交渉-01
現地時間、二千十八年七月二十五日、午後十時二十三分。
直哉と花江が席を外した、秋音市民病院のVIP病室に軟禁されているカリスの事を囲む六人。
目を醒ましたカリスに気が付いた人物は、一番近くにいた志斎だった。
「あーあー。こんな上玉な虚力が二つもあるのに、このザマかぁ」
カリスは目を醒ますと呆気らかんと言った様子で溜息をつきながら、周りを見渡す。
久野優奈は常人よりも少々多い程度の虚力量。
菊谷荘司は男性にしては多い程度で、彼女からしたら微々たるもの。
秋山志木は男性に多くいるごく少量の虚力。
豊穣志斎も、荘司と志木の間程。
シャルロット・クラージュは事前に調べていたよりも多く、以前カラミティと行った戦闘の際に成長したと見える。
神崎美咲は――尋常ではない量だった。自身の虚力だけで生き長らえる事が可能で、本来は虚力の摂取は必要ですらないアリメントである彼女が、思わず涎を流す程の逸材。
そんな神崎美咲を悠に超える虚力量。
七瀬七海、彼女は少々離れた所からこちらを伺っていたので、手錠によって拘束されている手を軽く振って会釈する。
「ナナセナナミ、にゃっほー」
「目を醒ましたようだな、アリメント」
既にアルターシステムを構えた志斎が、代表して問うてくる。志木を除く者で一番年長者であるからだろうか。
「うん、そだね。それよりこんな手錠一つでアタシを拘束できると思ってんの?」
「適した拘束具が無いのでな。四六が設備を用意するまでの間、最低限の措置だ」
「その間、アンタらアルタネイティブ達が見張りってワケ。アタシも人気者だねぇ」
「カリスって言ったか。アリメントってエネミーのメス種なんだよな。どうして、人間を襲う?」
志斎に代わって質問するのは、優奈である。彼女は元々エネミーと対峙した四六のアルタネイティブであるからして、メンバーの中でも一番関心が深いのだろう。
「カンザキミサキにも言ったじゃん。聞いて無いの?」
「ミューセルの存在を知った人間が、ミューセルに攻め入るかもしれないから、って聞いた」
「そーそー。その通りその通り。それ以上の事なんて何もナイナイ」
「ならこれから幾らでも共存の道がある。その為の交渉をする事も出来るのだが」
志木が言葉を挿む。カリスはムッと口を歪ませ、フンと顔を逸らした。
「共存ねぇ。そりゃ無理だよ」
「なぜ」
「まず言葉の壁。アタシたちは元々シェリルと繋がってたから、人間の言葉を理解できるようにされた。アイツって凄いんだよ、人間の言葉を理解できるように翻訳チップをエネミーに埋め込んで、アタシたちバルキリーにも必要な時が来るかも、って埋めてくれたんだ」
「何故エネミーと言葉が通じるか不思議だったが――シェリルが理由だったのか。君は、彼がどうなったかも知っているのか?」
「死んだんでしょ。ワルツの奴が殺して、ワルツも死んだって聞いてる」
元々四六がエネミーやミューセル等の情報を知り得ているのは、人類へ警鐘を鳴らす為に協力者となったシェリルというエネミーの功績だ。彼はカリスの言う様に、既に死亡している。
「二個目に外見。アタシたちは人間型だしアンタらと大差ないけど、ほとんどのエネミーなんかは、アンタらで言うバケモノだよ。エネミーで一番数の多いスネークウルフタイプって知ってるっしょ? アイツらみたいなのがワンサカ」
「確かに外観がバケモノだったら問題だな」
荘司が嘲笑に近い笑みを浮かべ、優奈が頭を殴る。
「三個目に能力。もし外見が人間に近いアリメントだけ共存するにしたって、アタシたちには人間を超える力がある。
アタシの能力は虚力を奪う事に特化したモンだけど、サニスなんかはレーザー撃てるんだよ? そんなのがお隣さんになるかもなんて、人間もヤじゃん?」
「あのサニスというアリメントも、ある程度交流が出来るタイプのようでしたわね」
「あぁ。お姉さん、サニスと話したんだ。でもサニスは生粋の他人嫌いだから、人間と和解なんかムリムリ」
シャルロットが自身と対峙したサニスを思い浮かべているとカリスが首を振り、そして「次が最後」と付け加えた。
「これが一番の問題だなぁ。アリメントはほぼ不老に近い長命なの。だから百年ぽっちで寿命を迎える人間社会にいる事なんて無理に決まってる」
アリメントは、自身にある虚力だけで生存が可能だ。そして肉体の構造上五千年近く生きる事が可能であると言う。
仮に百年生きている間に、彼女はどれだけ老けるのだろう。
「百年くらいじゃ老けないよ。アタシャ二百年位生きてるけど、こんなに可愛い幼女じゃん。サニスは三百年位って言ってたかな、それでも美人なお姉ちゃんで、シェリルとワルツも百歳超えてるけど、若かったっしょ?」
「人間社会に溶け込むには、君たちの存在自体を世に知ら示す以外に方法は無い、という事か」
「でもそんなの出来ないっしょ? 異世界があって、ヤバい能力持ってて、そんでもって今まで裏でこんだけドンパチやってましたー、なんてさ」
「人間の事をよく分かってるのね、感心だわ」
最後に七海が頷き、志木を見据えた。
志木は聡い大人だ。
しかし、だからこそ彼女の存在を世に公表するなどが無理に等しいと、現実的に考える事が出来る。
異世界人とのコンタクトという事自体が、そもそもスクープを超えた大ハプニングだ。
四六は、防衛省は、日本という国は、その存在をひた隠し、アルタネイティブという力を持ってして、これに対抗していた。
公表において、問題は最初の混乱だけでは無い。
初動対応に対する市民からの追及、エネミー・アリメントへの人権問題、続いて彼女達の繁殖、日常への影響……。
日本と言う小さな島国だけでは無く、世界各国にあらゆる影響を与えると言っても過言では無い。
「アタシらの存在を公表するだけで、市民団体とやらがウルサイよー。きっとお金になるって思って『アリメントさん達にも人権があるべきなのに、彼女達の心の傷が! この訴えを聞き届けない国はどうなってるんだ!』みたいな!」
キャハハと笑いつつも、的を射る発言に、七海も笑わざるを得なかった。




