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ベルフが冒険者として好き勝手にやらかしていくお話  作者: 色々大佐
第三章 ベルフ護衛をする

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第七十三話 ようこそ輝く冒険者ギルドへ

「ようこそ冒険者ギルドへ、ここが地獄の一丁目だ」


 ベルフがカーン、キリ、マリーの三人を冒険者ギルドまで連れてきていた。その建物を見たカーン達が目を見開いて固まっている。それはなぜか? 一言で言えば、中にいる冒険者達が異様だったからだ。


 彼等の知る限り冒険者というのは主に三つのタイプに分けられる。一つはモヒカンタイプの冒険者で、酒と女と博打と金属バットに釘等の小物をつけて魔物のドタマをフルスイングして遊ぶ、正統派右脳タイプの冒険者達。


 もう一つは日々の小銭稼ぎに追われた末、何時の間にか強くなっている冒険者達で、数は少数ながらも目が出るのは大体がこっちである。

 で、残りの一つは元々腕の立つ人間が落ちぶれて冒険者になった者達だ。


 大体は上記の三つのタイプに分けられるのだが、しかし、ここのギルドには全く新しいタイプの冒険者が存在していた。

 そいつらは頬はコケ、目の下には隈ができ、全身には怪我のせいか包帯が巻かれている。しかし、そんな状態にもかかわらずにキラキラと煌く目と笑顔を周囲に振りまいていた。その笑顔から来る妖気は、ベテランであるカーン達からしても初めて見るタイプの冒険者だ。


「「「ベルフ先輩おはようございます!!」」」


 そんな異様な風体の冒険者達がベルフを見ると角度45度で腰を曲げたきっちり正しい挨拶をしてきた。

 彼等の外見は様々で、モヒカンタイプから普通の町人のような奴らまで多種多様だ。


「お、おう、お前ら元気か」

 ベルフが彼にしては珍しく引いていた。

「「「はい、今日も一日このクニをよりヨク素晴らしいモノにするため頑張りたいと思います」」」


 彼等の大声でベルフ達の鼓膜がキーンと響いた。そして、実にハキハキとした声で更に喋り続ける。

「ボクたちの肩にはこの街の治安がかかっていますからね」

「身体は疲れても魂のエネルギーはみなぎってくるバカリです」

「人間は太陽の光さえあれば食べ物も水も睡眠さえも必要ないんです。事実、僕は三日前から何も口にしないで睡眠も取っていませんが元気な気持ちで心臓がハチキレそうです!!」


 頭行っちゃってる彼等の奇行にベルフ達が呆然としていると、唐突に冒険者ギルドの社歌を彼等が歌い始めた。

 これはエメラが作詞作曲した歌で詳細な描写は省くが、一言で言うと超音波兵器から発された振動波を耳の鼓膜に直接ぶつけられたような感動を聞いた人間に与えてくれる類のものだ。


 突如聞かされる地獄の叫び声にベルフの膝が地に付いた。サプライズも、ピピーガガーとかいうエラー音に近い音をベルフが装備しているリストバンドから発している。


 脳髄が悪意に侵される中、ベルフが必死に気力を振り絞ってサプライズに命令した。

「殺れサプライズ!」

『アイアイッサー』


 サプライズが魔法を使うと、サッカーボール程の氷塊が熱唱中の彼等へとぶつけられていった。氷塊をぶつけられた五人のキチガイ冒険者達がそれぞれ吹き飛んで意識を手放す。


「恐ろしい敵だった」

『油断しましたね、まさか初手社歌で来るとは思いませんでした』


 頬に流れ落ちる汗を手で拭うとベルフが警戒態勢を持続させる。

 そして、マリー、キリ、カーンの三人組は事態についていけなかった。


 マリーが呟いた。

「ここ、本当にギルド?」

 ベルフがその問いに頷く。

「間違いなく冒険者ギルドだ、ちょっと新しい形だがな。良いか、目が輝いている奴らとは絶対に関わり合いになるな、それがここのルールだ」


 ベルフがそう言うと彼が先導する形で後ろの三人も中へと入っていく。上級のダンジョンでも久しく味わったことのない緊張感を三人は味わっていた。


 建物の中では、一階のカウンターに所用のある冒険者たちが少しく並んでおり、更にベルフ達から見て、ロビーの左右にわけられる形で冒険者たちの派閥が出来上がっていた。具体的に言うと、ベルフ達から見て左手側の冒険者たちは普通であったが、右手側にいる冒険者達は異様に目が輝いていた。


 ロビーの模様も左右でその特徴を出している。左手側のロビーは白い壁と座るための座席くらいしか目立ったものはなく、他に特徴もないが、右手側の壁には白い紙が幾つも壁に貼り付けられていた。

 その紙には今期の目標だとか、いかにギルドが地域貢献できているかとか、やりがいが人をいかに成長させるかという訓示が書かれている。

 

 中でも特に目を引いたのは、今月トップの利益を出したらしいアルフレッド君の似顔絵付きコメント用紙で、ででんと一メートル近い縦幅で壁に貼られている。

 コメントを見ると冒険者になるまでの自分がいかにダメな人間だったかが半分、残りの半分が地域貢献に目覚めて輝く人格を手に入れた感動と素晴らしさが書かれていた。

 決め手はやる気エネルギーらしく、なんでも人類の精神には無限のエネルギーが秘められており、それを自覚できるかどうかが成果を挙げられるコツらしい。座右の銘は勇気、やる気、死ぬ気で、最後の死ぬ気を出せば誰でもあちら側に行けるとのことだ。


 筋肉バカのカーンが、その巨体に鳥肌を立てていた

「おかしいな、俺は冒険者ギルドに来たはずなのに何時の間に冥界のダンジョンに来てたんだ?」

 マリーが答えた。

「それについてはついさっき、あの入り口からここに入ったときからね」

 幽鬼のような顔付きの冒険者達が醸し出す雰囲気は、まさしく冥界と呼ばれるアンデッド達の世界を思い浮かばせた。


「キリ、何かすっごくやばい気がするけど、いざとなったら本当に騒ぎを起こしていいの? 負けはしないでも、あいつら全員でこっち一人くらいは道連れにしそうな気配がするけど」

 マリーの言葉にキリが答えない。彼も彼で考え事があるのだろう。


 ベルフが二階へと続く階段を指し示すと、後ろの三人組に催促する。

「二階に行けばもう安全だ、早く行くぞ」

 そう言われた三人がベルフに続いて二階に行こうとすると、キリが右手側の方にもうひとつ階段があることに気がついた。


「おい、あっちにある階段はなんだ?」

「あれか……残念ながら俺達にはあの階段がどこに続くのかはもうわからない」

『ええ、一ヶ月前は確か会議室に続く階段だったはずですが、今ではあいつらの住処になっています。中に何があるのかは私の力を持ってしてもわかりません』


 その時だ、ハッピー笑顔を浮かべたおっさんが右手側の階段から降りてきた。見る人全てに何がそんなに楽しいんだと思わせる素敵な笑顔で、彼の持つ表情筋全てを活発に活動させた結果であるのは間違いない。


「あの精神が天国の産湯に浸ってそうなおっさんは誰だ?」

 キリのその質問にベルフが悲しみの顔を浮かべる。


「あいつは一ヶ月前、俺がこのギルドの為に雇った錬金術士だ。前職は裏町にある詐欺まがい同然の店を経営していた年季の入ったクズだったんだが……今ではあんなふうになっちまってな。寝る間も惜しんで錬金術の勉強からギルドで取引される素材の買い取りまで惜しげもなく働くようになっちまった」

『まあそれだけなら良かったんですが、見ての通り彼には私達の言葉がもう通じません』


 心に同じ悲しみを持った人間同士は一目見れば心が通じると言う。それと同じレベルで、心に全く違うものを持った人間同士は一目見れば相手に話が通じねえなと分かるものだ。その考えの上であのおっさんを見た彼等の評価としては、あのおっさんと言葉を通じ合わせる事は人類の築き上げてきた哲学を全て極めることよりも難しく思えた。


「くそっエメラめ、なんて酷いことを!!!」

『早く彼等の呪縛を解かねばなりません……』


 肩を落として二階へ続く階段を上がるベルフ。その後ろを歩く彼の心の中では、今エメラって言った? ターゲットの王女様じゃね? と言う疑問が浮かび上がっていた。


「ねえキリ、もしかしてここのギルドマスターって」

「あんな少女がギルドマスターなんてやれるはずがない、人違いだ」


 コツ、コツ、と一歩ずつ階段を上がるベルフ達。

 短い階段を登り二階に辿りつくと奥の部屋へと歩き出す。中身だけなら普通の建物と同じで左手側の窓からは光が差し込み、右手にはいくつかの個室が並んでいる。

 そうして彼等の緊張感も少し解けた頃、それは唐突に聞こえてきた。


「いやだあああああ、助けてくれええええええ」


 耳をつんざく絶叫である。

 

 その絶叫はまさに目の前、執務室と書かれたここのギルドマスターが存在しているはずの部屋から聞こえてくる。


 何事かと思いながらベルフ一行が扉を開けて中を様子見すると、二人の男と一人の女が両手を縄に縛られた格好で正座していた。

 どいつもこいつも一癖有りそうな雰囲気を出している奴らで、ひと目でまともな人生を送ってきてないとわかる。だが、そんな彼等が周りも気にせず一様に泣きわめいていた。その原因は推察するに、彼等の目の前に立っている美女にあった。


 その美女は白金の髪をした女性だ。髪は腰近くまで伸びており、サラサラの髪質をしている。顔付きは綺麗だが、どこのメデューサだよと言わんばかりの冷たい目をしており、豚を見るような目つきで縄で縛られている彼等を見下ろしていた。彼女こそ、この国の王女であるエメラだ。


 エメラは隣りにいる秘書のサラから書類を受け取ると、その書類をパラパラと読み進めて行く。緊張が支配する中、書類を読み終わったエメラの顔付きは非常に険しくなっていた。その表情の変化に、縄で縛られている男女三人組の顔が更に引き攣っていく。


「騎士団が人手不足の中、この街で好き勝手やってくれてたみたいね」


 エメラがパチっと指を鳴らすとエメラの後ろにスタンバイしていたギルド職員である上半身裸のマッチョ達が白い棺を三つ、そしてフラスコに入った青い液体状の薬を同じく三つ持ってきた。


「棺に入るか薬を飲むか好きな方を選んでいいわ。それだけで許してあげる」


 エメラからの素敵な提案を受けて彼等の血管が恐怖で収縮し始める。特にエメラから見て一番左端にいる彼は、顔色から推察するに脳と心臓に多大な障害が発生しているようにも見えた。


 扉から覗き見しているベルフ達がその光景に固唾を呑んで見守っている。

「くそっ、また愉快な街の悪党達が捕まっているのか」

『今は耐えるときですベルフ様、チャンスはいずれ訪れます』


 悔しがっているベルフは置いとくとして、キリ達三人はあの棺と薬に大変な興味を持っていた。

「ちょっと聞いていい? あの怪しい棺とフラスコに入っている青い液体状の薬は何?」

 マリーからの素朴な疑問にベルフが答えた。

「棺の方は人格強制マシーンで、中に入った人間の曲がった性根を物理で真っ直ぐにする為の機械だ。薬の方は人を洗脳する事に特化した飲料水で、俺も一度飲まされたが味の方は悪くない」

『ええ、無駄に味だけは良かったですね、飲み物として販売すれば人気が出ること間違いなしでしょう。その代わり、飲んだ後にどうなるかというと、まあ見ていればわかりますよ』

 

 そこで彼等が部屋の中に視線を戻すと、状況は佳境に移っていく。

 

「こっちの棺はお勧めしないわ、作った本人が言うのも何だけど、効果の方はともかく安全性については全く考えてないから」


 エメラがそう言って棺の中をパカっと開ける。棺の内部には人類の頭部を抉るためのドリルが実に鋭敏な角度で待ち構えていた。ギュイーーンと言う殺意を込めた音もさることながら、ドリル先端部が人間の血で少し錆びていることにも注目したい。


 縛られている彼等彼女らの顔色が一段と悪くなった。血の気が引いているのだ。

「でも、こっちの薬の方は自信作。安全確実で間違いないわ」


 そう言うとエメラが液体状の薬が入ったフラスコを手に持って彼等に指し示す。二者択一、どっちを選ぶのかはよ決めろやというサインである。


 ガクガクと震える彼等は、どちらに対しても首を何度も横に振って嫌だと示していた。

「嫌だ、絶対に嫌だ。俺達は知っているんだぞ、それを飲んだ人間がどうなるのか、あいつらみたいになるんだ!!」


 男の一人がそう答えると、エメラは一つ頷いた。

「そうわかったわ、じゃあ彼はこっちの棺のほうね」

 エメラが顎をくいっと動かすと、その合図を受けたマッチョ達が男の身体を掴んで棺の中に投げ込んだ。

 やめろだの助けてくれだのと喚く男を無視してマッチョ達が棺の蓋を閉めると、中からドリルの音と共に断続的に男の悲鳴が聞こえてきた。まずは一人目だ。


「で、あなた達はどっちが良いの?」

 エメラからの最終通告を受けた残り二名は返答ができなかった。どちらを選んでも地獄へご招待されるとわかったからだ。


 そうして男女二人が震えていると、今まで酒食らって床で寝っ転がっていたボボスが起き上がってきた。彼は寝ぼけ顔でキョロキョロと周りを見回すとぶっきらぼうに言う。

「あーん、うっせえなあ何してるんだ……お、いいものがあるじゃねえか」


 ボボスがそう言うと千鳥足でエメラ達の方へと近づいてきた。

「エメラ、これ一本飲んで良いか?」

「ええ、別にいいわよ」

「よっしゃあ!!」


 ボボスがやったーと喜ぶと洗脳薬を一本手にとって、ぐびっとラッパ飲みにする。ゴクッゴクッと喉を鳴らして、実に美味しそうに一気飲みした。


「かーーーっ美味えなあ!! エメラ、もう一本良いか?」

「それはダメ。後の二本は彼らに飲んでもらうことになってるから」

「彼等?」

 

 そこで初めてボボスは縛られている男女二人組に気がついた。

「なんでえお前らエメラに捕まってんのか。まあいい、これ一本もらっていいか? あと引く味ですげえ美味いんだぜ」


 と、ボボスがそう言うと彼等がはっと気がついた。

「あ、あんたあれを飲んでもなんともないのか?」

「あん? 当然だろ。こんな美味いもんを飲んだからなんだって言うんだ。そんな事よりあと一本、一本だけでいいから俺にくれよ」


 それを聞いた彼等の表情に希望の色が見えた。

「いやだめだ、その薬は俺達が飲むからだ。クリスもそうだよな?」

「そうだよ、あたいもその薬を飲む、そっちの棺の方はごめんだよ」


 二人の言葉を聞いたボボスが残念そうに肩を落とした。それとは対照的にエメラの顔は笑顔だ。

「それは良かった、じゃあそっちの男の方からどうぞ、彼等の縄を外してあげて」


 エメラがそう言うとマッチョ達が彼等を縛っている縄を外した。そして、縄を解かれた彼等の手に液体状の薬が入ったフラスコが一本ずつ手渡された。


「じゃあクリス、俺が先に飲むから安全だと分ったらお前も飲むんだぞ」

「わかったよマイケル」


 マイケルがぐびっとフラスコの中身を口に含んだ。先程のボボスと同じようにゴクッゴクっと喉を鳴らすと、彼はすごい勢いで薬を飲み干していく。そして、ついに空になったフラスコを地面に置くと、彼は満点の笑顔を浮かべていた。


 そう満点だ、少なくとも相方であるクリスが生まれてこの方一度も見たことがないような満点の笑顔だ。白目いっぱいまで広げた眼力あふれる目、全力で両斜め上に釣り上げた口、横に全力で広がった鼻の穴、マイケルは今にも魂魄が大空に飛び立つ寸前って感じの笑顔をしていた。


 震えるクリスの両肩をガシっと掴んでマイケルが絶叫を始めた。

「クリス、僕はわかったんだよ、何がわかったって、つまりこの世の真理ってやつがわかったんだよ」

 クリスが涙目になってこくこくと頷く。

「人間ってのは困難に立ち向かう生物なんだ、人と動物、これらを分ける所は姿形や知能じゃない、まさしくその心意気なんだ。でもだからといって困難を待ってるような奴らじゃダメだ、そんな奴らは人としても下の下、イキてる価値もない汚物さ。じゃあどうするかって? 簡単だよ、僕達が困難にぶつかっていけば良いんだ!」


 マイケル様が真理に目覚めてしまったのとは対象的にクリスの方は目の前の現実から目を背けようとしていた。

「でもねクリス、僕達だけじゃダメなんだ。群れた羊達は統率する先導者がいないと迷い子になった挙句世間のオオカミたちに食い殺されてしまう。本当にダイナマイトな悲しみさ、普通ならそこで僕らの心は折れる寸前になっちゃってるよってのは言わなくてもわかるよね。でも大丈夫、そんな哀れな僕達を価値ある困難に導いてくれる偉大な指導者が幸運にもここにいる、それが誰か理解るかい? そう、それこそがエメラ様なんだよクリス!!」


 ででーんとマイケルがエメラを手で指し示す。偉大なる指導者エメラ様はマイケルとクリスに対して羊を狩る寸前の狼の目つきで見下ろしていた。


「マイケルお願い正気に戻って、どうしたの」

 クリスからのその返事に手を目に当ててマイケルが被りを振った。

「oh...分ってくれないのかクリス、残念だよ。でも、そんな君でもこれを飲めば世界の言葉が鼓膜に即一発理解できるから安心してくれ」


 マイケルが、爽やか味の洗脳飲料水が入っているフラスコをクリスの口元に当てる。クリスの顎をガシっと掴んで無理やり注ぎ込む形であった。サポートとして、周りにいるギルド職員たちもクリスの両手両足を掴んで暴れないようにしている。ゴクッゴクッと抵抗できずに無理やり薬を注ぎ込まれていくクリスの表情が時間が経つに連れてとてもハッピーになっていった。


 これにて、三人全員がエメラの毒牙にかかる形で終結する。


 さて、その光景をドアの隙間から見ていたベルフ達は全員無表情になっていた。マリーなんてシスターの格好をしているからなのか、胸の前で両手を組みながら神様に祈っているくらいだ。


『というわけで、あれを飲むとベルフ様やあのアル中クラスの精神力でないと一発であの女の信者に成ります。まあ、このギルド内で騒ぎを起こさなければ関係ない話ですがね。仮に騒ぎを起こして捕まった場合、あいつらみたいに新しい価値観の元で今後の余生を過ごすことになりますから注意してください』


 元気に話すサプライズの言葉にキリとマリーの緊張感が高まっていく。絶対に捕まらないようにしなければならないと。


「ちなみにエメラは、あれでも一ヶ月前までは箱入り娘のお嬢ちゃんだったんだ。だが、この一月の間にメキメキとギルドマスターとして頭角を現してな、そして、あーなった。まあこれに関して俺は純粋に賞賛を送ってもいいと思っている」


『ええ、素晴らしい才能でしたよね本当に、そう、それこそギルドマスターなんて小さな組織のトップに収まらせるには惜しい、私でさえそう思えるほどに……』


 ベルフとサプライズの声色がガチトーンになった。彼等は本当にエメラの才能について褒めているのだ。


「おっと、話がそれてしまった、すまんな」

『そうですね、じゃあそこの筋肉ストーカーをあの女にご紹介しましょうか』


 そうして話を振られたカーンであるが、彼は先程から腕組をして難しい顔をしていた。

 そんな彼が静かに話し始める。

「つまりあれだ、あの人はギルドマスターの仕事に疲れた結果、あんな性格になっちまったんだな。なら、彼女の疲れた心を癒やすのが、恋人の俺に与えられた役割ってことか」


 その話を聞いた一同が理解できないと言った目でカーンを見ていた。特にマリーの向ける目つきが鋭い。

「え、あんたマジで言ってんの?」

「当然だ」


 ベルフの身体が小刻みに震えていた。

「やべえな、これほどとは思ってもいなかった、想像以上だ」

『どうやら私達はとんでもない逸材を見つけてしまったようです。これに付き纏われると考えたら、あの女の事が少しだけ可哀想になってきましたよ』


 本物に出会ってしまった感動にベルフが震えていた。だがそんなベルフの態度すらカーンには全く効かない。

「この程度で俺の愛が揺らぐと思ったのか? 生涯の伴侶となる女性が横道に逸れたのなら愛を持ってそれを癒やす、当たり前の話だ。大体、あれだけ顔の整った女性はこの世に二人といないのに、この程度のことが欠点になるわけがない。彼女はただ、俺の胸にドーンと飛び込んでくれば良いんだよドーンとな!!」


 と、カーンが自身の胸を叩いてガハハと笑ったその時だ、ドーンと言う音とともに執務室から竜巻がカーンめがけて飛んできた。それはカーンだけをピンポイントに巻き込むと、そのまま窓を突き破って遠くのお空の彼方へと消えていった。


 とりあえず空の彼方に消えていったカーンを見送ると、開け放たれている執務室の中をベルフ達がそーっと覗きみる。そこではエメラが射抜くような目でベルフ達を見ていた。

「ベルフ、何か用があるのなら早く入ってきてくれないかしら」


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