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ー2

「サイコロじゃんけん、ですか。面白そうですね」


 と、文机の前に座っていたポイズンアントが、振り返り、洞窟の入り口を見つめながらそう言っている。


「お、やるかい? あるじ様は暇だよ」


「いえ……まだ、そのルールが」


 とポイズンアントは尻込みする。


「簡単だよ。やってみればいい」


 やりたい訳ではなかったのだろうか? 白シャツに黒髪ストレートの彼女は、椅子に座ったまま、ためらった様子を見せている。


「……いえ。その、あるじ様に勝てる気が……しないので。それに、どうせだったら、あるじ様とマルメロさんが戦ってるところが見たいです。お二人は色々な場面ですごいですが、こういう遊戯だと、どっちが強いんでしょうか?」


 なんか、けしかけられたな……。そっちを見れば、家具の間の隙間。岩の地べたに座って、マルメロは膝を両腕で抱え踵(かかと)も背中も浮かして、体重を前後に動かしてゆっくり揺れている。見れば、彼女もこちらを見る。暇なんだろうか。


「あ、私ですか?」


 と、マルメロがこちらを向く。


「気になるって。聞いてた? やる? サイコロじゃんけん」


「いいですよ。私で良ければお相手します」


 白黒ワシ人ことマルメロが立ち上がり、こちらに歩いてくる。


「やるからには緊張感がなきゃね。賭けでもしようか。負けた方が、一枚衣服を脱ぐってのはどうだい?」


「別にいいですけど私最初から全裸ですよ」




 ――結果戦績が、隣のホワイトボードに書かれている。



トリジ    マルメロ サイコロの目   勝者→★

★パー     グー  4(順当)      

★パー     グー  3(順当)

 パー    ★グー  6(逆転)

 チョキ   ★グー  2(順当)

 チョキ   ★グー  5(順当)

★パー     グー  1(順当)

★チョキ    グー  6(逆転)

★パー     グー  1(順当)

 チョキ   ★グー  4(順当)

 チョキ   ★グー  3(順当)

 チョキ   ★グー  2(順当)



「おや、確率が私に味方をしたようですね」


 十一回目の勝負まで終わった。マルメロは、俺の前に正座をして座っており、俺はあぐらをかいているので、今も視線の高さはマルメロの方が上だ。白黒のもふもふの太ももがすぐそこにある。


「あ、あるじ様? 何をやってるんですか? 何でこれに負けたんですか?」


 ポイズンアントが向こうから、信じられないという様子で声を掛けてくる。


「いや……まぁ……なんでだろうね……」


 マルメロの手は、なんと十一回ともグー。なんならあいこも含めて彼女は一回もグー以外を出してない。マジか。


 ポイズンアントは、内心では当然俺が勝つものと思っていたのか、それともグーしか出さないマルメロに俺が負けたことに驚いているのか。じっとこっちを見ている。


「次は……一回くらい、グー以外出してくるんじゃないかって、ずっと考えてたね……」


「私は逆に、少しでも考えたらご主人さまに負けると思ってたので。ただ無心でグーを出してました」


 と、マルメロはそう返す。そういうことか。俺の思考エネルギー返せ。


「一回ぐらい考えなよ」


「でも、結果私が勝ちましたよ」


 マルメロには、一見そんな様子は見られないが、よくよく見れば、どこか勝ち誇ったような表情をしている気がする。


「な、なんだか意外な結果です」


 と、向こうの椅子に座ってこちらを向きながら、ポイズンアントは言っている。


「その……マルメロさんを侮っていたわけではありませんが……まさか、マルメロさんがあるじ様より強いなんて」


「こんな運がらみの勝負一発で、私たちの関係の格付けを行う気はありませんよ。でも、楽しかったですね。ご主人さまに一杯食わせることが出来て、私は満足です」


 この厨パ脳筋が……。


「くっ……今回は素直に俺の負けを認めよう……俺が脱いだ、この“そこそこの魔物の服”を受け取るといい」


「要らないのでそこら辺に掛けといてくれますか」


 と、椅子がガタとなる。見れば、ポイズンアントがそこで立ち上がっている。


「でも……私にも、そのゲームのルールが分かりましたよ! 勝ち方も! 私ならマルメロさんに勝てる気がします! 私とやりましょう、マルメロさん!」


 ポイズンアントは、威勢よく、そんな事を言っている。


「おや、いいですよ。敗者の人は、席を譲ってもらえますか?」


 マルメロ?


「敗者の人は席を譲るよー」



ポイズン   マルメロ サイコロの目   勝者→★

 パー    ★チョキ 3(順当)      

★パー     チョキ 5(逆転)

 チョキ   ★グー  1(順当)

★パー     グー  4(順当)

 チョキ   ★グー  2(順当)

 グー    ★パー  3(順当)

 チョキ   ★グー  4(順当)

 パー    ★グー  5(逆転)

★チョキ    グー  6(逆転)

 パー    ★チョキ 4(順当)

 チョキ   ★グー  2(順当)



「3対7。マルメロの勝ちみたいだねー」


 ポイズンアントは、その場でばっと立ち上がる。


「このゲーム面白くないですよ!」


 と、そっちの置いていた魔法のポーチの蓋が開き、中からのそのそと黄金の餅が這い出てくる。騒いでたから起きてきたのかな。あるいは混ざりたくなったか。


「あ、ゴールデンさん! ゲームしましょうゲーム! こっちに来てください!」


 ぽんと、白煙が立ち上がり、そこに金色おさげのツインテールの、黒服セーラーの少女が現れる。


「ん……なに……?」


「ゲームですよゲーム。ゴールデンさんに出来ますかね?」


「出来るけど……?」


 その後、ゴールデンちゃんとポイズンアントが、畳の上で二人でサイコロじゃんけんで遊んでいた。


 最初はやたらポイズンアントの連敗が続き、ポイズンアントが落ち込み始め、その後は逆にポイズンアントが連勝し始め、結果的にはどっこいどっこいでポイズンアントの辛勝。そのうち、ブルーバードとヴァンピも二人で帰って来た。小腹も空いてきたので、俺はお茶会の準備を始めるため、壁の木製の棚に手を掛ける。


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