交渉-02
「面白いわね、アンタ。人間の事をよく観察してる」
「でしょでしょ? だから人間とアタシらが和解するなんてムリな話って事」
「じゃあ例えば、レッドとブルーがミューセルに乗り込んで、エネミーを全滅させるから手を組め、とか言ったらどうする?」
その言葉に、優奈と荘司が僅かに目を細め、七海は「黙って聞いていろ」と言わんばかりに睨む。
「……あぁ、その手もあるかも。けど無いね」
「どうして。一番現実的じゃない? レッドもブルーも、今後エネミーが攻めてくるならソイツらを倒すしかない。だったら先に仕掛けようがどうしようが」
「だってさぁ、考えてみてよ。まずそこの二人がやる? 熱血正義娘と、その腰巾着がさ。それに、そんだけ力がある存在が、何時自分たちに牙を剥くかもわかったもんじゃないんだよ?」
振り出しに戻る。
だがしかし――彼女の言う通りなのだ。
「仮にアンタら全員がミューセルに出張ってエネミーを殺しつくしたとしてさ、今度はアリメントも死滅させようと考えないって、誰が約束できんの?
地球のどっかに居る国のお偉いさんが、領地を求めてミューセルに来ないって、誰が保障するの?」
シェリルが言ってたよ――カリスの言葉はこう続いた。
「『人間の強さは、団結力だ。故にエネミーと対峙する為の力を、おいそれと渡す事は出来ない。そうしてしまえば、人間はミューセルに牙を剥く可能性がある。
しかし、エネミーも地球へ侵略させてはならない。そうすれば地球はミューセルの存在を知り、殺すか殺されるか、生存か絶滅か、道は二つに一つなのだから』ってね」
「似たような事を、シェリルは私にも語ったな」
志木も、今は亡きシェリルの言葉を、思い出す事が出来る。
『もはやこの世界の武力を行使するか、それともアルターシステムを持つ者で、エネミーを殲滅するか――二つしかもう、道は無い』
彼が憂いだ世界が、まさに到来してしまった。
志木はこう言ったシェリルに、こう返した事も思い出す。
『人間はそれほど、弱くはないぞ』……と。
この言葉は、裏切者の烙印を押されても尚、人間たちとエネミー達との戦いを避けようとした者に反論する為の言葉だった。
けれども現実は、彼が志木やアリメント達に言った通り、地球とミューセルの二つが争い、殺し合う未来へと、辿り付いてしまった。
「シェリルは死んだ、もう居ない」
荘司が、彼女達と視線を合わせる事無く、語る。
「アイツは例えオレにバケモノと嘲笑されようが、同胞や愛するワルツと、人間たちを争わせない為に努力していた。
アイツがどうしてそこまで人間を愛していたかなんて、俺達にはわからねぇ。もう知る事も出来ねぇ。
けど――その為に残したこの力、このアルターシステムが、俺達の手にはあるんだ。
シェリルの想いを無駄にしない為にも、お前たちも俺達も、出来る事はないって……本気で言えるのか?」
荘司の言葉に、何か考えるものがあったのか。
カリスは、僅かに笑い方を変えた。
今までは無邪気な、しかしどこかに毒を持った満面の笑みだった筈なのに。
今は――何か、悟ったような表情で、言う。
「アタシさぁ、シェリルが好きだったんだよ。
アイツ、エネミーの癖して、アタシらに喰われにくい場所を教えたりさ、困った時にはってエルスを作ってくれて、しかも『僕に何かあった時はこの製造法を使ってくれ』って、地球の材料で作れる設計図まで渡してくれたの」
「そのエルスは、どこで大量生産を?」
「地球の事はあんま知らないけど、インド? って所にいた武装組織に教えた。最初はアタシらには寄越さずに自分たちで使うつもり満々だったみたいだけど、脅してね。まぁそんな事はちっちゃな事か。
――分かる? シェリルってば、誰も不幸になってほしくなかったんだ。
アタシらの虚力を喰うだけの存在だった筈なのに、そうするとアタシらが幸せにならないって。
でも、そんなシェリルを覚えてるアリメントは、もう両手の指使って数えられる位にまで減っちゃったよ。
……アタシたちがどうしてこんなに必死か、これで分かった?
アタシたちアリメントは、これまで救ってくれていたシェリルに、恩義を感じてた……! でもシェリルはもう居ないッ!
だからアタシたちはもう、戦って生を得るしか、生き残る為の道は無いのッ!!」
自分の気持ちを、叫ぶだけ叫んで、カリスはハァ、ハァ、と息継ぎをしながら、口を閉じた。
「よく言ったカリス。お前も、戦うべき理由は、しっかりと理解していたようだな」
銃声と共に、志木が前のめりに倒れた。
どこから撃たれたか分からず、全員が志木を見た後に、シャルロットの「全員伏せて!」という言葉に反応し、床に伏せる。
突如、VIP病室の窓から侵入を果たす一人の女性。両手中指には、白と金のアルターシステムが見える。
カリスに施されていた手錠を引き裂き、彼女を自由にした上で、志木と近くにいた七海の首を掴み、拘束した。
女性は、修道女に似た格好をしていた。
髪を隠すウィンプルを被り、その上でベールをまとっているものの、完全に髪は隠れずに、長い黒髪が後ろから見える。
カリスと同じく健康的に焼かれた茶色がかった肌。身長は高く、スラリとした肉体はアスリートと言われても通用するだろう美貌がある。
身体を包むチュニック。しかし丈は本来足全体を隠す筈のものが、ミニスカート丈となっている。
手に持つのは、一丁のアサルトライフル。銃口からは僅かに煙の臭いがして、それが志木を撃ったのだと理解させた。
そんな女性を見て、優奈と志斎が率先して立ち上がろうとするも、手に掴む志木の首を軽く捻ってうめき声をあげさせると、二者はそこで動きを止める。
「動くなよ。ナナセナナミはともかく、こっちの男はいつでも殺せる」
七海は首を掴まれ、苦し気な表情を浮かべつつも、まだ余裕がある。
だが、志木は別だ。背中を撃たれた上に首を掴まれ、いつ息絶えてもおかしくは無い。
「貴女は、ゴールデン・マリー号でお会いした……それに、その姿は……!」
シャルロットが、僅かに視線だけを彼女に向け、声を出す。すると女性も面白そうに笑みを浮かべ、名乗りを上げる。




