第十九話『死竜を探して』
「それじゃあお父様、早速死竜さんを
探しに行きましょう!」
『そうだな。』
シャーリーとディルギーヴは、
普段住んでいる街から離れた森に来ていた。
流石に、他から来た人間達が多い
祭りの最中に、“現象”の竜が堂々と
飛び立つ訳にはいかなかったからだ。
ディルギーヴの手には、シャーリー用に
まとめられた数日分の野宿用の荷物がある。
カラスに案内をしてもらえば
辿り着けるとはいえ、ネゥロデクスの
棲みかの正確な場所は分かっていないので
どうしても荷物が多くなったが、
ディルギーヴは涼しい顔で持っていた。
流石、“現象”の竜である。
『さて、後は案内係のカラスを
適当に捕まれえばよいのだが……。』
「そうは言いますけど……お父様が
脅したせいで、街のカラスがみんな
逃げちゃったんですよ!」
『すまん。』
街にいたカラス達は、ディルギーヴの
『早急に案内しないと殺す……』という
圧を感じ、全て逃げてしまっていた。
案内役が捕まらなければ、
死竜の元へは行けないというのに。
『安心しろ。
次は逃げられる前に捕まえる。』
「いや、普通に羽根を見せて
案内をお願いすればいいんですよ……?」
「カァ」
この森にもカラスがいたらしい。
鳴き声が聞こえたシャーリーは、
父がわし掴んで脅す前に、自分が
カラスにお願いをしようと辺りを見回す。
『おいカラス……命が惜しければ、
あの陰湿粘着ガラスの場所まで
我等を案内せよ。』
「カ……カァ……。」
「お父様!!!!!!」
しかし遅く、既にカラスの胴体を
わし掴みして、例の羽根を押し付けながら
脅すディルギーヴの姿があった。
シャーリーは思わず、手に持っていた
鞄で父親の頭を叩いてしまったが、
これは普通に仕方ない。
結果として、ディルギーヴ(無傷)は
手を離したし、理不尽な命の危機から
助けられたカラスはシャーリーに
懐いてくれたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ディルギーヴ達はカラスに先導され、
シュラージュから東方面に飛んでいく。
アルサフとは反対の方角だ。
しばらく飛んだ後、案内役のカラスは
他のカラスと入れ替わる。
確かに、国を跨ぐような先導は
一羽では疲れるだろう。
時々シャーリーの休憩や睡眠を入れながら
二日間移動した結果…
リュゼーヌ王国から三つほど国を挟んだ、
ソドシアン連合国という国にやって来た。
元は四つの国が覇権を争い合っていたが、
現在では国だった四つの場所を
自治エリアとして分け、一つの国として
まとめた特殊な国である。
ソドシアン四つの自治エリア、
海沿いのソーキウシ、荒野のドイア、
都がある中央のシタダン。
そして森林地帯のアンラエラが、
シャーリー達の辿り着いた場所だった。
「あ、お父様!
あそこに屋敷が見えます!」
『あぁ、貴族の屋敷の様に見えるな。』
「カラスさん!
あそこが死竜さんの棲みかですか?」
「カァ!」
アンラエラ地区は上空から見た時、
見渡す限りの緑一色である。
しかし一ヶ所だけ明らかに木が生えておらず、
大きな建物が見える場所が確認出来た。
庭や畑のようなものも見え、
シャーリーがカラスに確認を取ると
鳴き声を上げる。
どうやら、彼処が件の死竜の棲みかで
間違いないらしい。
『我が降りられる広さではないな。』
「え?入り口前の場所ならお父様でも……」
『まあ、庭に無理やり降りればいいか。』
「お庭はダメですよ!?
とても手入れされてるみたいですし!」
『ならば屋根にでも乗ってやる。』
「嫌がらせはやめましょうね!」
現在、ディルギーヴの手綱は
シャーリーが握っているに等しい。
少しでもネゥロデクスにダメージを与えたい
ディルギーヴを何とか止めながら、
少し離れた場所に降り、例の屋敷へは
歩いていく事になった。
あのままだと、ディルギーヴは本気で
死竜の屋敷に突っ込みかねなかった。
どれだけ嫌いなんだろうか。
「リュゼーヌ王国から出た事が
無かったので……
ソドシアンに来れるなんて
思いませんでした!」
ディルギーヴは人型に戻ると言うので
シャーリーは父の背から降りて、
周辺の草木を見回す。
アルサフやリュゼーヌとまた違った動植物に
心が踊っているようだ。
シャーリーの肩に乗るカラスは
この森の生まれのようで、何が楽しいのか
分からず、首をかしげていたが。
『陰鬱とした森よ……
あの粘着ガラスに相応しいわ。』
「お父様……ネゥロデクスさんって
カラスを通して見聞きしてるんですよね?
悪口なんて言っちゃダメなのでは……。」
「聞こえる様にわざと言っておる。
問題無い。」
『問題しかありませんよ?』
勝手にこちらの行動を好き勝手に
見ているのだから、こっちだって好きなだけ
彼奴の悪口を言っても良い。
それがディルギーヴの意見なのだ。
シャーリーはそんな父を見て、
「お父様ってわりと子どもっぽいところが
あるんですよねぇ……」と心の中で思っていた。
もし言ったら、娘には格好良く見られたい
父親心を傷付けるであろうから
心の中だけに留めておくが。
……大人な配慮である。
しかし、後ろを歩くシャーリーに
気を配りながら、娘が持てない重い荷物を
持ってくれているディルギーヴ。
そこにはシャーリーも素直に感謝していた。
「でも本当に深い森ですね……
地面のあちこちに木の根があって
歩きにくいです。」
『転ばぬ様に気を付けよ。』
「はい!
……あ、見えてきましたよ!」
地面を波打つように、
大きく太い木の根が生えている。
躓かないよう、慎重に歩を進めていると、
空の上から確認出来たあの建物が目に入った。
本当に屋敷の周辺にだけ木が無く、
屋敷は古いようだが、手入れされており
人の気配もある。
ようやく辿り着いた目的地を前に、
シャーリーは達成感から少し座り込んだ。
「やっと……やっと着きました!」
『人がまず居らぬ山奥、
空からしか見つけられぬ立地。
フン、良い趣味をしておるわ。』
「お祖父様からいただいた羽根が無ければ、
見つけるまでどれだけかかったか……。
うう、考えたくありません。」
わずか二日とはいえ、貴族令嬢の
シャーリーにとってここに来るまでの
二日間は大冒険だった。
しかし、本題はこれから。
ディルギーヴに差し出された手を取り、
立ち上がる。
「……あれ?
このお屋敷……。」
『どうした。』
「シュラージュ……いえ、リュゼーヌ王国の
建築様式とどこか似ているような?」
『それはそうでしょう。
この屋敷を建てさせた人間は、
わざわざリュゼーヌ王国から建築家を
呼び寄せたそうですから。』
「ヒャッ」
古い屋敷の入り口は、
厳かな鉄の門で塞がれていた。
屋敷の周辺を囲む柵と同じように
蔦や薔薇が絡みつく、大きな門の前。
先程まで誰もいなかったはずの
その場所に、とても美しい男が立っていた。
細身で背の高く、そして肌が異様に白い男。
彼は深い金色の目を細め、
微笑みを浮かべながらこちらを見ている。
『ご機嫌よう、ディルギーヴ。
そして初めまして、シャルラハロート嬢。
私の巣へようこそ。』
特に歓迎はしませんが、と笑いながら
艶のある長い黒髪をさらりと揺らし、
死竜、ネゥロデクスは親子の前に現れた。




