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第十八話『祝誕祭の終わり』




「お祖父様!

ビックリしたじゃないですか!」


「……すまん。」



数回のノックの後、屋根裏部屋の

扉を開けたのは祖父のジョンだった。


突然聞こえたノックに驚き、

固まっていたシャーリーは祖父に詰め寄る。

そんな孫に、ジョンは

いつも通りの顔で謝っていた。



『何用だ?』


「死竜とやらを探していると聞いた。」


「はい、探してます!」


『この周辺は粗方探したが、

ネゥロデクスならば我が探し終わった場所に

移り住む、くらいやりかねんからな……。』



性格の悪い(闇竜談)ネゥロデクスなら

それくらいはやるだろう、

ディルギーヴへの嫌がらせの為だけに。


此方を見て細められた金色の瞳、

猛禽類を思わせるような鋭い顔立ち、

光を吸い込む漆黒の羽毛、

夜空を覆う六枚の大きな翼。

脳裏に浮かぶ、あのいけすかない死竜の相貌。

思い出すだけで歯軋りしてしまう。



「用心深い方のようで、お父様の弟さんでも

棲んでいる場所が分からないそうで……。」


「分かるぞ。」


「え?」

『は?』


「死竜の場所が分かると言った。」



ジョンは表情を変えず、驚愕の事実を述べた。



『なっ……人間があの死竜の棲みかを

見つけただと!?』


「お祖父様、どういう事ですか?」



ディルギーヴは大混乱である。

何故ならネゥロデクスはとても賢く、

とても用心深い。

しかも、その棲みかには

ネゥロデクスの番がいるのだ。

番を守る為、もっと複雑に棲みかを

隠しているだろう。


それなのに、何故ジョンには

巣の場所が分かるのだろうか。



「わしの知り合いに“現象”の竜が一頭いる。

そいつに聞いた。」



ジョン、と言う名前は、六十年前に

先代辺境伯アルフレドから貰ったものだ。

あの戦が起きる前の名無し時代、

ジョンは竜域とシュラージュの境目で

暮らしていた。


その時なんと、偶然遭遇した

とある“現象”の竜から喧嘩を売られる。

当時、魔獣と“現象”の竜どころか、

人間とも区別もつかなかったジョンは

その相手に襲いかかり、気に入られたそうだ。


そして起きた六十年前の戦争。

呼んだら現れた竜の背に乗って

敵陣に突っ込み、一人と一頭で大暴れしたら

いつの間にか敵が全滅していた……らしい。



『ローズと父娘(おやこ)過ぎる。』

「お母様と父娘(おやこ)過ぎます。」


「……奴は人間が好きらしい。

正確には“弱いくせに竜へ対抗しようとして

産み出す工夫が面白い”、と言っていたが。」


『何処の馬鹿だ其奴は。

我はそんな酔狂な竜を知らぬぞ。』



随分と変わり者の竜のようだ。

弱いからこそ人間が好き!

だからわざと戦いを仕掛けているという、

人間からしたらとても厄介な竜のようだ。



「そいつに連絡を取ったところ、

手紙と共にこれが送られてきた。」



ジョンが差し出したのは、

一枚の大きな黒い羽根だった。

暗い室内でもより黒く光るその羽根は、

明らかに普通の鳥のものではない。



『死竜の……羽根か?』


「手紙には、この羽根を

そこら辺のカラスにでも見せれば、

死竜の棲みかまで案内してくれるだろうと

書いてあった。」


「すごいです……!

それが本当なら、ネゥロデクスさんに

会えますよ!」


『あぁ、しかし……その竜は

この羽根をどうやって得たのだろうな。

いや、それはどうでもいいか。』



いくつかの謎が残るが、

ひとまずネゥロデクスに会える算段がついた。

会えればこっちのものである。

ローズとシャーリーの為にも、苦手だから

会いたくない、なんて情けない事は

言っていられない。



『まだ祭りの最中ではあるが、

明日にでも奴の棲みかに赴くべきだろうか。』


「そうですね……距離も分かりませんし、

花火が終わったらすぐに

数日分の野宿の準備をします。」


「……ローズは、幸せ者だったのだな。」


「え?」



ローズの死の真相を知るチャンスを

逃すまいと話し合いをする親子を見て、

ジョンはポツリと呟いた。



「ローズは嫌われる方が多かった。

誰よりもわしに似たからな。

……だが、これ程愛されている。


だからこそ、言えなかったか。」


『……何をだ?』



何度言っても、どれだけ諌めても、

娘であるローズは何も変わらなかった。

それはそうだ、自分だって何を言われても

変わらなかった人間だから分かってしまう。


貫き通せてしまう強さを、ローズは

父であるジョンから受け継いだ。

強いからこそ、変わる必要が無かった。


しかし、ローズの、最期は。



「お前に、弱った自分の姿を

知られたくなかったのだろうさ。」



ローズの最大の理解者たる祖父は、

ディルギーヴを見て、諦めたように言う。


死に近づく弱った姿を伴侶に見せるなど、

強者として生きてきたローズには

無理だったのだろう。

変わってしまった姿を、

見られたくなかったのだろう。


結局のところ、ローズは

己の命より我が子を取りながら、

最後は自身のプライドを優先したのだ。


悪評高い自らの娘、父親がいない娘が

これから辿る茨の道を分かっていて、

母は伴侶の正体を語らず、会わずに逝った。



『シャーリーには……彼奴のプライドのせいで

苦労を掛けたのも理解はしておるがな。


……我からすれば、

そんな所も好ましかった。』



ディルギーヴは、ジョンの目を

見据えてそう言い放つ。


何千年も生きる“現象”の竜、ディルギーヴを

惚れ込ませるような相手なのだ。

変わった程度で、死んだ程度で、

嫌いになるなどあり得ない。



「……湿っぽい話はここで終わりにして!


お父様、お祖父様!

実は私、一人でお茶を

淹れられるようになったんです!」



シャーリーは湿っぽくなった空気を

変えるべく、わざと大きな声を出して

自慢げに胸を張る。


事実、シャーリーが淹れたお茶は

流石にまだ祖母ヴィレネッテが満足する

レベルではないが、ある程度の評価は

貰える出来になったのだ。


ちなみに、雪薔薇騎士団の団員や

ウィンズ達が練習に付き合ってくれたのだが、

付き合った面子の腹はパンパンに

なってしまった。


しばらく彼らの飲み物は

水だけになるだろう。



「お祖父様の分もお淹れしますね!」


「いや、わしはヴィレネッテのところに戻る。

お前達親子の分だけでいい。」


「……お祖父様を引き留めたとあっては、

お祖母様からすごい目で

見られてしまいそう……。


分かりました、また今度ご馳走します!」



お父様、待っててください!と

シャーリーは元気よく下の階に向かった。


そしてシャーリーの足音が聞こえなくなった

タイミングで、ディルギーヴは

ジョンに声をかける。



『……それで、我等の跡をつけていた

あの輩はどうなった。』


「エマが捕らえた。

だが、わしらが話を聞いている最中に

突然死んだ。」


『ほう。』



祭りの始め辺りから、自分達の

跡をつける不審者に気付いていた

ディルギーヴ。


シャーリーに気付かれないよう、

それとなく、エマをはじめとする

雪薔薇騎士団の団員に伝えておいたが、

どうやら捕まえていたらしい。


無事に、とはいかなかったようだが。



「何者かに頼まれて、

お前達をつけていたらしい。


それが誰なのか聞く前に、

血を吐いて死んだが。」


『毒か?』


「分からん、話の途中で突然苦しみだした。

死竜とやらの仕業ではないのか。」


『……死竜は違う。

彼奴が何かを殺すなら、

対象を徹底的に甚振り尽くしてから

自らの手を下す。


ラドの刃といい、今回の事といい……

どうにもキナ臭くなってきおったわ。』


「……わしの孫は守れよ、婿殿。」


『フン、言われずとも

守り切るに決まっているだろう。』



そんな会話を遮って聞こえてきたのは

何かが盛大に転ぶ音。

ガッシャーンッ!という音も下の階から

聞こえてきた為、ディルギーヴとジョンは

反射的に屋根裏部屋から駆け出した。


転んだシャーリーに怪我は無かったが、

割れた茶器の片付けで、結局花火は

見れなかったらしい。


















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『というか、その竜とどうやって

連絡を取ったのだ。


手紙を書いて届く場所に棲んでおるのか?』


「昔そいつが言っていた事を思い出した。

カラスに頼めば届けてくれると。」


『……んん?』


「だから二週間ほど前、そこら辺にいた

カラスに届けて貰えるよう頼んだ。


そしてつい先程、返事をカラスが

持ってきたからお前達を探していた。」


『んんん?』













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