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3話
「確かにそうですね。泣きそうな感じはしてたんですけど、あれ以上…」
西原は途中で言葉を切った。店員が注文していた物を次々とテーブルを並べると、すぐに去っていった。
「あれ以上一緒に居ると…仕事行かせるの嫌になりそうだったんですよ」
そう言って笑みを浮かべると、冬四郎の方を見た。冬四郎は、ちびちびと焼酎を呑みながら西原の話を聞いている。何を思ってるのか分からない、無表情だった。
「あ、けど…むつとは何にもないですよ。本当に。俺、軽いかもしれないですし、宮前さんも知ってる通りむつに手出そうとしてますけどね。この前は何も…出来なかったんですよ」
山上が呑み干したビールのジョッキをテーブルの端に置いた西原は、溜め息をついた。
「むつは、そうは思ってないみたいな話ぶりだったぞ?」
焼酎を呑み始めた山上が、疑うような目を西原に向けていた。西原は疑われてるのを分かっているのか、首を横に振るだけだった。
「泊まったのは本当ですよ。むつも服全部脱いで寝ちゃいましたからね」
西原がそう報告すると冬四郎が、少しむせておしぼりで口元をふいていた。




