戦う者-02
住民の避難が完了したという旨の報告を耳に入れた秋山志木は、無線を用いて戦闘部隊に指示を出す。
「これより対エネミー戦闘を開始する。各隊員はA-1マニュアルを参照の上、作戦に参加されたし」
『α、了解』
『β、了解』
『γ、了解』
四六の実働戦闘部隊は三中隊存在する。中隊長の返事を確認し、志木は部下に命令を出した。
「各隊の戦闘記録を念入りに取っておけ。今後のエネミー対策に役立つだろう」
「畏まりました」
返事も行動も早かった。
すぐに準備へとりかかった部下を端目に置きながら、彼は胸ポケットのタバコを取り出し、口に咥えて火をつけた。
――もしかしたら、この戦いでエネミーとの戦いは終わるやもしれん。
百体以上のエネミーが出現し、それらを討伐出来れば、ミューセルは別の手段を鑑みるかもしれない。
――だが逆に、ミューセルの民が結集し、地球との全面戦争へと発展するやもしれない。
今は、答えを知る術はない。であれば、多く対策を練る事は間違いでは無いと思う。
彼は不安を胸に秘め、いつの間にかフィルター近くまで吸っていたタバコの吸い殻を地面に捨てようとした所で、かつての部下の言葉を思い出した。
『課長。道端にタバコの吸い殻を捨てないようにお願いします。市民に対して顔向けができません』
若い女性の声が頭の中に流れて――彼はタバコの箱と共に胸ポケットに入れていた、ポケット灰皿の存在を思い出し、その吸い殻を入れた。
「今隣に君がいない事が、何より不安を駆り立てるよ……野崎」
優秀な部下だった女性の事を思い出し、志木はふとその場で、禁煙してみようかと思考した。
そんな彼の携帯電話が震えている事に気が付くのは、数秒後の事である。
**
ロングレーザーソード同士の斬り合い。
ブラックシェリルは、その斬り合いをしながら、ブラックワルツと視線を交わらせ、そのロングソードを弾いた。
片手に獲物を持ちながら、二人は互いの右手に装着されたアルターシステムに左手をかざした。
〈Alter・Punch〉
〈Alter・Punch〉
機械音声と共に、二人の拳部に小型スラスターが展開される。
スラスターが吹かされると、その威力を内包した拳と拳が、交わった。
ガゴンッ――と、鈍い音が響く。
拳と拳のせめぎ合いは火花を散らしていき、二人はグッと顎を引いた。
勝敗はつかない。二人が吹っ飛び、今度はブラックシェリルが一足早く、右脚部のスラスターに手を伸ばした。
「さよならだ、ワルツ」
〈Alter・kick〉
左足で強く踏み込み、ブラックワルツの眼前まで迫ったブラックシェリルは、右脚部を思い切り引いた後、強く突き出した。
スラスターが吹かされ、威力を確かに含んだ蹴りが、今にもブラックワルツへと放たれる――と思われた瞬間だった。
ブラックワルツは、まだ展開を終えていなかったアルターパンチで、キックの射線を変え、攻撃を避けた。
そして、それと同時に――ブラックシェリルの身体は、がら空きとなる。
「ああ――さよならだな、シェリル」
アルターパンチが、ブラックシェリルの腹部に叩き込まれ、吹き飛ばされる。
公園倉庫へ身体を叩きつけられた彼女は、血を口から吐き出しながら――どこか清らかな気持ちで、ゆっくりと歩いてくるブラックワルツに、視線をやった。
「……流石だよ」
小さく呟いたその時。
ブラックワルツは、今まで手に掴んでいたロングレーザーサーベルを構え、そのサーベルを――投げ放った。
投げ放たれたサーベルは、確かな威力を内包しながら、ブラックシェリルの腹部を貫き、彼女の変身を、解かせた。
青年の姿へと戻ったシェリル。しかし、彼の口は、まだ動く。
近付いてきたワルツに、彼はただ言葉を贈る。
「ワルツ――どうして、こんな事に、なったんだろう」
「お前が余計な事しなけりゃ、お前は生きられた。虚力だけ食って、生きていけただろうよ」
「それは、出来ないよ……ボクは、人間が……大好きに、なっちゃったんだ」
「だからオレを、見捨てたんだな」
「……そう、だね。でも……いいかな、ワルツ……最後に、一つだけ……」
頷くワルツ。彼女の同意を得た事で、シェリルはただ微笑み――言い放った。
「ボクは……君を、ただ愛してた」
「やめろ」
「君を……救いたかったよ」
「やめろ……っ!」
「君にこの感情を……教えたかったよ」
その言葉を最後に。シェリルは目を伏せ――そして、息絶えた。
胸が苦しくなる感覚を覚えて、ワルツはただその場で膝を落とした。
胸に手を当てて、溢れ出る涙を流しながら、ただ叫ぶのだ。
「なんで、何でこんなに苦しいんだよ……! なんで――っ!!」
雄叫びがただ放たれる。少女の叫びは公園内に空しく響き――
彼女が、その声を、聞いた。
「それは、シェリルさんがお前を。そして、お前もシェリルさんを、愛してたからだろ」
怒りを含みながらも、ただ言い放たれる言葉を彼、ワルツの耳にも届いた。
アルタネイティブ・レッド・ブラスターフォームは、両手の中指に装着されたアルターシステムを整えて、ただワルツの目の前に立った。
「どうだ、愛する人を無くす無力感は。苦しいだろ、怒るだろ」
「……あぁ、そうかもな」
「お前は俺に、その気持ちを教えやがった。
――俺は、お前を許さない」
「もう、オレにはなんにもねぇ。
ノザキもいねえ、食い物もねぇ、シェリルもねえ……戦いしか、ねぇんだ」
「そうかよ」
ワルツが立ち上がり、レッドの前で涙を隠すことも無く、彼女を睨む――その瞬間、二人が拳を振り切った。
「オレは全て――壊すっ!」
「俺はお前を――殺すっ!」
交わる拳、触れ合う鼻と鼻。
二人の少女――戦士たちは、今互いの感情を抑え込む事無く、最後の争いを開始した。




