第八十三話 ボス戦 中編
カーンがそのマッチョな体格と似合わないタキシード姿で参上した光景にベルフは呆然としていた。
「もうお前には惑わされない。俺とエメラさんの二人舞台をそこで見ているんだな」
キッとベルフを睨みつけてくるカーンであったが、当のベルフとサプライズはそんなもんどうでもよかった。肉壁役の予定だったキリはどこ行ったんだよとしか思ってない。
『それはどうでも良いんですが、キリはどこに行きましたか? こっちはあいつが来ないせいでピンチだったんですよ。謝罪の意味も込めてキリの野郎は命懸けでベルフ様を助けるのが筋ってもんでしょうが』
サプライズの言葉を聞いたカーンが懐から一枚の手紙を取り出した。
「あいつから渡された手紙だ」
ベルフがカーンから手紙を受け取ると中身を確認する。そこには、行くわけ無いだろ馬鹿か、と書かれた一文だけがあった。
「ちっ役に立たねえな、あんのへたれ野郎が」
ベルフが手紙をビリビリと破く。元からあんな野郎のことは全く評価してなかったが、その信頼が地の底に付いた。
「せっかく援軍として期待してやってたと言うのになんてやつだ、人の気持ちを踏みにじるなんて最低な野郎だな」
『全くですねベルフ様、無駄な人生を過ごすゴミクソに人生最後の徒花としてベルフ様の盾役を与えようと思っていたと言うのに、これだからパンピーの奴らには未来永劫救いがないんですよ』
こうなりゃしかたねえな。眼の前にいるゴリラみたいなホモ・サピエンスに体よくヘイト役になってもらわなきゃあかん。さて、どうするべきかとベルフとサプライズの主従コンビが考えていると、カーンの方が先に動きを見せた。
「エメラさん、俺の話を聞いてくれ」
カーンの言葉を聞いたエメラがサラマンダーをカーンにぶつけた。エメラ側からの、てめえの話なんざ聞く気がねえよと言うサインである。サラマンダーに集られて轟々と燃えるカーンを一瞥にするとエメラがベルフとの戦いを再開しようとするが、燃えて灰になったと思ったカーンが炎の中から半裸の姿で出てきた。
カーンが身体に纏わりつくサラマンダーを拳で払うと、消し炭となった花束が拳からボロボロと崩れて落ちる。
「この程度で諦めるような覚悟で俺はこの場所に来ていない」
格好をつけるカーンとは対照的にエメラの方は心底嫌そうな顔をしていた。彼女としてはベルフを追い詰めるまで後一歩と言う所まで来ていたのに、いきなり現れたこのバカに邪魔されたからである。
そもそもエメラからすればカーンなんて記憶にも残ってないゴミである。このストーカーに関わる記憶そのものを脳内奥底に押し込めていた程度の存在だ。その謎の生命体が唐突に現れて邪魔をしているこの状態、エメラのストレス値がさらに上昇し始めていた。
そしてエメラの神経を逆なでするようにカーンが愛の告白を始める。
「この数ヶ月、エメラさんの悪い噂はいくらでも聞いてきた。親から玉座を簒奪した狂王、龍を操り人々を生贄に捧げようとしている魔王、裏社会を支配してきた稀代の悪女だの様々だ。でもそれがどうしたって言うんだ、そんな事は一切関係ない、なぜなら貴女には――その素晴らしい顔の美しさがあるからだ」
エメラの脳内では、何だこの珍獣という疑問が駆け巡っていた。眼の前にいるこのマッチョの生態がまるで理解できないのだ。そして、呆けて何も言わなくなったエメラに向けて更にカーンの追撃がはじまる。
「人の内面なんて目に見えないものに俺は左右されない、目に見えるもの、肉の部分だけが女性の魅力の全てなんだって俺は考えている。その上で俺は断言しよう、貴女に精神的な魅力なんて欠片も無い、露ほども残ってはいない、だけど貴女の外面は完璧だ、だからこそ俺はこう言えるんだ――俺は貴女の顔だけを愛してる」
さて、カーンという男は悪人ではない。空気の読めないところはあるが、決して悪人と呼べる人柄ではない。彼は無償で人を助けることのできる人間であり、今まで彼によって救われた人間の数は軽く三桁は行くだろう――がしかし、問題もある。
彼は人助けという長所によって作られた人徳の塔をデリカシーが全くないと言う短所で起こした地盤沈下によって地面奥底のマントル部分に落として燃やし尽くすような生き方をしている。
事実、この場に彼の仲間であるキリやマリーがいれば、この程度では眉一つ動かさずにまたか、と言う態度で軽く流していたはずだ。
「良いかエメラさん、例えば貴女がドラゴンに食われてうんこになったとしよう。確かにそうなれば生前の美しさなんて全く関係ない、ただのドラゴンうんこになっちまう。事実、俺の知ってる冒険者の一人もドラゴンに食われて草原に横たわる一本糞になっちまったやつもいる。でも、俺がもし貴女の傍にいればどんな相手からだって生涯守り通して見せる、決して貴女を一本糞になんてさせない!!」
カーンとしてはどんな脅威からでもエメラを守るという愛の言葉を伝えたかったのであるが、具体的な例を出したがために全てが逆流現象となってエメラの心に響いていた。
そして、一通りカーンの言葉を聞いていたエメラの中で新しい感情が芽生え始める。
「こんな気持ち初めてだわ……」
「初めて!? それはつまり俺の言葉を聞いて初恋が芽生えたってことですか!?」
カーンの言葉にエメラが首を横に振る。
「いいえ、これから殺す相手に憐れみを持ったのは初めてよ……」
殺意や憎しみではなく哀れみを持ってエメラは全精霊をカーンにぶつけた!!
エメラがカーンに総攻撃を開始した陰で、玉座の間からベルフが廊下へと飛び出してきていた。エメラがカーンと戦闘を開始したことで、彼にも逃げる余裕が生まれたのだ。
「あいつすげえな、こっちが何もしてねえのに囮と壁役の全てをこなしてくれてるぞ」
『思った以上の逸材でしたね。生命力、うざさ共に等身大のゴキブリ並みの力はありますよ、もうあいつは人類ではなくて新種の害虫と思ったほうが良いのかもしれません』
作戦を考える時間が取れたということでベルフは現状打開のために知恵を絞り始める。
玉座の間から響く轟音はとりあえず無視して、サプライズと作戦会議を始めた。
「このままトンズラこくってのはできないか。正直、正攻法だときっつすぎるんだが」
『それについてはお勧めできませんね。あの女、空まで飛べるようになったので、逃げたとしても上空から俯瞰視点で速攻位置がバレますよ。風の精霊まで手足のように使えますから探索もお手の物でしょうし、何より、あの女と外で戦うとなったら完全にお手上げです。あっちが上空に陣取ってしまえばベルフ様の攻撃が届かなくなりますから』
うーむとベルフが唸る。
「つまり、建物内で戦えている今しかエメラを倒すチャンスがないって事か」
『そういうことですね。他にも、あいつの使える超高位精霊が一体、防御に回っているのもこの城の仕掛けを警戒しているからです。ですので外に出れば更に相手の攻撃が苛烈になることでしょう』
という訳でベルフが悩む。彼としては、逃げられるのならそれが一番だと思っていたのだが、それが悪手だとわかってしまった以上、なんとかするしか無かった。
『聖剣のやつが本調子なら私もリッチから学んだテレポートで奇襲とかできるんですけどね、残念ですけど聖剣の野郎も本調子じゃないのでちと使うのは難しいです』
「そういやそんな魔法もあったな、そうそう一度見ただけであれを学んで――まてよ……」
そこでベルフが何かを考え始める。今の言葉に何か引っかかるものを感じたのだ。
「なあサプライズ、お前もしかして――」
ベルフがサプライズに何かを話そうと思ったその時だ。
「あなた方シスト王国が全部悪いんでしょうが!!」
近くから怒声が響き渡ってきた。
一体何事かとベルフとサプライズが声の聞こえた方を見ると、サフィ王妃達とモハ子爵達が言い合いを始めていた。お互い、自国の騎士達まで巻き込んで喧嘩寸前と言った手前の大論戦へと発展している。
「うちのエメラがああなったのは全部あなた達の責任です!! あんなクレイグ王とか言う変態爺に見初められて、更にはベルフとかいうあんな性格破綻者に染められて、どう責任を取るつもりなのか聞かせてもらいましょうか!!」
その言葉にガッデムと言った表情でモハ卿が反論する。
「はあ? あんなにノリノリで自分の娘を変態爺に差し出させようとしてた奴が何言ってんだ! エメラとかいうあの娘がクレイグ王に見初められたせいで、うちの国では王太子からその子供まで全部廃嫡させられたんだぞ。しかも、そのクレイグ王まで殺してくれてどうするんだ、責任取るのはあんた達だろうが!!」
そう、十字架に磔にされて意気消沈と言った状態だったサフィ王妃は、それを解かれるとすぐにモハ卿やその回りにいるシスト王国の近衛騎士達に突っかかっていった。サフィ王妃の息子であるアレックスの方は未だ意識が戻らない状態であるのにだ。
怒りとやるせなさと八つ当たりとあらゆる負の感情が彼女に元気を与えていた。
サフィがふんっと鼻を鳴らすとその性格のひん曲がった本性丸だしで言い放った。
「うちのエメラは天使のようないい娘でしたのに、ベルフとかいうやつのせいであんな悪魔みたいな子になってしまっただけです。それさえなければ今頃両国は穏やかに婚姻を済ませてたと言うのに……ですので全部そちら側の責任ですわ」
モハ卿が顔面ゆでダコのような顔でそれに噛み付く。
「いくらベルフだって、あんな悪魔みたいな奴を一から育てられるわけがない、もともと娘さんに素養があったんだ。大体からして、心の中にあんな本性を持っているやつが変態爺との婚約を穏やかに納得するわけない。自身の子供を贔屓するにも程がある」
「自身の子供を贔屓してるのはそっちでしょ!!」
「あいつが生まれてこの方、あの野郎を贔屓できる余地があったことなんて全く無い!! 一度もだ!!」
その二人の騒ぎを皮切りにして、周りの騎士達も騒ぎ始めた。やれ悪いのはエール国だシスト国だと、お互い責任のなすりつけあいが始まる。
ぎゃーぎゃーと喚いている両陣営に呆れた顔をしながらベルフが近づいてきた。
「うっす親父、何してんの」
『くっそ醜い争いしてますね。ベルフ様があの悪魔女と戦ってる中で何を暇な遊びしているんですか。んな事しているくらいならベルフ様を助けろや』
当事者、もとい最大原因の一人であるベルフが来たことで両陣営がケンカをやめた。この男に対して言いたいことがみんな山ほどあったからだ。
そして、それを代表するかの様にサフィ王妃がベルフに文句を言い始める。
「貴方のせいで私の国とエメラがこんなことになって……一体私達に何の恨みがあるの? ここまでする理由があるのなら話してちょうだい」
もはやそこには怒りはなかった。ただただ悲嘆の色だけが伺えた。
「エメラは知らないが俺は別に恨みなんてないぞ? 俺はただ、この国の治安維持組織を裏から手に入れて好き勝手に動かしてみたかっただけであって、別にこの国を破壊しようなんて……とんでもない思い違いだ」
『そのとおりですよ、むしろなんですかエメラとかいうあの悪魔は。私達がしたことなんて、好き勝手生きてみろよ的なことを無責任に言っただけであって、本当に好き勝手生きるとか思ってもみませんでした。あんなのよく飼いならそうとしましたね、あんたらがしてたことは地雷原の上で盆踊り大会してたようなもんっすよ』
ベルフとサプライズは、あのエメラに全力でケンカを売っていたこの国の人間達に対して畏敬の念を持っていた。命知らずなこいつらの生き様に、敬意に近い感情を持っていたのも事実である。
ベルフの言葉にモハ子爵が続く。
「ほら見ろ、やっぱりあんたらの娘もおかしい。好き勝手に生きてみろなんて言う自己啓発の言葉で国家転覆を行う奴がどこにいるんだ、そんな馬鹿はうちの息子のベルフ以外に見たことないぞ!!」
と、ここまで話してモハ卿は気づいた。こんな奴らが二人も揃ったらそら国の一つや二つ傾くわ。責任のすべてがベルフにあるとは考えていなかったが、半分くらいはあるんじゃねえかなとは考え始めていた。
そして、その考えに至ったもう一人、つまりサフィ王妃がベルフに向かって言い放つ。
「言い訳なんて言わず男なら責任を取ってエメラを止めなさい、それが筋というものでしょう」
サフィ王妃の言葉にサプライズの方が答えた。
『責任? むしろ、ベルフ様のお手を煩わせているこの状況なら、あなたがベルフ様に懺悔の気持ちを感じて責任を取るべきでしょう。こんなところで雁首揃えてたむろってないでさっさとなんとかしてこいや』
サプライズの言葉は逆鱗を撫でた。具体的に言うと、エール国の騎士達の逆鱗だ。
集団というのは一度火がつけば収まりがつかない。少なくとも、サプライズの言葉はその集団に火がつくのに十分たる言葉だった。
ラスボスであるエメラが健在の中、更に別の集団との戦いも開始されそうなこの状況。しかし、そこでベルフから予想外の言葉が出てきた。
「わかった、俺とサプライズでエメラをなんとかしてやる」
そう、ベルフがサフィ王妃の主張を全面的に認めたのだ。
そのベルフの態度にサプライズが戸惑った。
『正気ですかベルフ様、ベルフ様の立場としてはこいつらをいかに効率よく犠牲にしてあの女をぶっ殺すかが肝のはず。それを私達だけで立ち向かうなどとは、自殺行為にも近いですよ』
ベルフがそれに答える。
「なあに、考えてみればこの騒動は俺達が始めたようなもの。どう終わらせるかは確かに俺達に一任するべきだと、そう考えただけだ」
『む、むむむむ?』
いきなり物分かりの良くなったベルフに対してモハ卿は嫌な予感を感じた。
「おいベルフ、何を考えている」
「酷いな親父、特に裏なんてなにもない。ただ、エメラとの決着は俺に全て任せてもらおうと、そう思っただけだ。俺の手で全て終わらせたほうがマシだと言うのは真実でもあるしな。王妃の言うことは全くもって完全に正しい」
伊達に十数年もモハ卿はベルフの父親をしていない。こいつが最も危ないのはどんな時か? それは他人の言い分を素直に聞いてる時だ。積み重ねてきた経験の中でそれを心底理解している。最大級の警戒心でベルフを懐疑的に見るが、しかし、サフィ王妃の方はそれを分っていないようだった。
「どうやら貴方の事を少し誤解していたようですね。貴方の処分については後々考えるとして、今の態度は認めてあげて良いと思えるものです。無論、今回の騒動についての責任は追求することになりますが、私の裁量で罰を軽減させる事も考えておきましょう」
『はあーー? 何調子こいてんだこのアマ、ベルフ様に向かって――』
しかしサプライズのその言葉をベルフが遮る。
「そうか良かった、誤解は解けたようだな。ならば安心しろ、必ずエメラと決着をつけると約束しよう」
『ちょっとベルフ様、本当にどうしたんですか』
サプライズが慌てる中、ベルフはと言うと、対エメラについての作戦を詰め始めようとする。
「まあ良いじゃないか、ところでサプライズ、確かお前はリッチとの戦いの時に一度見ただけでテレポートの魔法を真似できたよな」
『そりゃあできましたけど、もしかしてテレポートを使えと言うんですか? すいませんが使えたとしても移動範囲は二メートルくらいっすよ。聖剣の奴が本調子ならまだしも、そうじゃありませんからね。お陰で私の空間破壊の方も使えません』
その意見を聞いたベルフが答える。
「あーいや、それは良いんだ、つまりだな――というわけで――でだな」
『なるほど、確かに言われてみればそっちもできますね、ですが、あの女の力がエリクサーの魔力だけではなくて黒龍の力を取り込んだものだというのなら、ちょっと魔力抵抗を突破できるのは無理だと思いますよ』
「それなら、これを使ったらどうだ?」
そう言ってベルフがリッチの左手を道具袋から取り出した。かの強大なアンデッドが残した触媒であり、これを使えば禁術に属するものでさえ使用可能になるというとんでもない代物である。
『それを使ったとしても魔力を拡散させずに直接送り込む必要があると思います。少なくとも、ベルフ様があの女の肉体に直接触る必要が出てきますが……』
「それなら問題ない。何とかしてエメラに直接触れるだけの距離に近寄ってみせる。あとはお前とのコンビネーションだけだな」
『まあそう言うなら良いんですけどね。ところであの魔法を使ったとして、その後はどうすれば』
「それはだなー」
と、そこでベルフとサプライズが密談を始める。ごにょごにょとベルフとサプライズが話している姿にモハ卿のみならず、他の人間達も何やら嫌な予感を感じ始めた。
密談が終わるとサプライズが大声で叫ぶ。
『ベルフ様ッッそう来ましたかッッ!! 確かに言われてみれば勿体無いもんですね!! 俄然やる気が出てきましたよ任せてください、私が全力でサポートいたします』
「頼んだぞサプライズ、お前だけが頼りだ。ここからは自由に魔法を使え、俺がなんとかして動きを合わせてみせる」
それを見ていたモハ卿は理解してしまった。間違いない、こいつらろくでもないことをしようとしてやがる。
「ちょっと待てベルフ、やばい、こいつ話を聞いてない。誰かこいつを止めろ! ベルフをエメラ王女のところに行かせてはならん!」
それを見ていたサフィ王妃が軽蔑の目線でモハ卿を見る。
「やはり人の親ということかしら、どれだけロクデナシと言っても、いざ自身の子供が命を賭けて戦うとなったら可愛さが出てきたのかしらね。彼自身が責任を取りたいというのなら自由にやらせるのが人として当然なのでは?」
その言い分にモハ卿がブチ切れ寸前になる。
「あの野郎が責任を取るなんて考えるわけない、貴女はいつまで騙されているんだ!!」
「シスト王国の貴族というのは見苦しいものなのね。私はもうエメラが仮に死んだとしても仕方ないと思っているわ。個人の感情より全体の損得を考える、それが私達貴族の責務じゃないかしら? 少なくとも我が子可愛さに取り乱している貴方が貴族失格なのは間違いないけれど」
このクソアマ、ぶん殴ってやろうか。モハ卿がそう考えたその時だ、壁を突き破って一人の男が玉座の間から飛び出してきた、そう、それはエメラと戦っているはずのカーンである。
彼は全身ズタボロと言った感じで倒れ伏していた。人外の耐久力を持っていた彼ではあるが流石にエメラの火力には敵わなかったのか、既に意識を失っていた。
壁をぶち抜いて現れたカーンに、少しのあいだ驚いていたモハ卿であるが、カーンの顔をじーっと見つめると首を捻った。
「はて、先程は気が付かなかったがこの男、どこかで見覚えがあるような……まさか、不死身のカーンか?」
それを聞いていたベルフが質問する。
「親父、その変態を知ってるのか? 確かになかなかお目に掛かれないストーカーではあるが、そこまでワールドワイドな知名度のある変態だとは思っていなかったが」
「変態かはともかく、冒険者としては高い知名度のある御仁だ。冒険者ギルドの切り札的な存在で、彼と同クラスになると魔人キリや聖者マリーが例に挙げられるな。このレベルの冒険者を雇えば、その国がギルドに大きな貸りを作ることになるのは間違いない。そんな彼がなぜこんな所に……」
「ああ、それならなんでも、クレイグ王がエメラを誘拐して男の欲望を満たしたいがためにシスト王国に雇われてこの国まで来たらしいぞ」
モハ卿は少しの間、今の言葉を理解できなかった。
「今なんて言った?」
「クレイグ王がエメラを誘拐して男の欲望を満たしたいがためにシスト王国に雇われてこの国まで来ていたらしいぞ。他にもキリやマリーも雇われているから、三人共この国に来ていたな」
「……冗談だよなベルフ』
「マジだが」
一流の冒険者の価値が高いのはその個人で特化した戦闘力もあるが、それは副次的なものでしかない。一流の冒険者とはつまり、少数での目的達成能力の高さを持った人間達、と言う所に価値がある。
それはつまり、多数の人間を送り込めない場所、例えば零下マイナス数十度の常人が住めない地帯、毒の空気に侵された神秘の秘法が眠る洞窟、多数の魔物が蠢く広大な秘境の更に奥にある冥界と呼ばれる異世界。
多種多様な常人の生息できない地域にその能力の高さから踏破し、探索し、そして価値ある秘法を手に入れてこれる者達、それが一流の冒険者なのである。
そう、一流冒険者の価値とはまさにそこにあり、彼等の力を数ヶ月間借りると言う事は、その間に入手できたであろう秘法達と同程度の借りを冒険者ギルドに作ると言う事である。それは、例え一つの国であろうとも慎重にならざるを得ない程だ。
さて、ではそんな一流冒険者の個人能力に目を付けて自身の性欲を満たす目的で愛しい女性を誘拐する為に使うのはどうなのか? しかも冒険者ギルドに大きな借りを作ってまで国王自身がそんなことをしたらどうなるのか? そんなもん完全にアウトである。
「くそ爺があああああああああああ」
今日何度目かになる絶叫をモハ卿が上げた。
「あんの野郎、そんな事のためにギルドに借りを作りやがったのか。ちくしょう、エメラ王女じゃなくて私自身の手であいつを八つ裂きにするべきだった、いや今からでも遅くはない、あの野郎生き返らせて私自身の手でもう一度縊り殺して――ガハッッッ」
「モハ子爵!!」
と、そこでモハ卿が血を吐いてぶっ倒れた。この国に来てから色々ありすぎたせいで彼の胃が限界点を迎えてしまったのだ。
モハ卿の周りにシスト王国の近衛騎士達が慌てて駆け寄ると、モハ卿を介抱し始める。
「あらあら、シスト王国の貴族は随分軟弱ですわね。それでベルフ殿、自身の父親すら手にかけたアレを私はもう娘とは思っていません。どうぞご自由にエメラと決着をつけてくださいな、頼みましたよ」
サフィ王妃からの言葉をベルフが親指を立てて受け止める。俺に全部任せなってサインである。
「さて、ではそろそろ行くかサプライズ。今度こそ本当の決着だ」
『そうですねべルフ様。あの暴走娘に格の違いってやつを教えてやりますか』
できれば後編まで一気に書きたかったのであります。




