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ベルフが冒険者として好き勝手にやらかしていくお話  作者: 色々大佐
第二章 主人公、別の町に到着する

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第三十三話 まともな冒険者ギルド

 魔法都市、ラナケルト。

 この大陸でも魔法の研究に於いては有数と言えるほど発展しているこの都市には、二つの秘法があった。


 一つは「真実の目」

 これは人の真実と嘘を見抜く魔法具である。この秘法の前では、いかなる人間も嘘を突き通すことができない。

 主に約束事の正否、犯罪の捜査などに使われる代物で、真実の目を使った嘘か本当かの判断は、法的な力さえも持ってしまう。その為に、この都市では官憲による冤罪事件なども全く発生しない。容疑者となった人間は犯した罪は暴かれるが、無実であれば罪を着せられる事はないのだから。


 ただ、その為にラナケルトでは口約束でさえ書面における契約と同じ重さを持ってしまうことにもなるのだが、それは置いておこう。


 もうひとつは「聖剣パール」

 この都市におけるもう一つの秘法。古代より存在する聖剣で、一つの錆も刃こぼれもしていないこの剣は、所有者に強大な力を与えると言われている。


 現在、街の神殿に安置されている聖剣パールは、聖剣が街の神殿に奉納されてから十数年。ただの一人も聖剣の有資格者が現れたことはない。


 そのラナケルトにベルフ達一行がやって来た。彼らがわざわざこの都市までやって来た目的、それは――



 ラナケルトの冒険者ギルドはライラと違ってこぢんまりとした建物であった。

 裏道ではないが、大通りと言えるほどでもない普通の通り。そこにポツンと建っている二階建ての建物がラナケルトの冒険者ギルドだ。


 ともすれば普通の民家にすら見えるそれは、冒険者ギルドと書かれている看板がかろうじて二階に掛けられていた。


 そもそも、ラナケルトは近場にめぼしいダンジョンも無いので、それほど冒険者が多くないのだ。それに比例するように冒険者から街へ落ちる利益も下がるので、ぶっちゃけこの街では冒険者ギルドの地位は低かった。


 喫茶店か何かと言うほど狭い一階で、冒険書の装備に身を固めたベルフとレイラが、ギルド移籍の手続きを行っている。ライラからの移籍組みである彼等は、まずはこの都市で移籍の手続きを行う必要があるのだ。


 男受けしそうなブロンド美人の受付嬢が、彼等の書類を受理すると、ハンコを一つ押して登録を完了。そのまま、二人にラナケルトで活動するための冒険者カードを手渡してきた。


「どうぞ、こちらがラナケルトで活動するための冒険者カードです。なくさないでくださいね」

 

 二人はカードを手渡されると、そこに書かれている情報を確認する。カードには当人の名前とレベルが記載されていた。


「ベルフさんはレベル八ですね、その若さで凄いです。レイラさんはレベル五ですからベルフさんとはレベル差が少し有りますね。ならどうでしょう、師弟関係として登録し直してみませんか?」


 その言葉にレイラがピシリと固まった。

 ベルフは、職員の言葉とレイラのその態度を見逃さない。


「ほう、師弟関係だと? それに登録すると何かメリットはあるのか」


 受付嬢は、ベルフの言葉に頷く。その頷きに合わせて、受付嬢の巨乳が揺れた。隣りにいるレイラの貧乳っぷりとは比べものにならないほどの乳力だ。

「師弟関係を結んだ冒険者は、各ギルドで互いの動向を何時でも確認出来ます。現在、どの街のギルドで活動しているのか、どんな依頼を受けたかなどですね。次に、周囲の冒険者に自分の弟子だぞ、とアピールできます」


 レイラがピクピクと震えている。レイラは元冒険者ギルドの職員である。師弟関係とやらに詳しいのだろう。


 ベルフは確認するように受付嬢に質問する。

「なるほど、周囲に俺の弟子だとアピール出来るわけか。弟子だと」

 受付嬢が明るく返事をした。

「その通りです。高レベル冒険者の弟子ともなれば無用なちょっかいを掛けてくる人も少なくなりますから、新人の方にはメリットが大きいんですよ」


 荒くれ者の中で生きる上で、バックに高レベルの冒険者がいるというのは確かに大きいだろう。虎の威を借る狐と言うのはこの界隈では何も恥ずかしいことではない、むしろ奨励するところだ。

 ただ、問題が一つある。こいつがベルフ・ロングランということだ。


 今まで黙っていたレイラが口を出す。

「すいません、ベルフさんの弟子になるとか絶対に嫌です。メリットよりデメリットのほうが大きいと断言できます。身の危険を感じるので関係者だと思われたくありません」


 受付嬢がレイラの言葉に不思議そうな顔をする。

「ですが、レベル八の冒険者とくれば中々のものですよ。少なくとも師弟関係を結べば、無用なトラブルを起こす相手も少なくなります。レイラさんは美人さんですし、身の安全を図るためにはやっておいた方がよろしいかと思いますが」


 受付嬢の言葉にレイラが全力で首を横に振る。


 ライラの街からラナケルトまでの道中。ほんの二週間の旅であったが、ベルフと言う男をレイラが理解するには十分だった。

 その上でレイラは思う。公式に、こいつの関係者だと記載されたら、今後安らかに眠れる夜が来ることは絶対に無い、と。

 

 レイラの態度を見ると、受付嬢は残念そうに言った。

「そうですか、レイラさんがそこまで嫌ならやめておきます。ではベルフさん、レイラさん、この街での御活躍をお祈りしています、頑張ってください」


 他に冒険者のいないギルド内で、受付嬢は丁寧に別れの挨拶を二人に言ってきた。


 

 ギルドを出たベルフ達はラナケルトの町中を歩いていた。ライラの時は商売人や露天商などか多かったが、ここでは閑静な住宅街が続いていた。

 ラナケルトでも、区画が違えはまた街の様子が変わるのだが、この場所は違うみたいだ。


「しかしびっくりしたな。冒険者ギルドとはあんなに礼儀正しいものなのだな。ライラとは全然違う、そう思わないかレイラ?」

 ベルフが隣を歩くレイラへと視線を向ける。

 皮製の鎧とショートソードを装備した元ギルド職員の冒険者。もといレイラがサッと顔を背けた。


『ベルフ様が質問しているのですよ、早く答えなさい。それと冒険者カードとはなんですか? ライラでは貰わなかったのですが』


 ベルフとサプライズの質問にもレイラはバツが悪そうな顔をして……いやしなくなった。ほんの数秒の間に心を切り替えた彼女は、それがどうしたのかしら? と逆切れの相を見せ始める。


「冒険者カードとは、各ギルドが発行している身分証明書のようなものです。ライラの場合は新人冒険者には渡しません、ベテラン冒険者にのみ渡されます」


『なるほど、で、ライラだと新人冒険者にカードを渡さない理由は何でですか?』


「そんなもの決まってます。ライラではベテランになって初めて冒険者だと認められるからです。クソの役にも立たない新人なんて、薄汚い乞食と変わりませんから」


 なにか悪い? と済ました顔で答えるレイラ。自身が、いま正にその新人冒険者なのは全く考慮していない。

『思っていたとおり、あの街の冒険者ギルトはクソですね』

 サプライズが素直な感想を述べた。

「まあ、それ以外にもライラではカードを渡す理由が薄いですからね。あの街はダンジョンに恵まれていますからカードがなくても、冒険者が仕事を受ける上で不足がありません」


 レイラの言葉にベルフが手に持ったカードを見つめる。

「これがあると仕事が受けやすいのか?」


「ええ、それさえあれば一定の信用が得られますから、この街でギルドを介さずに依頼を受け取る事も出来ますよ。でも、レベル八程度の冒険者を高レベルと呼ぶ、この街では、冒険者の活動そのものが活発ではないと思いますが」

「ほーん」


 ベルフはカードを日に透かして見たり裏側を見たりしたが特に普通のカードだった。なんらかの金属製なのは分かるが、それほど高価なものでは無さそうだ。


『そのダンジョンに恵まれていたライラも、今頃は大蜘蛛大量発生で大騒ぎでしょうね。あれだけの数です、軍隊が来たとしても制圧するには数カ月は掛かるでしょうし』

 うまく話が纏まっていた所に、サプライズが余計なことを言ってきた。


 その言葉で、レイラの心に、またしてもベルフへの憎しみの焔が沸き起こる。くそっこいつさえいなければ、今頃こんな場所で底辺の冒険職なんぞやってないのに! 


 レイラは元の職場で部下達をこき使っていた日々を思い出す。仕事の押しつけから自身のストレス発散まで、大変便利だった仲間達と別れてしまった悲しみに胸を痛めた。

 まあ、自分がギルドから追い出される時に笑顔で蹴り出してくれやがったあいつらは、絶対に許さんがな。


 レイラが過去の思い出に浸っていると、ベルフはこの街に来た動機を思い出した。

「それでレイラ、この街で一番おもしろそうな賭博場はどこだ」


 ベルフの言葉に、憎しみの焔を一旦かき消すとレイラは完全な作り笑いを浮かべた。

「それなら御安心下さい。すでに、調べはついていますから。ベルフさんを絶対に満足させる場所へと連れて行きますよ」


 魔法都市ラナケルト。別名、ギャンブル都市ラナケルト。ベルフの目的とは伝説の秘法や聖剣を手に入れるとかそんなんじゃなく、取りあえず、この街で遊び倒すつもりだった。


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