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両軍の騎兵部隊が真正面からぶつかり合う。
なんとも凄まじい迫力。その衝撃たるや如何ほどだろう?
敵味方問わず、双方とも堪ったものではあるまい。
しかし、物量的にマグナ軍の方が被害を被ったのだろうか?
おやおや、意外と共和国軍も…………いや、ダメだな。
確かに、単純な騎兵突撃では引けをとっていない。
だが、その後混戦に持ち込まれてからが、どうもいけない。
共和国騎兵の基本戦術は騎兵突撃で痛打を加える。
そして、そのまま後方まで突き抜ける。その後、突撃体制を整えてからの再突撃。
それを繰り返すという一撃離脱戦法のようだが……。
マグナ騎兵が思い通りにさせてくれない。
彼らは幾らかの出血を覚悟の上で、離脱を許さず無理やり混戦に持ち込んだ。
それからは地力の差がハッキリと出た。
隊列を整えた上での、単純な騎兵突撃。
それならば、両者に兵数差を覆すほどの錬度の差はない。
だが、混戦となれば別だ。
敵味方入り乱れた混沌とした戦場。そんな中、共和国騎兵は不安定な馬上では満足に戦えないでいる。
対するマグナ騎兵は軍馬を手足の如く操った上で、巧みに槍を繰り出している。
凄まじい馬上槍の技術。
騎兵突撃のみならず、混戦でも自在に操ってみせるとは!
ほれぼれする……を通り越して呆れてしまうレベルだ。
共和国騎兵も、一部のベテラン騎士などが同様の戦いぶりを見せるが……。
マグナ騎士たちは、そういった技量の持ち主を優先的に狩っていく。
精兵といえども、雑兵ならいざ知らず、同じ精兵を何人も同時に相手取れるわけもない。
一人、また一人と、討ち取られていく。
――ああ、これがマグナ騎士の真の実力か。
これまで野戦を避け、常に地形を利用した防衛線を展開してきたため、その真価を目の当たりにするのは初めてだ。
数的不利をものともせず、共和国騎士部隊を食い破る様は、ただただ恐ろしい。
更にマグナ王国にはこれを上回る、最強との誉れ高い第二軍の騎兵隊までいるわけで……。
先行きの困難を考えると、ため息が漏れそうになる。
「ゲラルディ少佐戦死! ゲラルディ大隊壊走!」
「右翼部隊、被害甚大! 敵騎兵に押し込まれています!」
「左翼部隊より応援要請! 我単独での戦線維持困難とのこと!」
両翼の騎兵部隊から悲鳴のような知らせが、矢継ぎ早に総司令部に持ち込まれる。
うん、あれだ。もう両翼は持たないね。戦線崩壊は時間の問題だろう。
なんとも不甲斐ない。それに比べ敵中央は頑張っている。
被害は出しているが、まだまだ瓦解しそうにない。
マグナ王国第七軍は賭けに勝利した。
中央を突破されるより先に、両翼を突破するという賭けに。
でもね……。私の側から見れば、それって賭けでもなんでもないのよねー。
だって、どちらに転ぼうと、私には何の問題もないのだから。
「し、シズク殿、本当に大丈夫なのだろうね?」
総司令官代理であるモスキーノ将軍が、焦燥を隠しもせず問いかけてくる。
「ええ、問題ありません」
私はにこやかに微笑みながら、そのように返す。
まったく、肝っ玉の小さいこと。
まあ、だからこそ、こちらに頼りきりになってくれて、私は自由に動けるわけだけど……。
それでも、やっぱり鬱陶しい。
「左翼部隊総崩れ! 壊走していきます!」
ついに決定的な報告がもたらされたわね。ふむ……。
「総司令官閣下、右翼部隊にも撤退を許可して上げてください」
「良いのかね?」
「ええ、構いません。ですので、さっさと逃げるように言ってください」
ほどなくして、右翼部隊も撤退というか、壊走していく。
これで、敵騎兵部隊を遮るものはなくなったわけだ。
「敵騎兵部隊、壊走する友軍を追撃せず、我が軍中央の後方に回り込む模様!」
うん、だろうね。
そのために、中央後方をがら空きにしてやったんだ。
平原なので地形的障害も無く、一見して何らかの備えをしているようにも見えない。
まさに、無防備の弱点を曝け出した状態。
躊躇する理由は存在しないでしょう? さあ、突っ込んで来い!
大地を蹴る馬蹄の音、それにも負けないマグナ騎士の蛮声。
圧力をもって迫る騎兵隊の姿。
迎え撃つのは、共和国軍中央後方に横一列に並んだ弓兵たち。
騎兵突撃の迎撃に弓矢というのはオーソドックスな選択肢だが……。
マグナ騎士は怯まない。
共和国弓兵の姿は多くない。さしたる脅威に思わなかったのだろう。
無理もない。この世界の兵に、それを警戒しろなんて無茶振りもよいところ。
共和国弓兵が弓に矢を番える。
それはただの矢ではない。先端の鏑に燃えやすい油脂を詰めて着火したもの。つまり、火矢だ。
だんだんと大きくなる、刻一刻と迫りくるマグナ騎士の姿。
その真っ只中に――火矢が撃ち込まれた。
ズンと、腹に響く重低音。それが連鎖的に響き続ける。
大地が、空気が震える。空へと吹き上がる砂塵。
いや、上空へ打ち上げられるのは、砂塵ばかりではない。
ちらほらと、人馬の肉片と思しき物体も散見される。
不規則に響き続けた轟音が止む。視界一面に広がる砂煙。
ほどなくして、砂煙が流される。開けた視界の先に、隊列を組み秩序だって突進する騎兵隊の姿は、何処にも無かった。
とあるルートからの進攻を阻害する兵器として、地雷が存在する。
地中に埋没させたそれは、進攻ルートを制限したり、無理を押して通過した軍隊に損害を与えることが出来る。
私にとっては常識的な軍事知識。
だけど彼らはそれを知らない。
当然だ。だってこの世界に爆弾なんてないのだから。
知らないもの、いや、存在しないものを警戒することなどできるはずがない。
ならば、私の用意したキリングフィールドに彼らが飛び込むのも、当然と言えば当然。
今回地雷そのものは用意できなかったので、代わりに、大量の火薬をそのままで撒いておいた。
そこに火矢を打ち込んで起爆したわけである。
効果は上々。
火力が足りず全滅には程遠いが、敵騎兵にかなりの痛打を加えた。
多くの戦傷者を出しただろうし、それ以上に精神的に大打撃を与えたに違いない。
そう、未知の兵器、それが与える恐怖心は相当なものだろう。
完全に隊列を崩した敵騎兵部隊。生き残ったマグナ騎士が、再び部隊を纏めて突撃してこれるだろうか?
まあ、無理だろう。仮にできたとしても、多大な時間を要するに違いない。
最早我らの勝利は揺らぐまい。ならば、残すのは後始末だけだ。
暫くぽかんと口を開けて間抜け面を晒していたモスキーノ将軍だが、正気に返ったのか興奮して口を開く。
「よし! よし! 敵騎兵の残兵狩りだ! 奴らが混乱から立ち直る前に……」
「お待ちください、総司令官閣下」
モスキーノ将軍の命令を遮るように声を掛ける。
ぎょっとした様子でこちらを見やるモスキーノ将軍。
「……何か問題があったかね、シズク殿?」
「進言いたします。執拗な敵への追撃は控えるべきかと。戦果拡大を図る必要性はありません」
「何? 戦果拡大の必要なし? ……正気かね?」
訝しげな表情を浮かべるモスキーノ将軍。
その返事として、私は妖しげな笑みを浮かべてやった。
そうして、私は懐から一通の密書を取り出す。
「閣下、目端の利くものは、あらゆる事態を想定するものみたいですよ?」
そう言って、その密書をモスキーノ将軍に手渡したのだった。




