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第二十話『“死と踊る鴉”《死竜ネゥロデクス》』





『貴様の歓迎?そんなもの要らぬ。

我は何処ぞの鳥肉と違い育ちが良いのでな。』


『おやおやおや、遠慮はいりませんよ?

折角ですからフルコースでも

ご馳走しましょうか。』


『残念だが、我も娘も

腐肉を食らう趣味など無いわ。

無論、貴様の好きな生き血も啜らぬ!』


「はわ」


『安心せよシャーリー。

我は獲物を狩る時、きっちり一撃で

首を切り落とし、息の根を止めてから

食らうと決めておる。


其処な鳥肉の様に、暇潰しとして獲物が

生きたまま内臓を貪り食ったりはせんぞ。』


「はわわ」


『そろそろお止めなさいディルギーヴ。

お嬢さんが引いていますよ。』


『貴様にだろうが!』



両方にである。


首をわざわざ切り落とす必要はあるのか。

生きたまま内臓を貪り食うとはどういう事か。

シャーリーの脳内では、ニコニコしながら

美味しい料理を振る舞ってくれた

シャルドームの姿が蘇る。


シャルドームおじ様って、本当にまともな

“現象”の竜だったんですね……と

彼女は再確認した。



『用件があるのならお早めにどうぞ、

しつこい貴方の事です。

応えねば帰らないでしょう。』


『しつこいのは貴様だこの粘着ガラス。』


『いつまでも噛み付いてくるのが

悪いのでは?』


『纏わりついて来るからだろうが!』



確かに相性が悪すぎる。

今にも襲いかかりそうなディルギーヴと

楽しそうなネゥロデクス。

ポンポンと交わされる言葉の応酬に、

シャーリーはオロオロと困惑するしかない。



『申し訳ありませんね、お嬢さん。

貴女の父親とは古い付き合いでして。』


「あ、いえ、お構い……なく?

でも喧嘩はあんまりしない方が……。」


『“現象”の竜というのはね、

友ならば仲が少しばかり悪いくらいが

ちょうど良いのです。』


『友ではないわ。』



“現象”の竜、仲が悪すぎても困るが

仲が良すぎても困る。

例えば炎竜と氷竜の番がいるのだが、

その竜達が住まう地は炎と氷が吹き荒れる

とんでもない場所と化している。


世界を書き換える存在が、強く干渉し合えば

簡単に環境が変わってしまうのだ。



『我の娘に馴れ馴れしくするな。

腐臭が移る。』


『流石に、お前のお嬢さんに

ちょっかいは出しませんよ。

シャルドームあたりから既に

聞きましたでしょう?


私も既に愛する番と子がいる身。

子達より幼いお嬢さんを虐めたとあっては、

番に嫌われてしまいます。』


『普段から他者を虐めている

自覚はあるのだな???』



怒るディルギーヴ、ニコニコと微笑みながら

それをいなすどころか煽るネゥロデクス。

これは……確かに仲が良い、のだろうか?

シャーリーとしてはどう口を挟めばいいのか

分からず、見ている事しか出来ない。



「おーいネロ、呼んでも来ないなんて

何してんだ?」


『!』


『誰だ貴様。』


「ん?オレはトーマスだけど。」



閉じられた門の向こうにひょっこりと

現れたのは、土いじりでもしていたのか、

土にまみれた一人の若い男。


無造作に束ねられた金に近い茶髪に、

雲一つ無い空の色をした目。

動きやすそうなシャツからは

健康的な小麦色の肌が覗いており、

ネゥロデクスを貴族然とした見た目と

いうのなら、この男は使用人のような

見た目をしている。



「何だ、知り合いか?」


『ええ……まぁ。』


「珍しいなぁ、ここに客が来るなんて。」



トーマスと名乗った男に話しかけられた

ネゥロデクスは、明らかに声と表情が

柔らかくなった。


そしてトーマスは、シャーリーと

ディルギーヴを交互に見ると、

土のついたままの顔でニカッと笑う。



「ここまで来てくれたんだ、

せっかくだし茶でも飲んでいきな!」


「えっ!?」


『……分かりました。


私が庭に案内しておきますので、

貴方はお茶の準備をお願いします。』


「おう!」



トーマスは上機嫌で庭の方に歩いていき、

その背中は見えなくなる。

ネゥロデクスは彼の後ろ姿が

見えなくなるまでニコニコと見送っていた。



『あれが貴様の番か。』


『そうです、美しい人でしょう?』



美しすぎるネゥロデクスと比べれば、

トーマスはいたって普通の容姿だ。

しかし、うっとりとした様子で番を語る

ネゥロデクスをディルギーヴは、

温度を感じない冷たい目で見やる。



『こんな山奥に番を押し込めて、

一人と一頭きりか。


貴様の事だ、どうせ醜い独占欲が

働いたのだろう。』


『おやまぁ、竜聞きの悪い。


どの“現象”の竜でも、

そうやって番と過ごすでしょうに。

私も番水入らずで過ごしたいだけですよ。』



バチバチと再開した馴れ合いはトーマスが

戻って来るまで続き、間に挟まれた

シャーリーは若干泣きたくなっていた。













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「なるほどなぁ、そりゃ大変だったろ。」


「いえ、家族がいてくれましたから!


……わぁ!

このお茶、すごく美味しいです!」


「そうか?そいつは良かった。

嬢ちゃんが帰る時、いくつか包んで

持たせようか?」


「良いんですか?

ありがとうございます!」



シャーリーとトーマスは、整えられた庭が

一望出来る場所で、様々なお茶を

楽しんでいる。

(ディルギーヴとネゥロデクスは、

机から離れた場所でまだドンパチしている)


どうやら土いじりする他に、

育てたハーブなどを使ってハーブティーを

作るのもトーマスの趣味の一つだそうで、

毎日ネゥロデクスとお茶をするのが

日課なのだそう。



「しかし、嬢ちゃん達は運が良い。

そろそろ引っ越そうって話が出てたから。」


「い、今来れて良かったです……。」



ここに来るまでの道中を思い出して

シャーリーは苦笑いを浮かべた。

ほとんど父の背中で過ごしたとはいえ、

他国に移動するのは大変な事なのだ。



「オレは別にずっといても構わないんだが……

ネロの奴は死竜だからなぁ。


一ヶ所に留まり続ければ土地が死んじまって

オレの趣味が出来なくなるってんで、

定期的に棲みかを変えてくれてるんだ。」



ネゥロデクスが司るのは“死”。

つまり、同じ場所に存在し続ければ

その場所を死の溜まり場に変えてしまう。


しかしそうなれば、番であるトーマスは

趣味の土いじりが出来なくなる。

ネゥロデクスは予めいくつか棲みかを

持っておき、定期的に棲む場所を

変える事にしたのだ。

場所を離れた事で影響が薄くなった場所に、

再度棲み直す。


そうやって、場所への影響と書き換えを

最低限にしながら暮らしているらしい。



「辺境伯家もいくつか別荘は所有してますし、

王都にもお屋敷はありますが……

あくまで貴族としての財産ですから、

特定の誰かの為にあるものではないのです。


トーマスさんの為に家をいくつも

用意するなんて、お優しいんですね。」


「毎回、こんな場所良く見つけてくるなって

ところばかりなんだよ。」



この屋敷はソドシアンの四つの自治区が

覇権争いをしていた時代、

アンラエラ地区を治めていた一族が

建てさせたものらしい。

わざとリュゼーヌ王国の建築様式で

建てる事で、他の国との繋がりや資金力等を

他の地区に誇示する目的があったのだとか。



『現在では、周辺三つの地区から

中央地区のシタダンへ人口が流入しています。


この屋敷は、随分前から場所すら

忘れ去られてしまっているようでしたので、

私がいただきました。』


「そういえば、お祖母様から

このソドシアンは近い内に一つに

纏まりそうだ、と聞いた覚えが。」



もはや、“アンラエラ”という場所に

固執するのは古い老人達だけとなった。

多くの民が暮らしていたであろう森は

ただひたすらに静かな場所となり、

ネゥロデクスはその静寂を好んで

この場所を棲みかの一つととしたようだ。

(勿論、誰の許可など取っていないが)



「ネロが優しいって話だが……。

“現象”の竜ってのは、

軒並み番や子どもには甘いからなぁ。

嬢ちゃんの父親もそうだろ?」


「はい!最近会ったばかりですけど、

大好きですよ!」



トーマスとシャーリーの和気藹々とした

会話の裏で、娘の笑顔と大好き発言を受けた

ディルギーヴは、『グゥゥ!!!!』と唸りながら

膝から崩れ落ちた。大ダメージである。



「素直で良い子じゃねえか。

おいネロ、減るもんじゃないし

協力してやんな。」


『貴方が言うならいくらでも。


……ですが言わせて下さい。

減るものはあります。』


「何がだ?」


『貴方と二人きりの時間ですよ。』


「千年も一緒にいるんだから、

多少減ったって構やしねぇだろ。」



崩れ落ちたディルギーヴを放置し、

トーマスの側に歩み寄るネゥロデクス。

番の手を愛おしそうに取り、見た者が

老若男女問わず頬を赤らめるであろう

美しい笑顔で語り掛ける。

……当のトーマスは平然とした顔でいなしたが。



「せ、千年もご一緒なんですか!?」


「途中で子育て挟んだから、ずっと

二人きりって感じはないけどな。

上は九百ちょいで下が……?」


『あの子は今年で五百十九歳です。』


「あぁ、もうそんなになるか。」



長く生きる“現象”の竜と番の

会話だからか、出てくる月日は

十年どころか百年単位だ。


目を回しかける娘と裏腹に、

“千年”という単語を聞いたディルギーヴは

憎々しげにネゥロデクスに言い放つ。



『……成る程な、貴様の“裏切り”の

理由はそれか。』



何やら千年前に大きな因縁があるらしく、

本日一番の殺意を放っているディルギーヴ。

先程とは比べ物にならないその殺意も、

ネゥロデクスは微笑んで受け止める。



『竜聞きの悪い。

そもそも私は裏切ってなどおりません、

元から中立でしたでしょう。』


『そうだ、貴様は中立だった。

中立“だった”な!』


「……お前、何したんだ。」


『そんな疑いの目で見ないで下さい。

ときめいてしまいます。』


「ときめくな馬鹿。」



このままだとまずい。

ネゥロデクスとディルギーヴの単純な力は

同じくらいだと聞いているが、もし

喧嘩が始まればトーマスやシャーリー、

そして屋敷がただでは済まないだろう。


背を降りても尚、父の手綱は

シャーリーの手の中にある。

気合いを入れ、ディルギーヴの

服の袖を引っ張り、意識を自分に

向けさせる。



「お父様!

色々あるとは思いますが!

まずはお母様の事について聞きましょう。」


『……あぁ、すまんな。』


「ネロ、お前もいちいち煽るんじゃない。」


『すみません。』



各々、娘と番に宥められ、

ひとまず落ち着いたようだ。

二人に促され一頭は嫌々、一頭はにこやかに

茶や菓子が並べられた机を囲む。



『さて、わざわざ来ていただいて

恐縮なのですが……下の子が独り立ちした時、

カラスは三分の一譲りました。


ですので私は、昔ほど情報を

網羅出来ている訳ではありません。』



それに、と前置きしてネゥロデクスは語る。

あくまで死竜が知れる範囲は、

カラス達が見たモノ、聞いたモノ。

それ以外は彼の担当ではない為、この世の

全てを完璧に知っている訳ではない事。



『それでもよろしいのなら

このネゥロデクス、微力ながら

力をお貸ししましょう。』


『本当に微力だな。』


「少しでも情報が得られるなら

ありがたいです! ね、お父様!」

















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



《“現象”の竜の解説~名前編~》

 解説:ネゥロデクス


『“現象”の竜の名前は、

人間の耳には少しばかり不思議に

聞こえるでしょうね。


“現象”の竜の名に用いられる言葉は、

その竜の生息域や生まれた時代によって

変わるので、共通性はあまり無く……

様々な名前の方がいますよ。


名前というものは基本、

親から子に授けるものです。

しかし、私の様に自然発生した“現象”の竜は

親がいませんが……生まれ落ちた時、

何故か己の名前を知っているのですよ。

世界から授けられたのはないか、と

思ってはいますがね。


このネゥロデクスという名前は

古い竜の言葉で“死と踊る鴉”という

意味があります。


ディルギーヴとシャルドームは

“夜の帳”、“黒の歪み”。

ヅォーガンは“比類無き最高峰”。

ミシケロトクラロは“七色の毛玉”。

ザンバギは“大口”。

エトワスタ姫は“星を詰めた箱”……

といった具合です。』












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