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夢想家タックンと妖精たちの森  作者: マーク・ランシット
9/22

妖精。ひよこ。

 ごそっ。

 僕の背中に、何か柔らかいものがふれた。

 いつの間にか、後ろにデカーーい、ヒヨコが立っていた。


「おいっ、オメエ、誰だ」

「あらーー、タクちゃんたら、お行儀ワルーおますなー。森のみなはんの噂では、ごっつう純な子やって、言うてはりましたのにーーー」


 顔も体もフツーのヒヨコだ。ただ、デカい。僕と、ほぼ同じ大きさだった。


「だ・か・らーー、お前のな・ま・え?」

 僕は、人差し指をヒヨコのおでこに突っ立てた。

 ヒヨコの両方の黒目が、その指に集中する。可愛い様な、怖い様な...。


「わてでっか、わての名前はヒヨ子いいまんねん」

「マンマかよー」

 どっと、疲れがでた。


「マンマとちゃいますよー。ヒヨ子いいまんねん。これを機に、よろしゅーおたのもうしますー」


 なんか、キモイ。こいつ、オス、メス? 

 体がクネクネしてるしーー。ヒヨコが、自分と同じ大きさだということ自体、もう耐えられない。


「ヒヨ子さん。京都の出身あるよ。ワタシうらやましいネ~」

 ベンジャミンが、羨望の眼差しで言った。


「イギリス、ノー。京都、ベッター」

 ベンジャミンの言葉に、ヒヨ子は、一段と身をくねらせながら上目使いに言った。


「わて、ホンマは栃木の生まれなんよー」

「うそーー」

 ベンちゃんが、大げさに膝から崩れ落ちた。そして怒った様に言った。


「栃木、ノー。イギリス、ベッター」

「そんな、冷たいこと、言わんといてーな」


 ヒヨ子は、その大きな羽の先っちょで、ベンジャミンの胸をそっとつついた。


 ホッ、ホッ。

 ベンジャミンは、くすぐったそうに悶えた。


「アーー、うざい。2匹ともうざい。お前らの話聞いていると、なんか変になりそうだわ」


「まーー、タックンはんたら、イケズヤネー」

 ヒヨ子は、ベンジャミンにしたのと同じように、大きな羽で僕の胸をつつこうとした。


 パシッ。

 僕は、その羽を右手で叩いた。


「イッデーっ」

 ヒヨ子は、野太い低い声で言って、羽の先っちょを舐めた。


 おちょぼ口は、可愛い。上目使いの目も、可愛い。

 ただし、大きなヒヨコは可愛くない。むしろ、恐怖を感じる。


 このヒヨコはオスに違いない。僕はそう断定した。


 こんな連中の相手をしてたら、夜が明けてしまう。僕は一番まともそうなロビンを見て、言った。

「おまえら、ここで何をしてるんだ?」


「Of course, for rescuing the beautiful princess」

 僕には、ロビンの答えだけで十分だった。まともなのは、どう見ても彼だけだ。しかし、遅かった。


「イェーーイ」

 ベンジャミンは、ヒップホップのリズムで体を揺らした。


「姫ヲ、タスケテ、現金、ガッポリ、頂きさーー。将来、安泰、クイホウダイ。イェイ」


 ポカッ。


 僕は、調子に乗っているベンジャミンの頭を拳固で殴った。

 ベンジャミンは頭を抱えて地面にもんどり打って倒れた。


 僕とロビンがその様子を見ている隙に、今度はヒヨ子が体を揺らし始めた。


 んっぐぐぐ。


 歌おうとするヒヨ子の口ばしを、僕は両手で挟んだ。凄い力だ。やっぱり、デカいヒヨコは可愛くない。


 なるほど、なんとなく全体像は掴めた。

 要するに悪い魔女に捕えられたお姫様を、救い出すのが彼らの目的だということだ。


 定番だ。ど定番過ぎる。もっと捻ったアイデアは無かったのか。

 しかし、ここが僕の深層心理が作り出した世界だとしたら、これ以上のアイデアは無理かも知れない。


「お前は、ガキだよ、低レベル。複雑過ぎたら、オーマイガー」

 ベンジャミンが歌いながら、体を揺する。ヒヨ子も一緒にリズムを取った。

「お前は、ガキだよ。低レベル。複雑過ぎたら、オーマイガー」


 ポコ、ポコ。


 僕は2匹の頭にゲンコを入れた。

 2匹は痛さに、地面を転げまわった。懲りないというか、おちょくっているというか。


 今の僕は、実に荒っぽい。もしかして、日頃のストレスを解消しているのかも知れない。

 ごめんねという思いが、脳裏をかすめた。しかし、すべては自分の生み出した世界の事だ。


「そのお姫さまを助ける為に、オレの頭を目がけて弓の練習をしてたのか?」

「イェーッ・サーー」


 僕のゲンコが効いたのか、ロビンを含めた3匹が、直立不動の姿勢で答えた。

 しかし、結局は僕をおちょくっている様にしか見えない。

 その証拠に、ベンジャミンの体は、ゆっくりとスウィングしているし、それに合わせて、ヒヨ子も体をくゆらせ始めている。この2匹にしゃべらせたら、きっと話が長くなる。

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