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「サイコロじゃんけん、ですか。面白そうですね」
と、文机の前に座っていたポイズンアントが、振り返り、洞窟の入り口を見つめながらそう言っている。
「お、やるかい? あるじ様は暇だよ」
「いえ……まだ、そのルールが」
とポイズンアントは尻込みする。
「簡単だよ。やってみればいい」
やりたい訳ではなかったのだろうか? 白シャツに黒髪ストレートの彼女は、椅子に座ったまま、ためらった様子を見せている。
「……いえ。その、あるじ様に勝てる気が……しないので。それに、どうせだったら、あるじ様とマルメロさんが戦ってるところが見たいです。お二人は色々な場面ですごいですが、こういう遊戯だと、どっちが強いんでしょうか?」
なんか、けしかけられたな……。そっちを見れば、家具の間の隙間。岩の地べたに座って、マルメロは膝を両腕で抱え踵も背中も浮かして、体重を前後に動かしてゆっくり揺れている。見れば、彼女もこちらを見る。暇なんだろうか。
「あ、私ですか?」
と、マルメロがこちらを向く。
「気になるって。聞いてた? やる? サイコロじゃんけん」
「いいですよ。私で良ければお相手します」
白黒ワシ人ことマルメロが立ち上がり、こちらに歩いてくる。
「やるからには緊張感がなきゃね。賭けでもしようか。負けた方が、一枚衣服を脱ぐってのはどうだい?」
「別にいいですけど私最初から全裸ですよ」
――結果戦績が、隣のホワイトボードに書かれている。
トリジ マルメロ サイコロの目 勝者→★
★パー グー 4(順当)
★パー グー 3(順当)
パー ★グー 6(逆転)
チョキ ★グー 2(順当)
チョキ ★グー 5(順当)
★パー グー 1(順当)
★チョキ グー 6(逆転)
★パー グー 1(順当)
チョキ ★グー 4(順当)
チョキ ★グー 3(順当)
チョキ ★グー 2(順当)
「おや、確率が私に味方をしたようですね」
十一回目の勝負まで終わった。マルメロは、俺の前に正座をして座っており、俺はあぐらをかいているので、今も視線の高さはマルメロの方が上だ。白黒のもふもふの太ももがすぐそこにある。
「あ、あるじ様? 何をやってるんですか? 何でこれに負けたんですか?」
ポイズンアントが向こうから、信じられないという様子で声を掛けてくる。
「いや……まぁ……なんでだろうね……」
マルメロの手は、なんと十一回ともグー。なんならあいこも含めて彼女は一回もグー以外を出してない。マジか。
ポイズンアントは、内心では当然俺が勝つものと思っていたのか、それともグーしか出さないマルメロに俺が負けたことに驚いているのか。じっとこっちを見ている。
「次は……一回くらい、グー以外出してくるんじゃないかって、ずっと考えてたね……」
「私は逆に、少しでも考えたらご主人さまに負けると思ってたので。ただ無心でグーを出してました」
と、マルメロはそう返す。そういうことか。俺の思考エネルギー返せ。
「一回ぐらい考えなよ」
「でも、結果私が勝ちましたよ」
マルメロには、一見そんな様子は見られないが、よくよく見れば、どこか勝ち誇ったような表情をしている気がする。
「な、なんだか意外な結果です」
と、向こうの椅子に座ってこちらを向きながら、ポイズンアントは言っている。
「その……マルメロさんを侮っていたわけではありませんが……まさか、マルメロさんがあるじ様より強いなんて」
「こんな運がらみの勝負一発で、私たちの関係の格付けを行う気はありませんよ。でも、楽しかったですね。ご主人さまに一杯食わせることが出来て、私は満足です」
この厨パ脳筋が……。
「くっ……今回は素直に俺の負けを認めよう……俺が脱いだ、この“そこそこの魔物の服”を受け取るといい」
「要らないのでそこら辺に掛けといてくれますか」
と、椅子がガタとなる。見れば、ポイズンアントがそこで立ち上がっている。
「でも……私にも、そのゲームのルールが分かりましたよ! 勝ち方も! 私ならマルメロさんに勝てる気がします! 私とやりましょう、マルメロさん!」
ポイズンアントは、威勢よく、そんな事を言っている。
「おや、いいですよ。敗者の人は、席を譲ってもらえますか?」
マルメロ?
「敗者の人は席を譲るよー」
ポイズン マルメロ サイコロの目 勝者→★
パー ★チョキ 3(順当)
★パー チョキ 5(逆転)
チョキ ★グー 1(順当)
★パー グー 4(順当)
チョキ ★グー 2(順当)
グー ★パー 3(順当)
チョキ ★グー 4(順当)
パー ★グー 5(逆転)
★チョキ グー 6(逆転)
パー ★チョキ 4(順当)
チョキ ★グー 2(順当)
「3対7。マルメロの勝ちみたいだねー」
ポイズンアントは、その場でばっと立ち上がる。
「このゲーム面白くないですよ!」
と、そっちの置いていた魔法のポーチの蓋が開き、中からのそのそと黄金の餅が這い出てくる。騒いでたから起きてきたのかな。あるいは混ざりたくなったか。
「あ、ゴールデンさん! ゲームしましょうゲーム! こっちに来てください!」
ぽんと、白煙が立ち上がり、そこに金色おさげのツインテールの、黒服セーラーの少女が現れる。
「ん……なに……?」
「ゲームですよゲーム。ゴールデンさんに出来ますかね?」
「出来るけど……?」
その後、ゴールデンちゃんとポイズンアントが、畳の上で二人でサイコロじゃんけんで遊んでいた。
最初はやたらポイズンアントの連敗が続き、ポイズンアントが落ち込み始め、その後は逆にポイズンアントが連勝し始め、結果的にはどっこいどっこいでポイズンアントの辛勝。そのうち、ブルーバードとヴァンピも二人で帰って来た。小腹も空いてきたので、俺はお茶会の準備を始めるため、壁の木製の棚に手を掛ける。




