主人公は弟でラスボスが姉になっているのだ。
今世では女として生まれた?転生した?俺だが顔は俺を女にした感じだ。はっきりといって可愛げがない。前世での俺は確かに女よりも男にモテることが多く、彼女なんて年齢=いない歴だった訳だし。
銀髪に赤と紫のオッドアイ。真っ白い肌に痩せた体はどこか病弱っぽく見え、自分で言うのもあれだが儚くてとても神聖で美しくみえる。外見だけなら。
中身はただのおっさんだ。25歳だがな。
「最近出来た弟子に会おうと思って。ガイアも来るか?」
「は?」
いい笑顔でその一言は怖い。
この弟、ガイアは俺がどこかに行こうとする度に笑顔で怒り、俺がガイア以外と会う度にまたも笑顔で怒り出す。
なにが純粋で誰にも優しい美しき天使だ。それはゲーム本来の主人公であってコイツのことではない。
「はぁ、、ソラ、貴方は何故いつも私の傍を離れようとするのですか?」
「だからガイアも来るか聞いたんですけど」
「認める訳にはいきません。あの得体の知れぬ者に逢いに行くなど許しません」
うーん、どうしたものか。
目の前の黒髪美青年をどうやって納得させればいいのかさっぱり分からない。黒髪で俺と同じ赤と紫の瞳、俺とは真逆にずっとニコニコしているこの弟。
ゲームの容姿設定は一緒なのになんで性格と性別が違うんだろう。
「彼は私以外に唯一闇魔法を得意とする高レベルな魔導士だ。そんな彼を私は弟子にした。師匠になったいま私は彼に逢いに行く権利がある」
ため息を付きながら俺はそう言い切るとガイアに背を向け扉へと歩き出す。
このゲームはBADENDこそ悲惨だがHappyENDとTRUEENDはマシだった気がする。だがこの世界で生きる限り、目指さないといけないのはTRUEEND。
HappyENDはBADENDみたいに死ネタは無いが、HappyENDにしては珍しく攻略キャラの幸せしか考えてないENDで主人公は一切Happyとは程遠い。
HappyENDだど全キャラヤンデレ属性になる。それだけは避けなければいけない。BADENDはラスボスに負けたら進むルートだし、ラスボスになった俺がBADになることは無い。
「お姉様!!お待ちください!私は絶対に認めません!正教会の大司祭である私が認めないと言っているのです」
手を強く引かれ、俺はまたガイアと向き合う形となってしまった。口調はどこか怒っているように感じたが、表情はいつもと同じでニコニコしている。
「その正教会の大司祭、という肩書きは私には通用しない。私は闇の全権利を保有する常闇の聖女。ガイア、お前はこの意味が分かるだろ?」
常闇の聖女。闇の力を持ちながら神に使えし聖なる処女。誰の言葉でもこの肩書きを持つ限り俺を縛ることも命令することも何も出来ない。
俺の言葉にガイアは手を離し扉の方へ歩き出す。
「私は教会に行ってきます。ルイ、お姉様をあの忌々しいルカの元に送り届けろ」
ガイアはそう言うと部屋から出ていく。
その後ろ姿は少し怒っているような、寂しそうな背中をしている気がした。それにしても背中が大きい。本来なら女の子だったハズのその体。
なんで男なんだろう―――。