↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルタネイティブ  作者: 音無ミュウト
第一章【災い殺しのプリステス】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/190

神崎美咲、変身します。-01

「神崎さん、昨日と同じ本読んでるよ」


「ね。少し怖いよね」



神崎美咲は、秋音市にある高校、秋音高等学校の一年三組に在籍する少女である。


人と話すことが苦手な彼女には友達はおらず、また素顔をきちんと確認した者もいない。


ただの文学少女。クラスの置物。皆その程度の認識しかなかった。


教師からの評価も「成績の良い模範的な生徒」程度で、それ以上は誰も、何も知らない。


美咲はそれで不自由が無かった。虐めも無ければ人と関わる事も無い。


 それ以上の幸せは、今の彼女にとっては無く、周りも積極的に話しかけにすらいかない。



そんな彼女の日課は、秋音市のショッピング街へ出向き、ウインドウショッピングをする事だ。


 ショッピングとは言う物の、買い物はしない。服を眺め、自分で着てみた所を想像し、似合わないだろうと断じて、そのまま帰宅する。それが彼女の日常だ。


その日も同様だった。学校からの帰り道に、ショッピング街へと出向き、ウインドウに飾られた夏の新作ファッションに目を通した。


涼しい風を感じる事の出来る、ワンピースファッションを見据えて、ウインドウに微かに映る自分の姿にその服を重ね合わせ、アハハと苦笑していると、店内から店員が顔を出した。



「何か、お探しですか?」



 そう尋ねて来た店員の言葉に、びくんと体を震わしてその場から一歩下がると、女性店員も苦笑しながら「急なお声かけ、失礼しました」と一言詫びた。


顔を赤めて、その場で俯いた美咲は、頭を下げて立ち去っていく。会話は無い。店員と会話をした事など、コンビニで「ポイントカードはお持ちですか?」と言う言葉に「もってないれす!」と噛んだ事位しか覚えはない。


帰路への道を歩き出す。どうせ何も買わないのならば、来なければいいのにと、自分でも思っている。


ただ、このままではいけないと言う思いはあって、そのきっかけになればと始めた行為を、ただ続けているだけだった。


溜息を付きながら、敷地の広い自宅へと近付いていくと――俯いていた事によって、道端に倒れる一つの人影に気付くのが遅れてしまった。



女性が倒れていた。



年は美咲より多少上程度に見える。腰まで伸びたルーズカールのかかった茶髪と、英語のロゴが入った白のユーネック、紺色のホットパンツを着込んだギャル系を連想させる姿だった。


倒れている場所も、ただっ広い道路の隅っこ。端には田んぼもあるし、少しだけ周りを見渡せば木々の生い茂る光景と倒れるギャル、ひどくアンマッチしているように見える。


何でこんな所に倒れているのだろう。もしかして婦女暴行でも受けたのだろうか。警察? それとも救急車? どういった処置が必要であるか、一目しただけでは分からず、美咲は意を決して、口を開いた。



「あ……あ、あの……だ、大丈夫、ですか……?」



 少しだけどもりながらも、噛まないように、ゆっくりと発言する。その言葉にビクリと震えた女性は、倒れたまま手を、美咲に向けて伸ばした。



「……超、お腹空いた」


「へ?」


「マジヤバい、空きっ腹過ぎて死ぬ、的な? ……マジヤバなんですけど」


「ヤバ、え? マジヤバ……? え、え……?」



 一体それは何語なのだ。それすら分からないまま、美咲は読み取れた言葉だけを頭に叩き込んだ。



つまり――彼女は行き倒れなのだ。



「あ、あの……近くに、ファミレス、あります、けど」


「連れてって……もう歩けない、マジヤバい。どん位ヤバいかって言うとゲキヤバい……」



 とりあえず緊急だと言う事は分かったので、美咲は彼女の手を取って、その体を起き上がらせた。


顔立ちは非常に綺麗だった。マスカラと付けまつ毛の効いた目元、唇に僅かに塗られたベージュの口紅が、その顔立ちをさらに際立てるようにしていたが、スッピンでも絶対に綺麗な人だと、一瞬美咲は見惚れていた。


だが女性がぐったりと面を項垂れると、ハッと意識を戻して、彼女の身体をおんぶした。


背部から微かに伝わる乳房が潰れる感触に「おお……っ」と、少しだけ驚きの声を呟きながらも、美咲は歩き始める。


ファミレスは田んぼを超えた所にある、運搬業者が良く利用する場所だ。扉を開き、現れた店員さんがニッコリを笑顔を向けた。



「いらっしゃいま」



 だが、背中に女性を背負い、汗をダクダクと流す美咲を見た瞬間、笑顔を引きつらせた。



「……あ、あの。だ、大丈夫ですか? 後ろの方。救急車、呼びましょうか?」


「あ、あ、あ、えっと……お、お腹、減ってるだけ、みたいなので、だ、大丈夫、だと思いましゅ」



 最後だけ噛んだ。店員も少しだけ怪訝そうな顔で美咲に背負われる女性を見据えたが、そこは接客のプロである。「二名様ですね」と軽く受け流して、そのまま席へ案内した。



「ご注文お決まりになりましたらベルで」


「ハンバーグステーキ二人前大至急」



 机にうつ伏したまま、店員が喋る言葉を遮り、女性が早口でそう言ってのけた。


店員は不意に言葉を発した彼女に驚きながらも「かしこまりました」と条件反射でお辞儀をして、立ち去っていく。



「連れて来てくれた人、水持ってきて……このままじゃ枯れちゃう、マジで、ヤバい……」


「は、はいっ」



 女性の言いなりとなりながら、ドリンクバーコーナーの近くにあるセルフサービスのお冷を取りに行き、自分の分と合わせて二つを机へと持っていくと、顔をバッと上げてグラスに入った水二つを物凄い勢いで飲み干していく。


 入れておいた氷まで律儀に口に含み、ゴリゴリと歯を立てて砕いている様子まで見受けられた。



「ホントマジ助かった……」


「あ、は、はい……」


「もう一杯、持ってきて貰っていい?」


「はい」



 少しだけ慣れて来た。再び席を立って、先ほどと同じく二つの水を持っていくと、今度は一つのグラスだけを持ってゆっくりと口に含み、ふぅーと深く息を吐いた。



「ハンバーグステーキ二人前、お待たせしま」



 店員が、少しだけ駆け足で注文した料理を持ってきた、その時だ。


既に手に備えていたお箸でハンバーグを掴むと、それを大きく開いた口で、半分ほど一気に噛みちぎり、口を閉じて咀嚼した。


肉汁が唇を伝って、ベージュの口紅を少しだけ落としていく。


 汁を親指で拭って、残った半分を再び口の中に放り込むと、二つ目のハンバーグに手を伸ばした。



食べっぷりに、唖然とするほか無かった美咲と店員。


 女性はギラッと目を輝かした後に「ごめん、お米欲しいんだけど」と店員に声をかけると、店員も強く頷いて、すぐにバックヤードに。


バックヤードに戻った店員が、ライスを二人前持ってくるまでの時間も早かったが、その間にハンバーグを完食する時間も相当早かった。


 しかもライスが運ばれると同時にスプーンでハンバーグソースをご飯にかけ、皿を口元に持っていった後に、それを一気にかっ込み、良く噛んで、飲み込んだ。



「ふぅうう……ご馳走様でした!」



 パンッ、と手を合わせて深々と頭を下げた女性は、水を飲み干した後ニッと笑みを浮かべた。



「いやぁ、マジゴメンね。アタシには女子高生が女神様に見える」


「あ……わ、私、ですか……?」


「ソ、女神様。女子高生の女神様なんてこの世にいるんだねー。マジウケる」


「そ、そんな……ただ、ファミレスに連れて来た、だけ……」



 ハハ、と苦笑をしながら、極力目を合わせないように俯いた美咲の事を、じーっと見据えた女性は、何を思ったのか不意に、その手で美咲の前髪を掬い上げ、素顔を見据えた。


まだ黒縁眼鏡が残っているが、端麗な顔立ちと、一切化粧をしていないと言うのにきめ細やかで美しい肌を見据え、女性はパァと顔を明るくした。



「なーんだ! 女神様カワイーじゃん! え、なんで前髪目元まで下してんの? 切ればいいのに。切っていい?」


「だ、ダメです……!」



 すぐに前髪を下して、顔を真っ赤にして俯いた美咲は、まぶたに涙を浮かべながら口を閉じた。自分と全く違う人種に出会い、驚きと恐怖が混じり合ったような表情だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。