9話 名に懸けて -後編-
1章 魔物生活
9話 名に懸けて -後編-
朝日が昇り、森に光が差している。その中を4人の冒険者が歩いていた。
「今日一日中に歩いていけば、町へ帰れるわね」
「ふぁぁぁ。眠いー」
依頼が達成したからか二日目、足取り軽く歩いているセルン。マービンは眠そうにしている。
「朝弱ぇな、マービンよぉ」
「セルンー、おぶってー」
「なんで私なのよ!?マローニに頼みなさいよ」
「臭いー」
「ちょっと待てっ!?ひどくねぇ!?まともに湯浴みができてねぇのは全員だろぉ」
「セルンなら我慢できるー」
「重いし、いやよ。レスもなんとんか言ってやってよ」
「マービン、頑張れ。昨日作っておいた果実水やるから」
「うんー。頑張るー。ゴキュゴキュ」
「俺もくれよ」
「あ、私も」
「ないー」
「「えー、レス。もうない?」」
「ないよ。でも、帰り道で果実見つけたら作るから」
不承不承マローニとセルンは頷いた。それを見て苦笑するレス。
レス達は全員同じ町ニクーソンで育った幼馴染だ。全員の家は貧乏であるために冒険者になり、パーティーを組むこととなった。どこにでもありふれた理由で流れだろう。
レスがリーダーとして慎重に依頼を選んできたので、大きな怪我もなく、階級を上げてこれた。今回の依頼は収入もよかった以上に、安全性も高いのでかなりの倍率の中をレスがもぎ取ってきたのだ。
「この依頼は行ったり来たりで時間はかかったけどよぉ。昨日で終わったし。楽だったよな」
「本当ね。流石リーダー」
「褒めてつかわすー」
「やめろよ。恥ずかしいよ」
照れるレス。そんなレスの様子が楽しいのか、3人がからかってくる。
「もうやめろって。それより今日の確認」
「おう」
「わかったわ」
「はーい」
「今日は昼も歩きながら食べて、日が一番高くなるぐらいには森の脇の街道に出れる。そこで少し休んでから歩き続けて町へ到着。なにか質問は?」
「俺はねぇよ」
「今日のお昼は?」
「朝のうちに焼いておいたパンと茹でた干し肉のサンド」
「僕のは肉増し増し?」
「ああ。マービンのとマローニのは肉増しだ」
「「よっし!」」
「甘いわねぇ」
「多少のことはいいんだよ。元々この依頼のために準備したものだからね。今日で戻るんだから残すのは勿体無いよ」
「干し肉なら残したっていいのに。まぁいいわ」
しばらく彼らは歩きながら冗談を言い合い、お昼になったら食べながら進んでいるときだった。
そこは森の中でちょうど開けていて、広場のようになっている。そこを彼らが抜けようとしたら1匹の魔物がいた。ただ、そこに佇んで彼らを見ている。その魔物から異様な雰囲気を感じながら小声でレス達は話し合う。
「なんだ?あれ」
「んー。魔物ー」
「魔物よね。確かウィル・オー・ウィスプ」
「ウィル・オー・ウィスプにしては変だ。色も赤くないし。この時間は洞窟とかにいるはず」
「特殊な個体かもしれないわね」
「んだよ。魔物なら倒せばいいだろ。この森は最近魔物が減って稼ぎにくくなってるし。少しの小遣いにはなるだろ」
「戦うのはなー。逃げよー。避けて帰ろー」
「そうね。面倒だし。ゆっくり下がって遠回りになるけど避けていきましょうか」
「わかった。マローニもいいか」
「別にいいぜ」
「よし。じゃあ、ゆっくりと下がるぞ」
レイ達は戦闘態勢のまま、ゆっくりと後退し始める。すると、ウィル・オー・ウィスプ、ヴェンデッタから声をかけられる。
「1つ答えろ」
レス達は目を見開いて驚いている。信じられないものを見たという感じだ。それは会話が可能なほどの魔物というのは、脅威度からいうと天災級や破滅級で金クラスの冒険者か騎士団でないと相手にできないほど強いのだ。通常は必死で逃げて協会や騎士団に通報しないといけない。
この中でいち早く立て直したレスが聞き返す。
「しゃべれるのか」
「1つ答えろ」
「・・・わかった」
「昨日狩ったイノーンは強かったか」
「何?」
「昨日狩ったイノーンは強かったかと聞いた」
「それはどういう「答えろっ!!」っ!?」
ヴェンデッタの剣幕にレスは息を呑んだ。
「強かった」
「どう強かった?」
「マローニが盾を凹まされて、吹きとんだ。足が速くて俺の剣は当たらないし。マービンの矢もセルンの魔術も避けられた。半日の時間がかかった」
「そうか。イノーンは・・・トレインは・・・強かったか」
「ああ。もう行ってもいいか?」
「いや。最後に全員死ね」
「っ!?みんな構えろ!なぜだ!?」
「あのイノーンは。トレインは!俺の相棒だ!それをおまえ達の都合で奪った!」
「すまないでは足らないんだろうな」
「ああ。足らない。俺はおまえ達が生きていることを許さない!」
「やるしかない、か。セルン!」
「大丈夫。いつでもいけるわ」
「盾を凹ました奴の相棒か!つうことは強ぇぞ!」
「わかるーあれーやばいー」
「ちゃんと戦ったおまえ達を甚振るようなことはしない。痛みなく殺すから抵抗するな。---------。」
「嘘!?魔物が呪文の詠唱!?あれは!?みんな散開!」
驚愕していながらもセルンがヴェンデッタが唱えていた魔術を見極めて、全員で指示を出した。レス達が動き出すと共にヴェンデッタが魔術を放つ。
「エアボム」
ドガァァンッ!
レス達全員が爆風を受けて転びながらも木の陰に隠れる。爆風を受けたせいで、セルンの魔術陣は崩れて霧散してしまう。
「おい!セルン!魔物って魔術使うのかよ」
「知らないわよ!初めて見たわ」
「特殊な個体だからー?」
「いや!魔術は技術だ。学ばないと無理だ。だれかが教えたんだろう」
「みんな!対魔術戦でいくわよ!」
「トレインと戦えただけある。判断も反応もいい。納得した。もういい」
ヴェンデッタはレス達の強さを確認するために魔術を放ったのだ。トレインが倒されたことを納得するために。
それも確認できたので上空へ浮かび上がりながらゲリラ御用達のアサルトライフルを実体化すると顔を出して、こちらの様子を見ている中から適当に狙うことにした。
「まず1人目」
バンッ!
マローニが崩れ落ちる。レス達は木に隠れ直して、倒れたマローニに声をかける。レス達は事態が把握できずに混乱する。
「な、なんだ?どうしたマローニ?」
「ねぇ!マローニ!」
「嘘・・・」
「なんで起きないんだ!今のはなんだよ!」
「落ち着いて、レス!もうマローニは諦めて!今はなんとか切り抜けないと」
「くそっ!あれは一体なんなんだ」
「わからないわ。魔術ではないわね。でも、雷の魔術並みの速さで何かをされた。だからマローニはやられたの」
「・・・僕が動くよー。見極めてー。なんとか逃げてー」
「待て!それはだめだ!」
「そうよ!他の方法を考えるから」
「行く」
「待つんだ!マービン!」
「だめよっ!」
本能的にはマローニが死んだことがわかっているが、理性が拒否する。しかし、それに構っているほどの余裕はない。そこでマービンは事態を確認するため自らを囮にすることを強行する。
マービンは木の陰から飛び出して、他の木の陰へ駆けていく。そこをヴェンデッタは狙う。
ドガガガガッ!
「はぁはぁはぁ。なんなのー。あれー。ねぇー!わかったー!?」
「マービン!大丈夫か!」
「大丈夫ー!それよりわかったー!?」
「ええ!何かを高速で連続して撃ち出しているみたい!」
「なんとかできそう!?」
「なんとかしてみせる!だから無茶するな!」
「わか」
ドガンッ!
ヴェンデッタは銃撃後、手榴弾を投げ込んでいたのだ。マービンは手榴弾で吹き飛び、地面を転がる。ぴくりとも動かない。そこを銃撃されて、止めを刺された。
「2人目」
「な、なんだ!魔術か!くそぉおおお!マービンッ!返事をしろっ!」
「もう訳わかんないわ!誰かっ!助けてよ!」
セルンは泣き叫んで、助けを請うもヴェンデッタはセルンの隠れている木に向かって銃撃を行うことで答えた。アサルトライフルを消して対物ライフルに変え銃撃すると木を貫通してセルンの胸を貫いた。
ドガンッ!
「ぐふっ・・・い、いや」
ドサッ
「3人目だ」
「セ、セルンッ!お、おまええええぇぇぇえええっ!」
「最後だ」
「うぉおおおおおおおっ!」
ドガンッ!
レスは木から飛び出して、ヴェンデッタへ走っていく。ヴェンデッタはレスの正面まで下降するとレスを狙い撃った。撃ち抜かれたレスはバク転するように吹き飛び地面へ倒れる。
「ふぅ。トレイン、倒したよ。・・・・・・おまえの墓、作ってやんないとな。それから」
ヴェンデッタはレス達の魂を吸収すると、気持ちの整理をするためにしばらくその場に佇んだ。自分の中の感情を確認していた。人の頃ならある忌避する感情は特にない。奪った報いを与えただけ。やるべきことをやっただけという感覚。そんな気持ちだ。戦いが終わったからだろうか、心にあったどろどろしたものはすでになくなっていたが、そのことにヴェンデッタは気づいていない。
その後、レス達を一箇所に集めて荷物を漁る。冒険者の証、お金、薬や包帯など使えそうなものを袋に詰めると魔術で空けた穴に遺体を埋めてやった。報復とはいえ、満のときの記憶の名残りか死んだなら墓に埋めてはやろうとは思ったのだ。荷物はその代金だと勝手に解釈している。
埋め終わった後、トレインが倒された場所へヴェンデッタが急いで向かうとそこにはデッドイーターと言われる魔物が周辺を飛んでいた。
デッドイーターは下級の鳥の魔物である。見た目は頭が2つある灰色のハゲ鷹。死体のみを食べ、死体の匂いに敏感だ。生きた者には襲い掛からず、逃げていく。
レス達と戦う場所への移動は時間がかかるため、岩壁に作った穴の中へトレインを隠しておいたのだ。そのトレインの匂いを嗅ぎつけたのだろう。ヴェンデッタは周囲を飛んでいたデッドイーターを実体化したマシンピストルで蹴散らす。
3羽ほど撃ち落すと逃げていったので周囲を再確認してから、隠してあるトレインのところへ向かう。蓋にしている岩を操作魔術リモートで転がして退けるとトレインの亡骸がそこにあった。ヴェンデッタは荷物を降ろして、トレインの傍に寄りかかる。
「終わったよ。このあと墓を作るし、果実を供えるからな・・・ごめん、トレイン。本当にごめん。馬鹿な僕だけど君のことを忘れないから」
寄りかかったまま、報復を終えたこととまた謝罪を告げていた。すると、ヴェンデッタの体が光り始めた。さきほど撃ち落したデッドイーターのどれかが死んだのだろう。その魂を吸収して進化が始まった。
ヴェンデッタ当人は目を瞑っているためか、変化に気づいていない。光りが強くなり、トレインごと包み込む。
しばらくして光りが収まっていく。
そこに出てきたのは、地面に蹲る下半身のない人だ。猪デザインのフードがついたロングコートを身に纏い、右手には小さなカボチャのランタンのペンダントトップがついた太い鎖のアクセサリーをつけている魔物だった。
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