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夢想家タックンと妖精たちの森  作者: マーク・ランシット


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10/22

森の秘密

「ロビン。状況を説明してくれないか?」

「イェーッ・サーー」

 頼りになるのは、ロビンだけだ。


 彼の説明は、こうだった。


 深い森の中、一人の美しい少女が、先祖代々から引き継がれてきた小さな泉を守っていた。

 彼女の家には小さな畑と果物の木々、そしてラベンダーのお花畑があった。

 その泉の水からは豊かな作物が育ち、その水で育った果実はとても美味しく、ラベンダーはとても良い香がした。

 そこに住み着いた妖精たちはとても元気で、病気とは無縁だった。


 ところが、その噂を聞きつけた悪い魔女が、少女を牢獄に閉じ込めて、その泉を独り占めにしてしまったのだ。

 その後、妖精たちはそこを追い出され、次第に元気を失っていった。


 ラベンダーという言葉が、僕を正気に戻した。僕にとって、それは、甘さと苦さをあわせ持った言葉だった。

「その女の子は、妖精じゃないんだよね」


 いつの間にか、いつもの自分に戻っていた。

 ラベンダーを守っていたという少女に、とても興味を覚えた。

 

「その通りです。ただ、その美しさと、自然に備わった気品のせいで、妖精たちからはプリンセス・オブ・フェアリーと呼ばれていました」


 ロビンが日本語で答えた。しかも、まともな話しかただ。何が起こったんだ?


「プリンセス・オブ・フェアリーって?」


「妖精たちの姫という意味です。これはとても特別なことです。これまで人間でありながら、妖精たちから妖精のお姫様と呼ばれたのは、彼女ひとりだけです」


「妖精のお姫様?」 

「妖精達にとっては、彼女は何物にも代えがたいとても大切な人です。命に代えても救わなければなりません」


 ロビンの顔が、とても真剣になっている。

 ロビンの後ろには、ベンジャミンとヒヨ子が、ボーーッとした表情で立っていた。


「ステイ(ここで、待て)」

 と、2匹に命令すると、ロビンが僕を木の後ろに誘った。


「魔女の森を見に行きましょう」

 ロビンは、そう言うと、ふさふさの指を起用に使って指笛を鳴らした。


 ピューーッ。


 すると、近くの木陰から2頭の羊が現れた。1頭は白で、もう1頭はまだらな灰色だった。

 大きさは、ロバくらいだろうか。背中には、可愛いくらがのっていて、手綱もちゃんとついている。


 ロビンは、僕を灰色の羊に乗せると、自分は白い羊に跨った。


 ハッ。


 ロビンの掛け声とムチに、羊が走り出した。僕の羊も同時に走り出す。

 うわっ。


 僕は、必死に羊の首にしがみ付いた。手綱を掴んでいたけど、それではとても不安定だった。

 羊は次第に加速して行く。草原の時は、そうでもなかったけど、森を抜ける時は、木が飛ぶ様に過ぎていった。


 「タックン。あれだよ」


 ロビンの声に、僕は顔を上げた。ちょうど、森を抜け出たところだった。

 羊のふさふさの毛の向こうに、島の様なものが見えた。


 僕は、もっと良く見ようと背を伸ばした。羊は相変わらずのスピードで駆けていたけど、もうふら付くことはなかった。

 20メートルほど先に、崖があった。


 メエーーーエッ。

 僕は何の躊躇いもなく、手綱を引いた。羊が、飛び上がる様にして止まった。


 ドウ、ドウ、ドウ。

 僕は、右手で羊の首を撫でた。いつの間にか、羊を自由に操っていた。


 よく見ると、それは島ではなかった。断崖の先にはあのラベンダーのお花畑。

 そして後ろには、鬱蒼とした森とゴツゴツとした岩山。それらが、白い霧の上に浮かんでいた。


 そう、僕のいる森と魔女の住む森の間には、深い深い渓谷があって、その渓谷は、まるで海の様な白い霧で覆われていたのだ。


「どうやって、向こうに渡るの?」

 僕の質問に、ロビンは答えなかった。ただ、黙って空を見上げた。


 なにっ?


 僕も同じように上を見た。

 一羽の大きなタカが上空を漂っていた。

 やがて、そのタカが急降下を始める。そして、僕とロビンの前に舞い降りた。


「その質問には、僕が答えよう」

 タカの背中に乗っている、ナデットが言った。

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