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4-3:ただ”望む”こと ●

挿絵(By みてみん)

 ―――私からのメッセージ送っとく。読んでおくように―――


 エクスは、”ソウル・ロウガ”のコックピットの中で、ライネの言葉を思い返していた。


「……」


 おもむろに、焦げついたままのコンソールに触れる。

 当然、反応なし。起動するはずもない。

 最低限の明かりしかない格納庫に、吊るされるように固定された機体は、ただ眠り続けている。

 いや、もう死んでしまっているに等しかった。

 エクスはため息をつきながら、シートに背を預けた。

 過去に来て、数ヶ月。時折、こうすることがある。

 意味があるのか、と問われれば無意味と答えるだろう。

 しかし、自分には必要だった。

 ”ソウル・ロウガ”―――この過去において、自分と彼女ライネをつなぐもの。

 この機体がなければ、”絶対強者”への勝利はありえなかった。

 もう失われてしまったかもしれない、彼女からの”メッセージ”には何が書いてあったのか。


 ―――またね―――


 思えば変な奴だった。

 他者とのコミュニケーションの一切を拒絶した自分に、かいがいしく話しかけてきた。

 初めて”怒り”というものを覚えたとき、自分でも驚いたのを覚えている。

 これが”感情”だと、それまで知らなかったのだ。

 ただ、戦うための”機械”として、動いてきた人生に、あの体験は非常に新鮮だった。

 

 ―――ほぉら、君も人間でしょ?これでわかったかね?―――


 今なら、なぜあの時、ライネがイタズラに成功した子供のように笑ってたのかが、よくわかる。 

 おかしかったのだ、と気づくのはいまさらだが。

 

 ―――私はがんばる。だから君もがんばって―――


 彼女のことを女性として好きになったのは、いつからだったか、正直に言うと明確な答えはでない。

 ”絶対強者”の襲撃で、ライネの父親は決死の覚悟で自分達を逃がし、犠牲となった。

 生き残ったのは、ライネと自分だけ。他はすべて瓦礫に飲み込まれるか、”絶対強者”の犠牲となった。

 自分の力は及ばなかった。

 圧倒的な”破壊”の前に、成す術がなかった。

 あの時の敗北は、他のどの敗北よりも喪失感が大きかった。

 そして、生まれて初めて”恐怖”を知った。

 ”死”を脳裏に垣間見て、恐れた。

 

 ―――お願い…私のそばからいなくならないで…―――


 夜に、生まれて初めて彼女の弱音を聞いた。

 求められるがままに、唇を重ね、互いの存在を確かめ合った。

 女1人の悲しみを受け止められるくらいには人間らしくなったつもりだった。

 しかし、確かめ合う中で気づいた。

 自分もまた、弱い部分を心の内に秘めていたのだ、と。

 彼女がいたから、生きたい、と思い、死への恐怖を抱いたのだ、と。

 自分の心に足りない部分を補ってくれる彼女が愛おしいのだ、と。


 ―――もう、負けたくないよね。絶対―――


 互いの喪失を埋めあい、互いを半身として、誓い合った。


 ……そうだ、俺は彼女に会いたいんだ。そして、一緒に生きていきたい。


 それははるか遠くでなく、より身近に実現できる未来。

 彼女を見つけて、この時代で共に生きていこう。

 それが己で導き出した”答え”。

 自分だけの”望み”だった。

 思いながら、コックピットを降り、愛機を見上げた。


 ……もう少しだけ、ここにいてくれ。いつか、お前を静かな場所で眠らせてやれるまで。


挿絵(By みてみん)



「―――見つけた」


 と、ウィルは、


「アウニール」


 甲板にでていた。


「―――ウィルですか」


 彼女は、月を見ていた。

 快晴の夜空。

 はるか遠くにありながら、こんなにもはっきりとした満月が見える。


「なにかありましたか?」


 と、言われると、何を話してよいのか分からない。

 正直、どうして彼女を探してたのか、というのも。


 ……いや、違う。伝えにきたんだ。


 ウィルは、自身の思い込みを正した。

 想いを伝えようと、ここにきて、―――ふと気づく。

 彼女の表情が、曇っている。

 ほんのわずかに。通常気づかぬほどに。

 今なら分かる。


 ……泣きそうな顔してる。


 自然とその身は、彼女の隣に向かった。

 甲板の手すりに、手を置き、一緒に月を見上げる。


「……どうしたのですか、ウィル」


 その言葉が来ると思っていた。

 だから、


「なんでもないッス」


 そう答えた。

 人は悩んでいるとき、傍らに誰かいるだけで救いになるのだと、エンティさんが教えてくれたのを思い出す。

 もし、相手がそれを求めていないなら、


「ただ、こうしていたいと思っただけッスから」


 自分の意思は伝えておく。


「必要ないなら、無視してほしいッス」


 彼女は、即座に首を小さく横に一往復させた。


「…必要なくはありません」


 一緒に空を見上げる。

 彼女は、静かに語りだした。


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