10話 新たな進化
1章 魔物生活
10話 新たな進化
ヴェンデッタはトレインに触れて目を閉じ、別れを惜しんでいたはずがトレインの感触がいつの間にか消えて、冷たい地面に触れていることに不審に思う。ゆっくり目を開いて確認した。
「ん?なんで?・・・トレイン?消えた?どこ痛っ!」
トレインが消えてしまったことに混乱し思わず頭を上げると天井にゴンッとぶつけて、自分の頭を撫でる。穴の高さが大人が四つん這いになるぐらいの高さしかないのもあるし、ヴェンデッタが進化したため大きくなっているのも理由だ。ヴェンデッタはまた頭をぶつけないように穴から出て、周りを見回す。
「なんなんだよ。一体・・・そんなことよりトレインは・・・!?」
ふと下を見下ろすヴェンデッタの目に写ったのは体があった。そう体があるのだ。いままで顔に腕が生えているウィル・オー・ウィスプだったのに。
「また進化?トレインはもしかして、進化のときにトレインを取り込んだ?そういえば穴の中で頭をぶつけたし」
もう一度だけ、穴の中や周囲を見回すがトレインはなかった。ここにいてもどうしようもないため、ヴェンデッタは戦利品の袋を持って拠点へ向かう。
湖を覗き込むと、ヴェンデッタは被っているフードを撫でながらため息をついた。
「はぁ。トレインに似ている。触り心地もそうだ。僕自身は進化したのだろうとは推測できるけど。やっぱりそのときに取り込んだんだのかな。いやトレインがそうしてくれたのかも。僕が寂しくないようにとか。トレインは甘えん坊で食いしん坊だけど優しくて強い子だったからなぁ」
目を瞑ったヴェンデッタはトレインを思い出して苦笑する。思い出したトレインはいつもプキュプキュと楽しそうに鳴いていた。
「ありがとね、トレイン。一緒なら寂しくないよ」
最後にフードをひと撫ですると、気持ちを切り替えてフードを上げて自分の考察を続ける。
「うぉあ・・・足はないけど体がある。顔も髪も。真っ赤だけど。髭はないな。整った顔ではあるけど子供だろ、この顔立ちは。大人になったら格好良くなりそう」
綺麗な赤目、さらっとした長い赤髪をした可愛い顔立ちの少年だ。
「コートはトレインと。その下は裸だ。久しぶりの体。筋肉質じゃない、子供らしい体つきみたい」
ペタペタと自分を触っているヴェンデッタは、顔から首へと降りていく。そして、コートを捲って下半身を見る。
「くぅー!やっぱりない。満のときもスペンサーのときも使ってないけどさ。でも!進化したら、もしかしたら!とか思ったけど。魔物だしさ・・・はぁ」
股間から手を離して、がっかりとしてからコートを着直して付いているフードを被る。
「それで僕はジャック・オー・ランタンになったのか。上級?中級?そのあたりは見た覚えがないな。ムービーのレコーディング能力があるから見てれば覚えているはずだし。能力はランタンから不思議な炎を作りだす。ランタンどこだ?これ?右手のアクセサリー?これで?まぁ追々ゆっくりと。能力も増えてるし。ふふ。どんどん強くなっていくねぇ~♪」
喜色のある声を漏らすと、次に戦利品の確認をすることにした。
「さてさて。何があるのかなーっと。この袋はお金か。これは傷薬と包帯。これは冒険者協会の札だな。名前はレス。長剣の男のだ。階級は銀マイナスか。優秀だなー」
冒険者には階級があり、銅マイナス、銅、銅プラス、銀マイナス、銀、銀プラス、金マイナス、金、金プラスとなっている。金クラスは全冒険者のうち10%程度であり、破格の強さも持っている。
「へぇー。ここはルキル王国なんだ。アーヴァント王国の西の属国だっけ。ニクソーン?聞いたことのない名前の町だなってルキル王国自体よく知らないや」
自分のいる国を把握したヴェンデッタは、他に目ぼしいものがないのか荷物をまとめると自分の能力把握に費やした。
今は魔物で実験しているヴェンデッタは、見つけたコボルトの群れに気づかれないように木の上に佇む。
ヴェンデッタが右手を前に出すと、右手のアクセサリーの小さなランタンが輝いて光の塊が右手を覆う。ヴェンデッタが右手を握ると光がはじけて、1つのランタンが握られていた。
「やっぱり実戦は大事だね」
そのランタンは、全体が黒とオレンジで彩られている。底部の台座は走る猪が側面にいくつも描かれており、その上にカボチャの顔が口を三日月に裂いて笑っている。カボチャの上に魔女が被っているような帽子を被り、その帽子の頂点から太い鎖が繋がれていた。カボチャの口の中では、紫の炎が揺らめき、その炎の光りで目が怪しく光っているように見える。
「これを初めてやったときは正直ビビッた。でも、すごい便利」
ランタンを翳すとそこから紫の炎が飛び出していき、一旦頭上で一塊になる。そして、塊が雨雲のように広がると、その炎が下にいるコボルト達へ雨のように降り注ぐ。
「ガウッ!?」
「グガウ!」
「ガガウ!ガガウ!」
降って来たものに驚いたコボルト達は上を見上げて、ヴェンデッタを見つける。浮いているヴェンデッタにはどうしようもなく、数匹が石を投げつけることしかできていない。大半が逃げようと動きだすも、降って来た炎を浴びてしまっている。そして、その炎を浴びた途端に重しを乗せられたように苦しげに蹲っている。
「重き炎。この炎に触れると絡み付いて消すことができない。そして、その炎に触れた場所は焼かれることなく、重さのみを増す。ってね。筋トレに便利かな。燃えそうで怖いけど。あと逃走防止とか。重さはこっちの意思次第」
「ガアアアッ!」
重さを増えるようにと念じると跪いているコボルト達が悲鳴をあげる。コボルト達が次第に地面へめり込んでいき、ついには耐え切れず潰れていく。そして、全員が潰れると魂を吸収しながらランタンをアクセサリーに戻して、ヴェンデッタは成果に満足そうに頷いた。
「うん。成果は上々と。圧倒的ではないかな。うん。魔力も増えたし。なにより、この体になってからの楽しみ!食べれる!」
ヴェンデッタは顔がある。目、鼻、そして口があるのだ。すぐ傍にある青に黄色い線の入った果実を採ってひと齧りする。しゃくりと音を立て、甘くて少し酸味のある瑞々しい果汁が口に広がった。
「もぐもぐ。んふ。美味しい。本当に久しぶりだな。食べるって最高!」
食べきったあと、もう一つ採って食べながら狩りの相手を探しに行こうとしたら、こちらに向かってくる魔力があるのを察知する。
「大きな魔力がこっちに来てる。どんな魔物だろ?」
隠蔽魔術を使用してから姿を茂みに隠して待っていると姿を現した。
鷹の顔と翼と体に獅子の下半身をもつ。火を噴き、突風を起こす。上級の魔物、グリフォンだ。
「うへあ。大物でしょ?コボルトの血の匂いに魅かれてきたのかな。負けるつもりはないけどね」
ヴェンデッタが実体化して手にしたのは弓と矢だ。ヒーローアクション映画で超人達だらけの中で唯一鍛え抜かれただけの弓使いの弓矢だ。弓は頑丈で殴り合いしても壊れない。レーザーサイトや照準器、スイッチがついてる。矢は鏃に様々な効果のあるものへ付け換えれる特殊なもの。
矢を爆発物の鏃に付け替えて、茂みからグリフォンに狙いつける。その姿が様になっており、達人のように見える。鼻から息を深く吸い、口から吐くと息を止める。
グリフォンがコボルトの血の匂いで向かっていく。コボルトの死体を発見すると向かっていった。グリフォンが向かっている最中、コボルトの死体のすぐ傍で黒い人影が現れブレイクダンスを踊りだした。そのキレッキレに踊る人影にグリフォンが気づいて、そのまま加速して一気に上空から襲い掛かる。
グリフォンが鋭い爪で人影を押しつぶした瞬間に人影が霧散し、そこへ狙い済まされたヴェンデッタの矢が放たれる。
ドパンッ!
豪速で放たれた矢はグリフォンの首に刺さると爆ぜて、首が吹き飛んだ。精密射撃と思えるほどにピンポイントで、ヴェンデッタの狙いどおりの場所に当たった。
「ひゅー。矢もすごいけど、リプレイ2の効果はすごいね。練習いらないんだもんな」
リプレイ2。リプレイの派生能力で、映画の登場人物達の動きを自分に取り込むことができる。動きのみで、特殊な力、例えば目から光線を出すとか腕から爪を出すなどはできない。
人影もヴェンデッタの新しい能力だ。リプレイ・ドールといい、1体だけ見た目が上から下まで真っ黒で口がついている人形を魔力で作り出す。動きはヴェンデッタの思いのままだ。身体能力は高くてリプレイ2の能力を付与できるので、戦力としても十分使える。今回は囮としてキレッキレのダンスさせただけだが。
ちなみに話すことはできない。
「リプレイ・ドールでの囮にも問題なしと。魔力の消費がそれなりに大きいから使いどころを気をつけないと」
今後の能力の扱いを考えつつ、次の狩りへ向かった。
ここはルキル王国の町ニクーソン。その町にある冒険者協会ニクーソン支部の支部長室。
そこには大きな執務机とその机に見合った椅子がある。壁に沿って並んだ本棚にはいくつもの書類がファイリングされて並んでいた。
今その部屋には2人いる。1人は椅子に座る男性。もう1人は女性だ。
「それは本当か」
「はい。銀マイナスの冒険者パーティーが戻ってきていません。依頼達成期限を超過して姿を見せていないので簡単な捜索を行いました。確証はありませんが、依頼達成するために入ったと聞いた森で戦闘の痕跡だけは見つけました。死体や持ち物などはありませんでしたが、かなりの出血のあとはありました」
聞きなおした男性は、支部長のアルダー。金髪を短く刈り込んでおり、柔らかい目元だが、その青い目の奥には鋭さが宿っている。中年であるが芯のしっかりした細身の体格をしている。
既に引退済みだが冒険者の復帰しても十分やっていけるだけの強者の風格が備わっている。独身であり、受付嬢、女性冒険者、町の住人の女性から狙われているのだが、デートぐらいはするものの特定の女性はいまだ作っていない。そのため、一部の女性から男好きなのではという不名誉な噂もちらほら。
答えた女性は、支部長付き秘書兼受付嬢のまとめ役であるルース。ゆるふわセミロングの茶髪、鋭く意志の強そうな目付きをしている美人だ。その目の印象どおり性格も気が強いのだが、それだけでなく面倒見のよく姉御肌であるので支部内で男女共に人気が高い。また男性冒険者からも蔑まれたい、踏まれたいという声がちらほら。本人はとても遺憾であるそうだ。
「そうか。相手はわかりそうか?他国からのスパイや盗賊の可能性は?」
「戦闘の痕跡からは相手がどのようなものかはわかりません。ただ、人であれ、魔物であれ、戦いはあったことと手傷をどちらかが負ったことだけがわかっていますね」
「うーん。なら、彼らの捜索をもうしばらく継続するか。それと同時に彼らは死んだと仮定しての敵対者を調査特定することをギルドから依頼を出そう」
「わかりました。他にありますか?」
「はぁ。彼らとは・・・付き合いがあってな。助かっててほしいが。難しいだろうな」
「希望は捨てずにいましょう。セルンはセンスのあるいい子でしたし。なんとか生き延びているでしょう」
哀愁の色を宿した遠い目をしているアルダー。セルンとの思い出して悲しそうにするルース。
「調査は優秀な冒険者に頼まないとな。ちょうど金マイナスのパーティーが暇していただろう」
「はい。彼らならもう少しで金クラスに到達しそうな勢いがある手練れですから。最悪情報だけでも持って帰れるでしょう。声をかけてみます」
「そうだな。じゃあ、いますぐに書類を作るから待っててくれ」
「わかりました」
ヴェンデッタの知らぬところで、また脅威に成りえそうな者達が森へやってくることになった。
読んでいただき、ありがとうございます。
今日で平成は最後ですね。
残り数時間がよい時間でありますように。




