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アルタネイティブ  作者: 音無ミュウト
第四章【災い殺しのプリステス】
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カラミティ、企みます。-04

 触手に向けていた二丁拳銃の銃口を彼へと向け直し、トリガーを引く。


無数に放たれた銃弾を、カラミティは眼前に顕現した岩の壁で防ぎきると、壁の一部を削り取り、それが短剣として顕現した。


短剣を振り、重圧感を身体で感じたカラミティは、サール・クラージュに向けて一歩一歩、距離を縮めていく。



「残念だけど、君程度では相手にならないな」


「お生憎様です事。私、こう見えて意地悪く、諦めの悪い女なのですよ」



 放てるだけ銃弾を放った彼女の攻撃は、総じて短剣の切先が切り裂いた。


 銃弾の終焉を見届けた彼女は、後方へ跳ぶと同時に二丁拳銃を放り投げ、両手中指に装着されたアルターシステムを接続、手首を捻った後、再度逆方向に捻り直した。


二度、小さく光を放ったアルターシステムから展開される、重圧感を察する事の出来る大型機関銃。その機関銃の引き金を強く引くと、銃弾が無数に放たれていく。


ドドドドッ……! と、鼓膜が破れんばかりの爆音を轟かせる機関銃の銃撃を躱すことが出来ないと察したカラミティは、自身と背後にある災い――フォビドゥンの前に、全体を覆わせる程巨大な岩の壁を顕現した。


壁に向けて放たれる銃弾。だがしかし急きょ作り上げた薄い壁は、銃弾による物量攻撃に耐える事が出来ず、真ん中から折れ、崩れ去っていく。


崩れ去る壁から見えたカラミティに向けて放たれる機関銃の銃弾は、彼の頬を横切り、顔面に傷をつける。



「なるほど、これがフランス式アルターシステムか。人間の魔法技術と錬金術、そしてプリステスの虚力技術の応用……確かにそれならば、虚力が少なくとも、災いに対抗できる」



 機関銃の冷却が開始される。冷却中に再びアルターシステムを稼働させたサール・クラージュは、今度は両手で構えるアサルトライフルを顕現し、引き金を引いた。


短く放たれる銃弾をひらりと躱したカラミティは、地を蹴りサール・クラージュの眼前へと迫ると、その手に掴んだ短剣を横薙ぎする。


だが短剣の軌道を読んでいた彼女は、そのアサルトライフルのフレームで剣劇を防ぐと共に、その脚部を彼の頭部へと向けて振り込んだ。


左手の甲で、それを防いだ瞬間、二人の体内から溢れ出る虚力が衝撃波となって顕現し、二人に襲い掛かる。


吹き飛ばされたサール・クラージュとカラミティ。二人は即座に着地して、その動きを止めた。



「ははっ。楽しいよサール・クラージュ。君は余興にピッタリなプリステスだね」


「余興? 何とも寂しい事を仰る殿方です事。女の子は誰もが主役に憧れるものなのに」


「残念だが、この物語の主人公は――僕だよ」



 カラミティが、両手の指をパチンッと鳴らした瞬間、彼の背後から無数の岩の刃が顕現され、それが宙で一度停止すると、彼が言い放つ。



「余興は終わりだ。――君は、一足先に退場してもらおう」



 一斉に、サール・クラージュへ向けて投擲される、岩の刃。アサルトライフルを放棄しながら地面を転がり、そこかしこにある木々を盾にしながら回避を行っていったサール・クラージュは、その無防備な姿をカラミティへ晒した。



「――っ」


「さあ、閉幕だ」



 木々に背を付けていたサール・クラージュの眼前へ、カラミティがいつの間にか迫っていた。彼は手に持った岩の短剣を振り下ろしており、刃が彼女の胸元を切り裂いた。



「がぁ……っ」


「ん。浅かったか、申し訳ない。直接手にかける事は久しぶりでね」


「ま、だ……っ!」


「おっと」



 チュニックにて隠される臀部に装備されたコンバットナイフを引き抜き、切先を振りぬいたサール・クラージュだが、拙い動きは予想されていたかのように軽やかな動きで避けられ、彼女の不意な動きに合わせて傷口から血が噴き出した。


多量な出血による目眩、立ち眩みが襲い掛かり、立っている事すら難しくなってくる。


しかし彼女はグッと顎を引いて、前を見る。コンバットナイフの切先を躱す為、後ろへ飛び退いたカラミティの姿を見据えた上で――彼女は震える腕を持ち上げ、両中指のアルターシステムを合致させ、手首を捻る。


光を放つ宝石。それと同時に顕現される拳銃のグリップを握りしめたサール・クラージュは、地を蹴り、カラミティへと襲い掛かる――と思われた。


だが地を蹴る寸前に彼へ銃弾を放った以外、彼に向けての攻撃は無かった。


地を蹴った彼女の足が、カラミティの肩へ着地すると、もう一度足に力を入れ、跳んだ。



「何――っ!?」



困惑するカラミティ。だがその視線を追った先には。



「み、美咲、様……っ」



 囚われの、乱舞の眼前へと駆けた、サール・クラージュ。


彼女は虚ろとなる目を何とか開きながら、その手を彼女の頬へと伸ばし、その体温を感じた。


まだ温かい。ぐったりと触手に身体を預け、意識を失いながらも、フゥ、フゥと呼吸をする彼女の姿を、安堵の息をつきながら確認したサール・クラージュ。


乱舞のアルターシステムに触れると、指輪を優しい手つきで外し、彼女の変身を解いた。


光が弾ける様に、彼女が身にまとっていた巫女装束が消え去り、秋音高等学校の制服をまとい直した事を確認。


サール・クラージュは、その場に置いていた拳銃のグリップを握りしめ、彼女の身にまとわりつく触手へと押し当てて、引き金を引こうとする。


だが、不意に飛来した岩の短剣が、その拳銃を弾き飛ばす。カラミティが投げ飛ばした物だ。その軌跡を確認しつつ、サール・クラージュは溜息をついて、彼を一瞥した。



「その子から離れるんだ。さもなくば今すぐに殺す」


「やって、ごらんなさい」


「女性を直接手にかける事は僕の美学に反するけれども――僕は災いだ。君が目的に害する行為をするのならば、やるさ」



 パチンッ、と。彼が指を鳴らした瞬間、無数の岩の刃がサール・クラージュに向けて飛来する。


 突き刺さる幾多の刃、その度うめき声を上げる、サール・クラージュ。


だが彼女は確かに意識を保ちつつ、口から血反吐を吹き出しながらも、手を美咲の頬から、離すことは無い。



「……貴女は本当に、美しい」



 自分の吐いた血が、彼女の身体を染め上げるようだったが、それすら化粧のように彼女を彩っていく。



血の似合う身。普通の女子高生には、何の褒め言葉にもならぬだろうが、しかしサール・クラージュからすれば、極上の褒め言葉だった。



「ねぇ、美咲様……私、本当に……貴女の事を、愛してしまいたかった。


 私は、聖堂教会と言う組織を、これ程までに、崇拝していますが……それ以上のものに、出会いたかった……」



 血の熱さを感じたのか、それとも彼女の言葉が聞こえたのか、それは分からない。


だが美咲はゆっくりと目を開き、眼前へ迫るサール・クラージュへと、口を開いた。



「シャルロット、さん……」


「……ふふ、呼び捨てで、構いませんと……そう、言ったのに……」


「なんで……何で、こんな……!」


「貴女が、悲しむ事はありません……これが、私の望み……貴女が無事に、元の世界へ戻る事……それが、私の……私の……」


「嫌……嫌ですシャルロットさん……っ、死なないで、死なないで……っ」


「貴女を殺そうとした私を……貴女はそれでも……死なないでと、言ってくださるの、ですね」


「だって、シャルロットさんは……友達ですから」



 ――友達。



今までのシャルロットにとって、知らぬ言葉であった。


彼女が知る人との関わりは、『仕事仲間』か『愛人』しかなかったから。



「私を……友と、言ってくださるの、ですか?」


「決まってますっ! だからお願い、死なないで……死なないで、シャルロット……っ」


「……貴女は、本当に……強いお方」



 サール・クラージュは、その両手で彼女の頬に触れる。


自身の唇と彼女の唇を重ね合わせ、そっと、目を閉じた。


サール・クラージュの虚力が今、美咲の中へと、入ってゆく。


接吻を介して受け入れられる、彼女の体を満たす虚力と、サール・クラージュの『死』によって得た『哀しみ』の感情が、それらを増幅させたのだ。



「シャルロット……シャルロットぉ……っ」



 嘆き、涙を流す美咲の目の前で、ぐったりと倒れるサール・クラージュ。


 虚力を殆ど失い、また多量の出血で意識を落としたのだ。



だが、そんな彼女の背を、踏みつける者が居た。



「……感謝はするよ、サール・クラージュ。君の虚力が神崎美咲へと流動すれば、その分だけ収集効率は上がるし、君の死によってさらに虚力は増幅された。本当にありがたい。思ってもみなかった朗報だね」



 しかし、と言った彼は、サール・クラージュの背中を思い切り蹴り付けた。



「この僕を踏みつけ、そして逆らった罪は許せない。僕は君の中に芽生えた、神崎美咲と言う友人の存在すら、踏み躙ってやる。


 永遠に僕の傀儡としてやる。君の元へは送らせない。哀しみたまえよ……!」

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