14. 宣戦布告
舞踏会の次の日、いつものようにお昼に迎えに来たエディの所に向かおうとすると、バーバラ嬢に呼び止められた。
「シルフィアナさん、お願いがありますの。私をエドワード様に紹介していただけないかしら」
と言われ、とても驚いた。私は、
「ごめんなさい、バーバラさん。貴方を紹介すると、他の方たちも皆紹介しなくてはいけなくなりますので、それは出来ませんわ」
そう言うと、
「私を紹介すると、エドワード様を取られると心配なのね。それは私が美しすぎるから仕方がないのですけど。いずれエドワード様は私のことを好きになるのですから、諦めて私を紹介した方がよろしくてよ」
とバーバラ嬢が言う。私はまたもや驚いて、
「エドワード様が貴方を好きになるかどうかは別にして、他にもエドワード様とお近づきになりたい人は山ほどいるので、貴方だけ特別というわけにはいきませんの。ご理解下さいね」
私はにっこりと微笑んで、踵を返したのだった。
私に断られたバーバラ嬢は、悔しそうに私を睨んでいたが、入り口にいたエディが、バーバラ嬢を鋭い視線で睨んだので、恐ろしさに目を逸らしたのだった。
私がエディの所に行くと、
「どうした? バーバラになにか言われたのか?」
とエディが聞いてきた。私は、
「バーバラさんがエディに紹介してほしいと言ってきたので、そういう人はたくさんいるので、貴方だけ特別というわけにはいきませんと、お断りしていたのですわ」
とちょっと疲れた声で言うと、
「昨日の舞踏会の時も付きまとわれたからな。シルフィに何もしてこなければいいが、何かあったらすぐ俺に言ってくれ。俺の方で何とかするから」
とエディが言う。
エディはそう言うが、学年の違うエディには難しいだろう。私とバーバラ嬢は同じクラスだ。何も起こらなければいいのだが……。と去年の事を思い出し、気が重くなるのだった。
いつものメンバーでお昼を食べていると、さっそく事件が起こった。
バーバラ嬢が私の座っている椅子にぶつかり、頭から水をぶちまけられたのだ。
「あら、ごめんなさい。ちょっと目眩がして……」
とバーバラ嬢が言う。
エディが怒りのオーラを放ち立ちあがろうとするのを抑え、私が立ち上がり、よろけた振りをして、バーバラ嬢に水をぶっかけたのである。
「あら、ごめんあそばせ。ちょっとよろけてしまって……」
そう言いながら、バーバラ嬢に顔を寄せて、
「私に喧嘩を売るなんて、覚悟は出来ているのでしょうね」
と、これ以上関わって来ないように、ちょっと低い声で脅しをかけてみた。
「な、なによ。貴方なんか怖くもなんともないんだから!」
バーバラ嬢はそう言って私を睨み返す。
そうだよね。前世のヤンキーたちもそうだった。こちらがやられっぱなしでいるとナメられる。だからといって対抗すると、また対抗しかえしてくる。まあ、そうやってお互いに対抗し合ううちに打ち解けちゃったりすることもあるんだけどね。なんて思いながら、私はため息を一つついて、
「わかったわ。お手柔らかにね」
そう言って、売られた喧嘩を買うことになったのだった。
水を被った私をエディが気遣って、
「医務室に行って少し休んだ方がいいんじゃないか?」
と言ってくれたが、コップの水を被っただけなので、それほど濡れてはいない。ハンカチで拭けばすぐ乾くだろう。そう思って、
「ありがとうございます。大した事はありませんわ。すぐ乾きますから」
そう言って、ハンカチで拭いていると、エディもハンカチを出して拭いてくれる。
「君が大丈夫ならそれでいいが……。バーバラには気をつけてくれ。君に何かあったらと思うと気が気じゃない」
そう心配顔で言うので、
「女子の喧嘩に男子が口を挟むと、痛い目にあいましてよ」
と、ちょっとおどけてお茶目に言うと、
「ホントに君は怖いもの知らずだな。絶対に無理はしないように。何かあったらすぐに教えてくれ。いいな」
とため息をついて、エディにそう言われたのだった。
それを聞いていたカールとルークが、
「エドワード様、シルフィの事は私がちゃんとお守りしますので、安心して下さい」
「私もお守りします。だからご心配なさらずに」
と2人が言うとエミリーが、
「私達もついています。必ずシルフィを守ってみせますわ。ね、リリア」
とエミリーに言われたリリアも、
「もちろんです。私達にお任せください」
と胸を張るのだった。
なんだか大事になってしまったけど、まさか命までは狙われないだろう。いや、去年の事件では命を狙われたから、みんな心配しているのか……。ただの子供の喧嘩で済めばいいのだが、バーバラ嬢がどう出るかによっては、また事件に発展しかねないなと、ウンザリするのだった。
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