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ベルフが冒険者として好き勝手にやらかしていくお話  作者: 色々大佐
第三章 ベルフ護衛をする

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第八十四話 ボス戦 後編

 玉座の間に戻ったベルフがエメラを見据える。そこには、火と水の超高位精霊が二体、次にシルフを大きくした感じの女性の精霊が空中に浮かぶ感じで一体いた。

 それはエルフのような長い耳をしているパツキン女性姿の精霊で、白い布のようなものを羽織っているなんか全く新しい奴である。


「おいサプライズ、なんか増えてんぞ」

『見た限りあれは風系の精霊ですね。あのアマ、また強くなっていやがります』


 また一段とベルフにとって悪くなっているこの状況の中でエメラは油断せず精霊を配置していた。


 その証拠に、水の精霊が作り出した水球が部屋のアチコチに散らばっており、その水球から高圧の水流を多角的に発射する為の準備が整えられている。シルフ達は部屋の上部に移動して、これまた人間の死角に位置するところの上部を取っているし、炎の精霊は相も変わらずエメラの傍で鉄壁のボディーガード役を、他の精霊たちもそれぞれ必殺の立ち位置を取っていた。

 詰めの段階まできっちりと獲物を刈り取ろうとするその有様は百獣の王であるライオンの厳しさを思わせた。


「大丈夫、どれだけ私が有利になっても確実に遊び無く仕留めるつもりで行くから安心していいわよベルフ」


 少し前と比べて確実に戦士としての心構えができているエメラの姿にベルフが感心する。

「なるほど確かに油断も隙もない、この少しの間にグラップラーとして立派に成長したのが見て取れるな。だがエメラ、お前には一つ大きなものが欠けている、それが何かわかるか?」

「私に欠けているもの? 前衛役の戦士かしら。それもベルフが私のパートナーになれば埋めることが出来るし、特に問題ないわね」


 エメラの言葉にベルフが首を横に振る。

「惜しい、限りなく答えに近いが間違いだ。お前に欠けているもの、それは……命を賭けて共に戦ってくれる仲間だ」


 と、そこでベルフがパチっと指を鳴らす。

 そして、合図を受けたサプライズがその音と同時に動きを見せた。

『あー、あー、あーーー、よし、声の高さはこんなもんですね。では行きますよー』


 サプライズの声にエメラが驚いた、なぜならその声は――自分の声と全く同じであったからだ。


 サプライズがエメラの声で話し始めた。

『この程度の試しで倒れてしまうなんて拍子抜けね。私の事を好きだと言うから期待していたのにこれで終わりなのかしら』


 それは大きな声だった。まるで、エメラ本人が大声で話しているような、そう錯覚する程の大きな声だ。


『人と言うのは難所を超えればそこに大きな自由が待っているものなの。貴方にはその難所を超える心構えができてないってことなのかしら、この程度で倒れるようなら最初から期待させないでほしいわ。貴方の愛の告白……本当に嬉しかったんだから』


 これら意味不明なサプライズの行動にエメラが戸惑う。だがすぐにサプライズの行動の答えが帰ってきた。それは先程吹き飛ばされて部屋の外に飛び出したカーンが作った壁の穴、そこから一人の男が帰還してきた事でエメラにも理解できた。


「本当かエメラさん」


 それはズタボロの男だった。着ていたタキシードは股間の大事な部分を隠している以外は全て破けている。手に持っていた花はとうに炭となって空気中に塵となって霧散しているし、既に外見的な要素からは半裸の変態以外は判別できない状態だ。

 そうその男は、先ほどエメラにとどめを刺されたはずのカーンであった。


「あの激しい攻撃がただの試練だったのかと聞いている!?」


 エメラの視線はその喚いている馬鹿ではなく、ベルフに向いていた。ベルフの方はと言うとチンピラみたいな顔つきでエメラを見返す。


「エメラさんからの返答がない、やはり俺の幻聴なのか……そりゃそうだよな」


 気力だけで立ち上がっていたカーンではあったが、絶望を感じてまた崩れ落ちそうになる。

 しかし、そこでベルフがカーンに声をかけた。

「幻聴じゃない、俺もお前と同じ言葉を聞いた」


 縋るような目でカーンがベルフを見る。その視線にベルフはキリッと顔つきを締める。

「今、なんて言った?」

「俺も同じ言葉を聞いたと言ったんだカーン。エメラは確かにお前が聞いたそのままを言っていた」

『その通りです私も聞きました。貴方への攻撃は全て、ただの試練だと』

 サプライズも声色を元に戻してベルフの意見に同意する。


 ベルフがカーンに向けて優しい目をしていた。目元の力を優しく抜いた、何とも言えない目だ。

「おめでとうカーン。お前の気持ちはエメラに届いていたんだ」


 カーンという男はこう見えても一流の冒険者である。空気が読めない性格とストーカー気質というところ以外は完璧とも言える冒険者だ。そんなカーンであるから、エメラからの攻撃にガチの殺意が篭っていた事に気がついていた。故に自身の告白が失敗したと理解して、さっきまで心理的なストレスのせいで戦闘不能になっていたのだ。


「いや、だが、そんなはずは」

「お前の耳は飾りなのかカーン? エメラが勇気を出して本音を吐露したのに無駄にする気か」

「じゃあ本当にさっきの言葉は真実……エメラさんは俺のことが好きで、俺がエメラさんの元に辿り着いたらあらゆる全ての性欲を受け止めてくれるというあの言葉は本当だったんだな!!」


 ベルフが目を瞑って少し考える。あれ、サプライズそんなこと言ってたっけと少し悩んだ後に彼はもう一度カーンを見返した。

「その通りだ」

『その通りです』

「よっしゃあああああ!!」


 エメラの方は凄い顔つきでベルフを見ていた。

 それをあえて視界へ入れないようにして、ベルフの方も突撃の準備を整える。


「はーっ全くエメラのやつは人の力を信じていなさ過ぎるんだよなー、なあサプライズ」

『そのとおりですねベルフ様、人間というのは性欲と思い込みで神さえも倒せる生物ですから、それを利用しない手はありませんよ。おっあのバカが突撃するみたいです、私達も行きましょう』


 ゴキブリのような生命力を復活させたカーンが全力でエメラの元へと駆け抜ける。

 身体能力、戦闘経験共に一流であるカーンは、邪魔をする精霊からの攻撃を巧みにいなし続けていた。

 水球からの水流を拳で弾き、シルフの作り上げた風刃を肌で弾き、ノームの迫り来る弾丸を拳で迎撃してと、一流の冒険者としての力をそこに見せていた。そう、愛しい女性に向けた性欲の為に今まで身に付けてきた全てをだ。


 目を血走らせて自身に迫ってくる変態にエメラが生理的な嫌悪を感じるのも無理はない。彼女は切り札とも言える風の高位精霊をカーンに向けて使ってしまう。


「あれを全力で止めなさい!!」


 エルフのような姿のこの精霊はエメラが手に入れた新しい力の一つである。先程カーンを倒したのもこの精霊の力が大きい。

 シルフでは作り出せない規模の竜巻がそこに生まれようとしている。その予兆としてカーンの周囲に風の渦が作り出されると瞬間、竜巻となって玉座の間どころか城の上部を突き破る竜巻が発生した。


 サプライズの建築魔法で強化補修された城であるが、この一撃で城の上部が破壊される。だが、破壊はたしかにされたが、すぐにまた元通りの建物に修復が始まっていた。

 現に、玉座の間の天井部が完全に破壊されて空まで見えていたのに、もう建物が修復されたのか天井が塞がれようとしている。


「ちょっとキモイわね、サプライズは一体どんな魔法をかけてこんなキモイ直し方をしているのかしら……」


 と、そこで気がついた。そうだベルフとサプライズはどこに、とエメラが考えると、当のベルフはエメラの左手側数メートルの位置まで来ていた。そのベルフをエメラが守っている炎の精霊が殴りつけようとするが、逆にベルフの方はエメラを無視して、その炎の精霊の腕を剣で斬りつけた。


「よしっこれなら攻撃が通じるみたいだ」

『いくら精霊に実体がないとは言え、その剣なら余裕でいけますね。あと数回斬りつければそいつも倒せそうっす』


 ベルフに斬りつけられた炎の精霊は片腕がなくなっていた。実体がなく、通常の物理攻撃であれば何も問題がない精霊であるが、ベルフの持っている聖剣は放って置いても周囲からエネルギーを吸い取る危険物だ。それが精霊に直接触れればどうなるか? はっきり言えば、エネルギーの塊である精霊にとっては天敵とも言える効果を発揮していた。


「お前の精霊、一つずつ削り殺してやろうじゃないかエメラ」

『急がば回れってやつですなー、丸裸にして串刺しにしてやりますよクソ女がああああ』


 ベルフとサプライズが邪悪な声を発するがエメラの方も負けていなかった。


「じゃあ私はベルフの手足を一本ずつ切り取っていくわ。そうだ、どうせエリクサーで治るしベルフが素直になるまで切った手足はそのままにして私と一緒にいるのも良いかもしれないわね」

『脳みそにクソが詰まっているにしてはいいアイディアですね。後はその脳みその容量がチンパンジー並になれば猿レベルの反省もできるようになると思いますよ』

「そう、ありがとう。サプライズ、貴女は邪魔だから何が何でもベルフの体内から消すつもりだから期待しててね」


 女同士の冷たいバトルが開始されている中でベルフも口を出してきた。

「まあ俺ばかりを気にしているのもいいが、そんな余裕はあるのか? この場所にはもう一人お前の敵がいるんだぞ」


 まさかと思ったエメラが先程の竜巻の中心地点を見る。そこには、先ほどまで無かった石の塊が存在していた。その石の塊からパラパラと石がこそげ落ちていくと中からカーン本体がでてきた。


 竜巻から守ってくれた石をカーンが見つめている。

「一体何が、俺は確かに精霊からの竜巻を食らったはず、なぜ無事にこの場所にいるんだ」


 カーンが不思議に思うのも無理はない。これは彼が竜巻を食らう直前にサプライズが建築魔法でカーンの周囲に石を集めて竜巻で飛ばされないように即座に彼を守ったからであり、彼からしてみれば何が起こったかわからないからだ。


 そのカーンに全てを知っているベルフが語りかける。

「エメラのツンデレだ」

「ツンデレだと!!」

「その通り、お前に厳しい試練を与える一方でお前を愛する気持ちもある。その二つがせめぎ合った結果、つい手助けをしてしまったんだ」

『その通りです。乙女心は複雑といいますから、ついつい愛する男性に手心を加えてしまうのも無理はありません』

「エメラさん本当ですか!! 貴女が助けてくれたんですか!!」


 カーンに対してもう汚物としか思っていないエメラが仇を見るような目で言い放つ

「はあ何いってんの、そんなわけな」

『そんなわけないでしょ、別にあんたなんか助ける気なかったわよ』

 そこで被せるようにサプライズがエメラの声色を真似て大声で喋ってきた。


「サプライズ、あんた何を――」

『私の愛した男が、試練の最中に周りに手助けされる情けない人なんて、そんなわけないわ。ただちょっと石に閉じ込めようとしただけであって、貴方を助けようなんて全然そんな気は無かったんだからね』


 カーンはもう確信していた。もしかして、いや間違いない、これは確実だ。

『だから……もう情けない姿を私に見せないで』


 やりきった。ベルフとサプライズ双方の心に達成感が満ち足りていた。このタイミングこの状況、そのベルフの心に従うかのように状況が流れていく。


「あんたサプライズ何言ってんのよ!! そこの変態言っとくけど私はあんたのこと死ぬほど嫌いだから、わかった? さっきのはこの邪悪なナノマシンが勝手に言ったことだからね、わかっているんでしょうね!!」


 エメラからの言葉にカーンが神妙に頷いた。

「わかってる、もう全てわかってるから安心して欲しい。エメラさん、あなたは……俺を愛してる!!」


 プツーンと音がした。言わずもがな、エメラの血管が切れた音だ。


「俺は今、貴女の試練を超えるために人の限界を超える。必ず貴方のもとに辿りつくと誓う」

 その態度にベルフが勝ちを確信する。

「これで俺達の勝ちは間違いないな」

『お見事ですよベルフ様、自分一人で勝てないのなら、他人を詐術でやる気にさせる。見てくださいよあのゴミを、もう私達が何もしなくても特に価値のないあいつの魂を一欠片まで使い切ること間違いないです』


 さーて後は勝つまで頑張るかーとベルフが舐め腐っているとエメラがポツリと言った。

「……お仕置き」

 と、その瞬間、ベルフのいた場所に向かって何かが通り過ぎた。それをいち早く察知したベルフが上空に飛ぶと、逃げそびれたカーンが吹き飛ばされる。


 そのまま壁にぶつかったカーンに追撃が行われていた。半透明な何かがカーンを床に思いっきり叩きつけている。見えにくい何かがカーンを縦横無尽に玉座の間の床や壁、天井へとぶつけている。それは、前にエメラが見せた風の精霊であるシルフが行っていたものとよりも、暴力的なものに見えた。


 天井まで飛んだベルフが地上の様子を眺める。

「なんだ何が起こっている」

『シルフの魔法でしょうか。それにしてはやけに統制がされすぎてるような』


 そのままスタンと地上まで落ちると、ベルフはじーっと目を凝らした。

『うわすっげ。あれ、精霊とかじゃなくてあの女が念動力であのバカを操って叩きつけているだけですね。あいつ本当に人間っすか』


 また新しい技を身に付けちゃったエメラに、今日何度目かの既視感をベルフが覚えた。

「なあサプライズ」

『何でしょうかベルフ様』

「もしかしてまーたやっちゃったんじゃね?」


 ちらりとエメラを見るとさっきよりも数段強い威圧感を発していた。

『さすが黒龍に選ばれるだけの才能の持ち主ですね。あいつまじで底が見えません』

「味方だったら頼もしいのに、現状では特にありがたくもない才能だな」


 先程までカーンを動かしていた念動力が今度はベルフに向かってきた。それを聖剣で斬り捨てて両断すると、切った部分からエメラの魔力がベルフの体内に流れ込んでくる。


『防御に専念している内は特に問題はないですね。冷静になればこの剣とあの女の魔法はこちらにとって相性がいいみたいですから――ただ問題なのは』

「問題なのは?」

『遠距離の物理攻撃中心でこられるとちょっとまずいです』


 今度はベルフに向かって高圧の水流が発射されてきた。部屋中に散らばった水球から上空や地上からと多角的に狙いをつけて発射されてくる。


「どうにも魔法だとベルフとは相性が悪いみたいだからこっち中心で間違いなさそうね」


 最初のときと同じ状況、いや高位の精霊が三体まで出ているとあって最初に追いつめられたときよりも遥かにまずい状態になっていた。


「カーンのやつはどうした、ちょっと魔力で殴られた程度で死んだのか、くそっ全く役に立たねえな」

『大丈夫ですベルフ様、生命反応はたしかにあります。見ててください、すぐにあいつは起き上がってきますよ』


 と、そうしたところでカーンが元気よく立ち上がってきた。先程殴られたのもなんのその、まだまだ闘志が目いっぱいに宿っている。


「少し驚いたがこの程度で――」

「あんたはベルフとは逆で魔法中心のほうが良さそうね」


 魔法中心で精霊達がカーンへと押し寄せてきた。火、風、雷と大なり小なりの精霊たちが魔法を使いながらカーンに群がっている。ベルフであれば聖剣で魔力を吸収するなり切り捨てられたところであるが、カーンの方は物理中心である。多少はエネルギー体に向けた攻撃手段は持っていたが量に圧倒されて袋叩きになっていた。


 それを見ながらベルフが呟く。

「……もしかして、あいつが死んだらあの精霊たちもこっちに来んのか?」

『プラス思考で考えましょうベルフ様、あれだけの精霊を使わないと足止めできないほどの男が私達の仲間なんですよ』


 無駄口を叩いているベルフであったが、もう余裕はなくなっていた。

 高圧の水流だけではない、ノーム達もその石の体をベルフへとぶつけ始めている。まだ致命打はないが、先程から全力で動かないとこれらを避けきれていなかった。ベルフの息も上がり始めて体力の尽きる問題も出始めている。


 そのベルフの体が疲れ始めたところを狙ってエメラが高位の風の精霊を動かした。

 死角となるベルフの背後斜め上空に精霊を移動させるとベルフの手足を狙って無数の鎌のような風刃を作り上げる。それらを対空させながら数を揃えると、一斉にベルフへと向かって放った。


 それに気づいたベルフがその風刃の群れに向けて、体を一回転させる勢いで剣を一閃させる。剣に当たった風刃だけではなくその軌道から離れている風刃達も魔力を吸収されて、ただの突風へと変わった。


 必殺の奇襲が失敗したエメラであるが、その顔には悔しさがなかった。

「ああ、そういうこと、魔力で作り上げられた部分だけが消失されるってわけね。じゃあこっちならどうかしら」


 ベルフの周囲に竜巻の気配がする。風がベルフの周りをチリチリと動く気配だ。

「サプライズ!!」

『なんでしょう!!』

「これは無理!!」

『わかりました!!』


 そして竜巻がベルフを覆い尽くした。

 この魔法は魔力で風に切れ味を持たせるとかそういうものではない。単純に風そのものを動かしているだけであり仮に魔力を吸収したとしても残された竜巻そのものは消せないのだ。なぜなら、魔力が働くのは竜巻が動くまでであり、そこからは魔力は一切関係ないのである。


 一気に部屋の中を竜巻が覆い尽くすと先程以上の規模で城の上部を吹き飛ばした。しかし先程と違う点がもう一つある。それは、その持続時間だ。先程はすぐに消えてしまった竜巻だが、今は何十秒もその場にとどまり続けている。仮に先ほどと同じように石の鎧で耐えようと思ったとしても、エメラはそれ含めてすべて吹き飛ばす心算であった。


 そして次第に竜巻が消え始める。それに合わせてエメラが上空を見つめていると人影が落ちてくるのが見えた。次第にそれが地上に近づいてくると勢い良く地面へと突撃した。

 その人物をエメラは確認するがそれはベルフではなかった、竜巻に巻き込まれたカーンであった。


 しばらく待っても目当ての人物であるベルフが落ちてこないのを確認すると、エメラが少し思案する。そして、あっと言う声をだした。


「なるほど、あの場面でよく考えつくものだわ」


 エメラが目をつぶると地面に手を当てた。地面が幾らか蠢いた後に、エメラがカッと目を開けた。

「そこ!!」


 エメラが叫ぶのと同時に地面から一人の男が飛び出てきた。

 ポーンという擬音が出そうなほど勢い良く出てきたその男が地面へとドシャッと激突する。

 そう、その飛び出してきた男こそ、この作品の主人公であるベルフ・ロングランである。


 いてててと地面にぶつかった鼻をベルフが撫でる。

「俺の高貴な鼻が曲がったらどうしてくれるんだ。ふざけんなよエメラ」

『全くですよ、ベルフ様の玉のような御肌が傷ついちゃったじゃないですか、責任取って私達を他国まで逃がせやおらー』


 ふんっと鼻でエメラがあしらう

「そういえばベルフ達はドラゴンを地下へと落としていたわね。いざとなれば自分達も地下行くことも出来たってわけか。で、その逃げ道も潰されたけどどうするの?」


 ちいっとベルフが悪態をつく。ぶっちゃけ、ベルフとしてはいざとなればイチかバチかで隙を付いて逃げるつもりであった。だが、そのイチかバチかが今完全に潰されてしまった。


「何とかならないかサプライズ、ほんの少し隙を付いてあいつに魔法をかければ勝てるのに」

『難しいですね。魔法を掛けるのが難しいから周りの精霊を削ろうとしましたが、ちょいと無理くさいっす、カーンの野郎もあんな感じになってますし』


 頼りにならないタンク役であるカーンは現在絶賛気絶中。今回は先程と違って完全なグロッキーであり、すぐに目を覚ますのは期待できそうになかった。

 

 しょうがないと覚悟を決めたベルフがエメラに向き直る。

「わかったエメラ俺の負けだ。降参する、これから仲良くやろう」


 と、そうしてベルフがエメラへと歩き始めるとエメラ自身が待ったを掛けた。

「こっちにこないでベルフ」

「俺のことが好きなんだろ? それなら近づいても何も問題ないはずだが」

「だってベルフ、さっきから私に近づこうとしてたでしょ。恐らく私に近づいて何かしようとしてたんじゃない?」


 先程からのベルフの動きをエメラは冷静に見ていた。その結果、ベルフの目的が自身に近づくことだと彼女は見抜いていた。


「私のものになれだとか近づくなとか意見がコロコロ変わるやつだな。それじゃあ俺にどうしろっていうんだ」

「そうね、サプライズが消えたら問題ない感じがするわ。大丈夫、今の私ならなんとなくそれが出来る気がするから」


 その言葉にベルフが一歩後ろに下がった。顔からは冷や汗が流れ落ちる。

『ベルフ様。あの女なら私を消すことくらい出来る気がします』

「む、むむむ……」

「どうしたのベルフ、負けを認めたんでしょ。その場から動かないでねすぐに済むから」


 エメラが両手に魔力を溜め始める。サプライズをベルフの体内から消すための準備を始めているのだ。

「多少乱暴になるからちょっと内臓の幾つかが破裂するかも知れないけど大丈夫、どうせエリクサーがあるから。ベルフがどんな身体になっても完治するから。だから私達の為にその邪魔者を早く消しましょうか」


 ベルフは必死に対応策を考えている。

「それと、その剣も無くしたほうがいいわね。邪魔になりそうだから壊すわ」


 エメラの言葉に聖剣パールがキィィィンと鳴り始めた。だが、前と比べて本調子ではないが故に聖剣パールもこれ以上の力を引き出すことができない。


「どうしたのベルフ、早く剣を捨てて投降してくれないかしら」


 ベルフは冷や汗を掻きながら気づいていた、よく見ればエメラはかなりこちらに近づいていることに。今が突撃するチャンスだということに。


 ベルフが絞り出すように言う。

「さ」

「さ?」

「サプライズ合わせろ!!」


 剣を構えてベルフがまっすぐに突進する、彼我の距離10メートルちょいといった所だ。全力のベルフならエメラが瞬きするまでに到達出来る。だがエメラの周りには多数の精霊がいた。これらはエメラ自身が気絶しようが寝ていようがどんな状態でも自動で彼女を守ってくれる完璧な護衛たちである。


 まずシルフがベルフの体勢を崩すために風を動かした。だが手足に絡みつく風を強引に筋力で突破する。次にシルフの風で速度の落ちたベルフに石の身体を持ったノーム達が殺到する。それらを頭部などの致命傷になる部分だけを避けて突き進む。

 ベルフが距離をさらに縮めたところでエメラの傍らにいる炎の精霊が動いた。片腕となっている炎の精霊が残りの腕を地面に突き刺すと、ベルフの周囲の床がマグマのように熱を持って溶け始めた。

 ジャンプで溶岩地帯となったその床を飛び越えると、シルフ含む風の精霊達が空中で身動きの取れないベルフを弾き飛ばそうとする。


「今だ」


 ブンッという音がするとベルフの姿が消える。短距離のテレポート魔法である。射程距離が2メートルと短いながらも、この状況では王手を取れる一手である。エメラの目の前まで現れたベルフが勝利を確信する。だが次の瞬間、残った水の高位精霊が水球から高圧の水流を幾つも飛ばしてベルフの手足を貫いた。


 ベルフとしても油断していたわけではない、ちゃんと警戒はしていた。ただ少し予想と違ったのは一つの水球から三つ以上は高圧の水流が槍のように飛んできたという点である。


「凄いわねベルフ、テレポートまでできるだなんて。でも私も切り札は残していたのよ。確実に仕留めるその時までずーっと隠していたの」


 ドシャっと倒れたベルフであるが、退避の行動は早かった。完全に叩き潰される前に動く方の手足でその場から一気に地面を叩いて跳躍で遠ざかる。だが、その時に手を滑らせたのか聖剣がベルフの手から離れて遠くへ飛んでいってしまった。


 跳躍の着地地点へと倒れ込むように地面に着地すると、サプライズが回復魔法を掛ける

『大丈夫っすかベルフ様、とりあえず手足の穴だけでも塞いでおきます』

 サプライズが回復魔法を掛けるとみるみるうちにベルフの傷跡が埋められていった。だが、それらは血の流出を止めるための応急処置であり、怪我そのものが完全に治ったわけではない。


 倒れているベルフにエメラが近づいてきた。

「これでチェックメイトね」


 かつかつとエメラが歩いてくるが、途中でピタリと歩みを止めた。

「無闇に此処から先に近づくのは危険な気がするの、そんな状態なのに全く安心できないのよ。もうチェックメイトのはずなのに貴方を見ていると全然そんな気がしないの……そんな所が本当に素敵なのよベルフ、絶対に私だけのものにするから」

 見ればエメラの顔が紅潮していた。


「俺に戦う力はもうないんだが……過大評価もそれくらいにしてくれ」

『発情してんじゃねえぞこの雌豚がッッ……とは言ってもこれはどうしようもないですな。ベルフ様、短い間でしたけど満足の行く時間でした。できればこれから先もベルフ様に仕えたかったのですが私はここまでのようです』

「サプライズ、俺も楽しかったぞ」


 サプライズが珍しく殊勝な言葉を出していた。

『悔しいですがベルフ様を任せますよエメラ。さあ早く私を消しなさい、もう抵抗らしい抵抗もできません、一思いにやってください』

「そう、一思いにね。で、貴女を消すために魔力を貯めているその隙を突いて私を殺す気なのね」


 ギクッという心の声が聞こえた。

『何のことですかねー。私はもう完全に諦めているのですよ』

「考えてみたの、あの剣が魔法を消しているのか吸収しているのか。もしも吸収していたとしたらその分の魔力はどこに行ったのかしら。あのテレポートとベルフへの回復魔法だけで消費できたのかしら。例えば、今でもベルフの体内に吸収した魔力が残っていたりとかしない?」

『……』

「それと、ベルフの怪我も本当に動けないほどなのかしら。骨や重要な筋肉を貫通していたのなら確かに動けないだろうけど、そうじゃないなら、動くのに支障のないところを選んでダメージを軽減していたら」

「……」

『……』


 エメラが後ずさりして元の玉座の位置まで戻った。

「どうすれば完全に危険無く勝てるのかしら……そう言えばベルフ、ドラゴンが二体ほど地下に落とされていたわね。それが例えば今ここに現れたとしたらどう思う?」

「んーっ呼ぶ必要もないと思うな。俺はもうこの通りだしわざわざそんなことをする必要が無いのは明白だ」

『そのとおりですよ、なんでわざわざそんな事するんですか。こっちは完全に降参した上で虫の息だというのに。いくらなんでも警戒しすぎなんですよ』


 それを聞いたエメラの返答はただ一つ、地面にドラゴン召喚の魔法陣を浮かび上がらせる事だった。

「もう落とし穴は使えないわよ。建築魔法だっけ? それのコツもさっきベルフを地下から引き上げる時に覚えたから。例えばほら、天井を見てみなさい」


 エメラがそういうと、二度目の竜巻で完全にぶっ壊れていた城の上部分が蠢いて完全に元通りになった。その修復スピードはサプライズが回復させたときよりも数段早かった。


『神はなぜこんな女にここまでの才能を与えたのか。せめてベルフ様に迷惑にならない範囲で与えろや』

「こうなりゃ仕方ねえサプライズ、カーンの奴を叩き起こせ、もうエメラの音声で何でもかんでも好き勝手言えば目覚めんだろ、あんなち○○こやろうはよ」

『わっかりましたー』


 先程まで倒れていたベルフが跳ね起きる。サプライズの方も元気よくエメラの音声でカーンに好き勝手語り続けていた。


 それを見ていたエメラがやっぱりねという顔をする。

「ぜんっぜんあきらめてないじゃないの二人共」


『あったりまえですよ。誰がてめえなんぞにベルフ様を預けるっていうんですか。油断していればその喉笛掻っ切ってやったっつうのに、運命だのなんだの関係あるかおらー』

「はあ、俺は傷ついたぞエメラ。俺のことを愛しているんだろ? それなら疑わずにいてほしかったなー、これはあれだよ、怒りのパワーで秘められた力が出ちゃいましたってやつだよ。さっきまでは本当に身体が動かなかったって言うのにエメラが疑うからなー、心が痛いなーー」


 そう言ってる間にドラゴンの召喚陣が完成されようとしていた。

『どうしましょうベルフ様、カーンの野郎起きませんよ』

「こうなったらドラゴンが現れたら奴の身体をドラゴンの口に突っ込むぞ、楽しいお食事の時間の間だけでもこっちには襲って来ねえだろ」

『これがラストチャンスってやつですか。あっ、でも聖剣のやつが遠くに行っちまってますよベルフ様。あれを手に入れないとこっちの戦力が激減です』

「そうだった、あれがないと精霊と戦えねえ」


 そこでベルフが聖剣を取りに行こうとすると、ベルフの前に精霊達が立ちふさがった。


「行かせると思うのベルフ。今のあなたに精霊達を突破できるのかしら」

「本当に完全に詰ませる気でいるんだな」

『少しくらいこっちに優しさを見せていいんじゃないんですか。私が消える前の冥土の土産として聖剣くらいはベルフ様に渡しても問題ないと思いますよ間違いありません』


 戯言を無視するとエメラがドラゴンの召喚陣を作り終えた。

「さあベルフ、これで終わり。ドラゴン二体が追加よ。それと、ドラゴンはどちらかと言うと脂肪分の多い肉を好むから、その筋肉馬鹿は餌にならないと思うわよ。まあ、力も運もなかったと思って諦めなさい」


 エメラからの宣告にベルフもサプライズも諦めていなかった。ベルフはカーンのやつを担ぎ上げて出てくるドラゴンの口に向かってぶん投げようとしているし、サプライズの方はエメラの声でカーンに卑猥な言葉を語り続けている。


 だが二人の努力も虚しく、召喚陣から二体のドラゴンがついに出てきてしまった。そう、ベルフとサプライズが地下に落としたあの二体が揃って召喚陣から出てきたのだ。ただ少し様子が違うとすれば、その二体のドラゴンは一人の人間を巡って争っている状態だった。


「グギャアアアアアアアアアアアアアア」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアア」


 暴れ狂うドラゴンの咆哮が聞こえる。召喚陣から現れたドラゴンはエメラの声が全く聞けないほどに興奮していた。周りにエメラがいるだとか精霊がいるだとか全く関係なく、お互いが雌雄を決すべく戦っていた。


「は? え? なにこれ」

 エメラが予想外の出来事に硬直していた。なにこれ、どうなってんのと言う状態だ。

「ちょっと二匹とも落ち着いて、ちょっと落ち着いてってば、何で私の声が聞こえないの!!」


 ベルフの方も何が起きているのか分からず呆然としている。すると、そのベルフに一人の男が近づいてきた。それは数か月前に地下迷宮へと落とされたパトズだった。


 この数ヶ月、地下迷宮で冒険をしていたパトズはまるで原始人のような格好をしていた。

 鉄製の棍棒を持ち、藁か何かで出来た服を悠然と着こなし、人類史以前の生活臭溢れる男がそこにいた。

「ベルフさんじゃないか久しぶりだね」


 いきなり現れたパトズにベルフもちょっと間を置く必要があった。

「パトズ、何でここにいるんだ?」

「数ヶ月前いきなり目が覚めたら迷宮の中にいてね。そのまま何ヶ月も彷徨い続けていたんだよ。まあそれはドワーフやら地下にいる魔物達と仲良くなって楽しく暮らしていたから良いんだが、少し前にいきなり地下迷宮にドラゴンが現れてね」


「ほーん、地下迷宮にドラゴンかーなんでだろうな」

『なんででしょうね』

 不思議な事もあるもんだなーとベルフ達は思っていた。


「まあそういうわけで、地下の住人達と一緒にあのドラゴン達と戦っていたんだが、私を見るなりいきなりあの二頭が同士討ちを始めたんだ。しかもそのドラゴンに啄まれたりしている最中、いきなりこんな所に呼ばれてしまって本当に何が起きてるのかわからんのだよ」


 ドラゴンというのは主に人肉を好むものだ。特に脂が乗っているようなお肉が大好きであり、各地に残っているドラゴンへの生贄で女性が好まれるのもそれが理由の一つである。で、それとはもう一つおっさんがよく犠牲になっている逸話がある。

 主に中性脂肪などが原因でおっさんがドラゴン好みのお肉になってしまうのであるが、ともかくドラゴンというのはおっさんの脂身が好物なのだ。その観点から見るとおっさんであるパトズの中性脂肪と来たら、ドラゴンから見ると極上の食用肉である。それもおっさんの中のおっさん、なかなか滅多にお目にかかれない中性脂肪だ。

 そんな霜降り人肉が目の前に現れてしまったのならドラゴン二頭、パトズを食欲的な意味で食べるために争うことも不思議はなかった。


 んなくだらねえ理由で争ってるとは知らないベルフとパトズが話しを続ける。

「それでベルフさん、私はなんでここに。確か、ドラゴンの口に放り込まれる直前に召喚されて、私も死を覚悟していたのだが、誰が私を助けてくれたんだい」

「ああそれはエメラだよ、エメラが召喚したんだ」


 ドラゴンを召喚したーとベルフが補足しようとするとパトズの目がくわっと驚きで見開いた。

「私とファ○クしたいがために召喚しただと……」


 ベルフとサプライズ共に言葉に詰まった。

『えーっとそれは少し違いましてですね』

「何を言ってるんだサプライズさん、それ以外でエメラさんが窮地の私を助けた理由があるか!!」


 言われてみれば他に理由がねえかもしれねえな、ベルフも適当にそう考え始めた。

「それもそうだな、そんな気がした、多分そうだ」

「それでエメラさんはどこにいるんだ!! ワシも数ヶ月人肌のない場所にいたんだ、準備はバッチリだぞ」

「エメラならほら、あそこにいるぞ」


 男性が山などに篭って長い期間女性に会わないと山を降りた時、普段はどうとも思わない女性相手でさえも非常に魅力的に感じると聞いたことがある。

 その話の上で、エメラは外見だけはかなりきれいな女性であり、更にパトズ自体も性欲の強さ的に色々な問題のある人間だ。そんなパトズが数ヶ月もの間、地下迷宮にこもり続け、そして久しぶりに美女と出会った場合どうなるか? 一言で言えば火薬庫に爆弾をぶっこんだような状態になってしまった。


「うおおおおおおおおおおお」


 エメラを直視したパトズの理性が吹っ切れた。

 中年男性とは思えない身のこなしで突撃していった。それどころか、パトズの雄叫びで食料もといパトズの存在に気がついたドラゴン二頭がパトズのおっさんを追いかける。


「はあ!? 次はなんだって言うのよ」


 パトズとドラゴン二頭が自身に突撃かましてくる光景にエメラが迎撃態勢を取る。最低限の精霊をベルフの警戒に回すと残った高位精霊達がパトズとドラゴンの迎撃に動いた。

 まずは炎の精霊が動く、この精霊が腕を振るうと、パトズの周りに火がつく。ジュワアと言う音と共にパトズが焼け焦げると、それに合わせて肉を焼く特有の匂いが辺りに漂う。そこに匂いで食欲を刺激されたドラゴンが更に理性を失った。


「まだまだああああ!!」


 しかも、パトズ自身は全く致命傷になっていない。この数ヶ月、環境の厳しい地下迷宮で敵意ある魔物達と休みなく戦い続けてきた彼は知らず知らずのうちにレベルが上っていたのだ。並大抵の攻撃では止まるような肉体構造ではなかった。


 今度はさらなる大技を放とうと炎の精霊が溜めを構えた時、エメラの首筋に悪寒が走った。ゾワッとくるような寒気が彼女を襲うと、その気配に合わせて上を見上げる。そこにはバーサーカーのようなツラをしたカーンが両手両足を使って天井に張り付いていた。


 カーンは一流の冒険者である。このままではエメラに勝てないと本能で悟った彼はチャンスが来るまで無意識に体力を溜めていたのである。そして、この時、パトズとドラゴンにエメラの意識が向かったこの時、ついには意識を覚醒させて溜めていた体力を全て使おうとしていた。


 壁伝いに害虫のような動きでエメラに迫りくるカーン。両手両足を巧みに使い、顔だけをエメラに向かいながら壁を這って高速で近寄ってきた。


 地上からはドラゴン二頭とパトズ、上からは等身大の害虫。

 エメラにとって絶体絶命のこの状況で彼女はついに最後の覚醒を果たした。


 今まで彼女の精霊は独自に動いていた。最低限の命令くらいは魔力を解した念話でエメラも出せていたが、それらは大雑把に命令ができるだけである。そのため、彼女の精霊たちはコンビネーションと言う点では少し難があった。


 だが、今のエメラは自身の把握している高位の精霊全てと意識で完全にシンクロしていた。

 自分が思うように事細かに、その精霊の持っている最大のポテンシャルと動作を引き出せる事が可能になった。


 まず水の高位精霊である。人魚姿の精霊が洪水のような水流を生み出した。その水流が上から迫ってくるカーンにぶつかった。害虫のように壁を貼っていたカーンが、その壁とともに外へと押し出される。

 

 風の高位精霊がドラゴン達を上から風で押しつぶす。竜巻のような突風がドラゴンを上から押しつぶして地面に縫い付けた。ビキビキと言う音とともに玉座の間の床全体にヒビが割れる。


 そして、大技を溜めていた火の精霊が腕をパトズに向けて力一杯振るうと、パトズの目の前に火球が生まれた。それは一瞬で膨張すると膨れ上がりつづけて、城の半分を覆い尽くす。

 少し軌道が外れていたのが幸運なのか、城全体は飲み込まなかったが、その代わりに城の半分は文字通りこの火球に飲み込まれて消滅していた。


 ちなみにパトズは幸か不幸か、火球が膨れ上がるその直前で、床に大穴が開いて風の精霊が押しつぶしていたドラゴンと共にまた再び地下迷宮へと落ちていった。


 玉座の間の半分以上が消失したその場所で、エメラは理解する。

 成し遂げた。ついに自分は古今無双の場所へと到達した。

 手足の様に高位精霊三体が動く。完全に、自分の意識下で、もうどんな相手にも負けない自信があった。


 ベルフなんて簡単にひねりつぶせる。いや、それどころかこれならばどこまで出来るか――

手に入れた最高の暴力にエメラが浸っているとふと思いだした。そうだベルフとサプライズにとどめをささなければと。


 聖剣もなくして精霊に対する攻撃手段もサプライズの魔法しかない状況で、エメラは高位精霊以外の全ての精霊を警戒としてベルフにつけていた。ベルフが自由に動けることは万に一つもないだろうし、これから何かが出来るとは思えない。そう思ってエメラがベルフのいた方を振り向くと、ふと自分の顔が何かに掴まれた。


「お前の負けだ」


 それはベルフの掌だった。ベルフがエメラの顔を鷲掴みにしていた。

 彼は手放したはずの聖剣を右手に持ち、残った左手でエメラの顔を掴んでいたのだ。


『チェックメイトってやつです。ではさようなら』


 そして、サプライズの魔法がベルフの掌を介してエメラに流れ込んだ。


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