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タンク令嬢はもう泣かない(連載版)  作者: かためのプリン
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1.


ねえ、今日もお話してくれる?


あら、まだ眠くないの?


うん、わたし、あくやく令嬢がざまぁするお話がいいな


ざ、ざまぁ?


ぼくはかっこいい剣士が敵をやっつけるお話がいい!


……そうね、じゃあ今日は戦う女の子のお話にしましょうか


ちぇ、女の子かぁ。強いの?


ええ、とっても


あくやく令嬢?


そうね、悪役……だったかもしれない、ちょっと可哀想な公爵家の令嬢のお話よ


公爵家の令嬢が戦うの?剣で?


ふふっ……ちょっと変わってるでしょ?彼女の婚約者は魔王と戦う英雄だったの。だから一緒に戦いたくて、一生懸命に剣や魔法を習ったのよ。でも、どっちも全然ダメだった


えーっ?強いんじゃないの?


剣や魔法では強くなれなかったけど、一つだけできることがあったの。かっこよくないし、華やかでもない。おまけにすごく大変。でもたった一つ自分にできることだけを一心に磨き続けて、彼女は最強のタンクになったのよ


タンク?


みんなの盾になって敵の攻撃を引き受ける人のことをタンクというの。彼女は敵をやっつけることは得意じゃなかったけど、大切な人を守るためにどんな攻撃にも耐えることができた。剣でも魔法でも、ドラゴンが吐く炎でもね


ドラゴンと戦ったの!?


ええ、魔王の正体はたくさんの頭を持つ不死身のドラゴンだった。それを倒せるのはエーテルランド王家に代々伝わる究極魔法の使い手、アルウィン王子だけ。そして王子を守ったのが婚約者のタンク令嬢マルグレットと、その妹で治癒魔法が得意な聖女シャルロット。三人は暗闇の森で出会った狼獣人バッシュの道案内で魔王の城に辿り着き、最後の決戦を挑んだの――――



 巨大なドラゴンの姿になった魔王は私たちを見下ろして嘲笑いました。


「これでも俺を倒せると思うか?ガハハハッ!ならばその究極魔法とやらを使ってみろ。ただし、この攻撃に耐えられたらな!」


 ドラゴンの口から灼熱の炎が噴き出して私たちに襲い掛かります。私はアルウィン王子とシャルロットの前に立ち、自分の背丈より大きな剣を体の前に構えました。私の剣「シールドソード」は分厚くて幅広なただの鋼の塊。刃はありません。敵の攻撃を防ぐためだけの特注品。剣の形をした盾です。


「王子は必ずあなたを倒します!それまでどんな攻撃も決してここを通しません!」


 全身をジリジリ焦がすような熱さに耐えながら、私は必死に二人を守ります。


「たかが人間一匹がこの俺の攻撃を止めるだと?ガッハッハッハ!身の程知らずめ、貴様ごときにこれが止められるか!」


 ドラゴンの巨体に次々と新しい頭が生えてきて、一斉に牙を剥きました。


「止めてみせます!ファイブスター・アーマー、全紋章開放フルブレッシング!」


 私の鎧に刻まれた五つの紋章がまばゆく輝き、精霊たちの力が宿ります。迫りくる巨大な牙をシールドソードで受け止め、渾身の力で弾き返し、私は一歩も下がりません。ファイブスター・アーマーの背中のパーツが開き、白熱した光が翼のような形に噴き出して私の背中を押してくれます。踏ん張りすぎて石の床が砕け、足が半分めり込みながらも、私はなんとか魔王を一歩後退させました。


「馬鹿な!この俺の全力攻撃をことごとく……コイツは一体何なんだッ!!」


 私は肩で息をしながらもう一度言いました。


「ここは、絶対に、通しません!」

「黙れ化け物め!!」


 怒り狂った魔王が再び炎を吐こうと大きく息を吸い込みましたが、吐き出したのは炎ではなく苦痛の叫びでした。


「グアアアアアアアアッ!!!」

「……足元ガ留守になっていルぞ」

「バッシュさん!」


 魔王が私に気を取られている隙に狼獣人のバッシュさんが背後に回り込み、大木のような脚に深手を負わせたのです。私がみんなを守り、バッシュさんが敵を足止めし、最後はアルウィン王子がとどめを刺す、それがいつもの私たちの必勝パターンでした。


「貴様らごときにこの俺が!不滅の魔王ボロディン様がッ!!」


 そして長い呪文の詠唱が終わり、とうとうアルウィン王子の究極魔法が完成しました。


「お前は不滅なんかじゃない。この僕の前では。この究極魔法、ヴァルフレア・プロテシオンの前ではな!」


 轟々と燃え盛る炎の渦がドラゴンの巨体を呑み込んでゆきます。勝利を確信したアルウィン王子は後を振り返り、出番のなかったシャルロットに微笑みかけました。


「無事だったかい?」

「王子、お怪我は……」


 王子の隣に寄り添い、手を取ったシャルロットは、そこに軽い火傷を見つけて癒しの魔法を使います。私も全身に酷い火傷を負っていましたが、王子の治療が最優先、それは仕方のないことです。でも……


「ありがとうシャルロット。無事に魔王を倒して使命を果たせたのは、すべて君のおかげだ」


 そう言って婚約者である私の前で妹を抱き寄せる王子。私はいつものように二人からそっと視線を逸らしました。



 エーテルランドには四大精霊の加護を受けた四公爵家があり、王家に子供が生まれると、いずれかの公爵家から婚約者を迎える慣わしでした。アルウィン王子は火の精霊の力をとても強く生まれ持っていたので、相性がいいのは大地の精霊の力を司るドゥーブル家。その長女である私が婚約者となるのは、生まれた時から決まっていたことでした。


 でも、ドゥーブル家にもう一人、娘が生まれました。まるでみんなから愛されるために生まれてきたような特別な女の子が。妹のシャルロットは五歳で癒しの魔法を覚えて以来、天才聖女として国中にその名を知られるようになりました。才能にも美貌にも恵まれ、社交的な妹はいつもみんなの中心。私はいつも妹の陰で目立たない存在。お父様もお母様も、世間の人たちもみんな、どうして妹ではなく私が王子の婚約者なのかと、いつもため息をついて残念がりました。


 せめて少しでも王子の魔王討伐のお役に立てればと、私なりに魔法の勉強や剣の稽古に打ち込んでみたものの、どちらも才能は皆無でした。ただ、魔法も剣も失敗ばかりでしょっちゅう怪我をしていたせいか、私の体はどんどん頑丈になり、あらゆるダメージを受け付けなくなってゆきました。才能……と言えるかどうか微妙ですが、私は神様から授かったこのたった一つの能力をひたすら磨き続け、王子を守るタンクとなったのです。


 やがて魔王軍との戦いが始まり、たくさんの強力な魔物と戦うようになると、何度も死にかけるような酷い怪我を負いましたが、そのたびに私の体はまた強くなりました。そして気が付くと、魔王の攻撃さえ寄せ付けない圧倒的な防御力がこの身に備わっていました。


 諦めずに頑張ってきてよかった。何の取り柄も無かったこんな私が、やっと王子のお役に立ててよかった。そう思いました。でも、王子の口から出た感謝の言葉はシャルロットだけのものでした。私がどんなに傷付きながら二人のためにこの身を盾にしても、その姿は誰の目にも映っていなかったのです……



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