表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/91

09

 スキルの強化には、まず目を閉じて『胸奥』の中のスキルに【星】を合わせるイメージを描く。

 すると目蓋の裏に神の言葉で『本当によろしいですか?』と確認のメッセージが出現する。

 それに心の中で承諾すれば成功という、簡単なものだ。


『回復性能が強化されました。魔力の消費量が増加しました』


 わたしが手順通り《セルフヒール》に【星】を振ると、回復系スキルではおなじみの文章が出現した。

 以降、スキルは強化されるとともに魔力の消費も増大する。


 レベル5では事前の情報通り、上記のメッセージに加えて『該当スキルに《オート発動》が付与されました』と付け加えられた。


 ちなみに“オート”の他にも“フィールド効果”や“リセット”などスキルの説明に表示される単語は、この世界を創造した神々が使用していた言葉らしい。


 とにかく、これでわたしは生傷を受ければ《セルフヒール》が勝手に発動してしまう身になった。

 ひとまず、さっさと上限まで上げてしまおうと【星】を割り振っていく。




『回復性能が強化されました。魔力の消費量が増加しました』


『回復性能が強化されました。魔力の消費量が増加しました』


『回復性能が強化されました。魔力の消費量が増加しました』


『回復性能が強化されました。魔力の消費量が増加しました』




 同じ作業を繰り返して、あっさりと10段階目を超える。

 神聖魔法では多くが5~10段階で上限を迎えてしまうことが多かったがどうやらまだ伸びしろがあるようで、消費量も1のままだ。



『回復性能が強化されました。魔力の消費量が増加しました』


『回復性能が強化されました。魔力の消費量が増加しました』


『回復性能が強化されました。魔力の消費量が増加しました』



(……どこまで伸びるんだろ?)


 同じ文章が淡々と流れ、そして20段階目となったところで追加の効果が現出する。


『該当スキルのCTが短縮されました』


 CT(クールタイム)――つまり魔法を使った後で再び魔法を発動するまでの時間のことだが、その間隔が短くなったのだろう。

 回復速度は上がるけど、その分余計に魔力の消費も増える。

 より使いづらくなったともいえるけど、わたしにはどうでもいいことだった。


 30、40段階と節目のところで『CTが短縮されました』と刻まれるようになった意外、変化はない。

 消費量は相変わらず【星】1つだった。



 ☆★☆★



『回復性能が強化されました。魔力の消費量が増加しました』

『該当スキルのCTが短縮されました』


 ついにスキルは60段階目となった。

 段階のことを“レベル”とも言うそうだが、こんなに高レベルまで上げられるスキルは聞いたこともなかった。


(……壊れてるんじゃないでしょうか、これ?)


 そもそも本当にちゃんと【星】を振れているのだろうか。

 回復量の上昇が微々たるものだとしても、ここまで来ると1回の上昇量はヒール程度なら軽く凌駕しているだろう。

 自暴自棄になって始めた行為だったが、回復量と消費量が上がり、CTが短縮されるレベル上げはどこまでも続いた。

 神聖魔法分の【星】は既に使い切り、ここからはわたしの中に残った後いくつあるかわからない【星】を振っていく。

 そして《セルフヒール》がついにレベル80となる直前のことだった。



『ココから先ハEX』



「……え?」


 本当によろしいですかと聞かれた後で、初めて見るメッセージが出現した。

 それは今までの形式的な文章ではない、誰かの独白に近いものだった。


『遊ビのようなモノダ。好きni蹂躙シタケレば。それトモ勝てナい相手が現reた?』


 遊び? 何のことだろう。


 わけがわからないまま、もう1度だけ確認される。

 わたしが承諾すると、回復量の増加と共に、見たこともない表記が出現した。


『該当スキルに【吸収】付与』


 吸収……?

 当然、心当たりのない効果だった。

 さらに進めていくと、レベル85にて。


『該当スキルは【魔封】無効』


 つまりは、黒魔法などによるスキルの発動を禁じられることもなくなった。

【星】はまだ尽きない。

 さらにレベル90になる直前で、また独白が入る。



『ココカラ先は神域』


「…………」


『時代はスキル制です。この世界ヲ謳歌しよう。樂シイ“時”の始まri』


『該当スキルに【同化】付与』


 また知らない効果が追加される。

 ――レベル95。


『CTが0になる』


 ついにクールタイムも無くなった。

 おそらくどんな傷でも瞬く間に回復するのではないだろうか。

 だけど、回復量もレベル95相当なら魔力消費もレベル95相当。

 オート発動のためにかすり傷だろうと発動してしまうのだし、魔力の消費も激増しているためにおそらくは数回発動できるかどうかだろう。

 やはり扱いづらいことに変わりはない。


 というか、100個近く【星】があったのなら別な職業を取得したほうがどれだけパーティーの役に立てたか。

 最初から《聖女》なんてならずに攻撃職にでもなれば良かったのだ。

 そうすればラビ君が回復職になって、わたし達は今も仲良しだったはずだ。


(わたしはきっと、始めから間違えてたんだ)


 ……早く終わりにしたい。

 そう思って、わたしは作業を続ける。

 96~99まではレベルが上がるごとに独白が続いた。


『β版は【ドゥーム・アビス】に配置した。後任が決まった』


『ちみんな金しか考えナイ。何を提案しても認めラれない』


『ヌルいと飽きるクセに、勝てないと酷評ばかり。自分は何だと思われている? ちrtrthtw鴬rfhthgrtrtrtrtrtrtrtrtrtrtrt』


『間に合わない。もう帰りたい』


 内容はさっぱりだけど、ずいぶん荒れているのがわかる。

 これが、教会も崇める“神様”なのだろうか。

 さっきの文字列は何だったのだろう。

 ともかく、わたしはついに3桁となるレベル100を前にする。

 なんとなく、ここが上限の気がする。

 最後の【星】を重ねると、それ以上『胸奥』に光が現れることはなかった。

 ストックは尽きた。これで本当に失うものは無くなった。


『該当スキルが上限に到達しました』


 ――レベル100。


 それが、《セルフヒール》が最大まで強化された瞬間だった。

 おそらく至上初だろう、なんて無駄な、笑える偉業だろうか。


『回復性能が強化されました。魔力の消費量が増加しました』


 最後となる基本性能の強化が行われて、その後――


「…………あれ?」


 キリの良い数字では必ずあったはずの追加効果がいつまで経っても表示されない。

 最後なのだし何かあると思っていたのだが、少しだけ興味もあったために困惑した。


(え……これで終わりなの?)


 例の独白も映ることはなく、時間だけが過ぎていく。

 なんというか拍子抜けだった。

 神域なんて勿体ぶったことを言っているから、それなりの何かはあると思っていたけれど、まさかの何もナシとは。

 途方に暮れていると、瞼の内側に白と灰の色に塗られた板のようなものが出現して、その表面に言葉が紡がれた。


『パスワードは?』


(ぱ、ぱすわーど?)


 パスワード……って何だろう。

 ワード……なにか言葉を伝えればいいの?

 でも一体なにを伝えればいいの?


 真っ先に思い浮かんだのは、少し前に流れたメッセージの一部だった。


『帰りたい』


 なんとなく共感を覚えた、悲哀を含んだ願望。


 あの頃に戻りたい、時間を巻き戻したい。

 もう1度やり直したい。

 4人で楽しく過ごしてきた、あの頃に。


 ……わたしも、帰りたかったから。


「……帰りたい」


 思わず心の声が漏れる。

 その時だった。


『パスワード確認。管理サーバーへのアカウント接続を許可。該当スキルにテスト用効果を移行』


「え? え?」


 何が起きたのだろう。サーバー、アカウント、接続、全部初めての言葉だ。

 先に進んだということは、もしかして正解だったのだろうか。

 意味もわからないまま、最後のメッセージが開く。


 役に立たないといわれた回復魔法セルフヒール


 それを、極限まで成長させた先で手に入れた効果はたった1つ、実に単純なものだった。





『該当スキルの魔力消費量が0になりました』





「………………………………へ?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ