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d+d【先行公開版】  作者: Hilde
【先行公開版】第三章 戦闘 - Battles -

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白銀国 - Silver Empire - 2

◯白銀国・ジルバーブルク・銀冠宮・皇后の寝室(夜)


白銀国皇后エリーザ・マリア・フォン・ジルバーブルク(旧姓:エリーザ・マリア・カストルム)が鏡台に向かい、腰の下まである長髪を侍女たちに梳かせている。

白銀国に嫁いで20年になるが、日課の器械体操により、結婚当時と変わらぬ均整の取れた姿が鏡に映る。


寝室の扉をノックする音が聞こえる。


侍女「皇帝陛下がお見えです」


皇后エリーザ、鏡の中で目を上げる。

「…来たのね。通して」


シャツ姿の皇帝レオンが入室する。

「先週の世連総会の件を、君と話さねばならないと思っていた」


皇后エリーザ、無言で鏡越しに夫を見やる。

侍女の一人が気を利かせて、皇帝レオンに椅子を勧める。


皇帝レオン、椅子に腰を下ろしながら、

「枢密会議の決議は、カナン地区の加盟承認に賛成だった。

代表団に反対を指示したのは、君だな?」


皇后エリーザ、表情を変えず、

「…カストルム(私の国)の国益を守っただけよ」


皇帝「国益?」


皇后「シオンとの関係が崩れれば、カストルムの利益が損なわれるわ。

白銀国(ここ)だって無関係では済まないはずよ」


皇帝レオン、低く静かな声で、

「近く、再討議が行われる。

次は、代表団に反対を指示することのないように」


皇后エリーザ、逆に問いかける。

「…カナンの加盟を承認して、何の得があるの?」


皇帝「得るものではない。

カナンの民が今どのような状況に置かれているか、君は知っているか?」


皇后エリーザ、わずかに肩をすくめる。

「紛争など、世界中にあるわ。カナンだけが特別?」


皇帝レオン、静かに問い返す。

「──カストルムがシオン国に売却した武器の総額が、6兆ディルハムを超えたと聞いたが」


「…耳が早いのね」

皇后エリーザ、侍女たちを手で払い、下がらせる。

鏡に向き直り、自ら髪を梳かし始める。


皇帝レオン、皇后エリーザの背中に向かって、

「カストルムは、シオンへの武器提供を即刻停止すべきだ」


皇后エリーザ、櫛を動かし続ける。

「シオンが要求しているのだもの。

需要があれば供給するのが、造り手の役目でしょう。

こちらが応えなければ、他の者に市場を奪われるだけだわ」


皇帝「その武器で、民間人や子供が殺されている。

人道的観点から、提供を止めるべきだ」


皇后「武器の使い道は顧客が決めるわ。

売り手が責任を負う話ではないでしょう?」


皇后エリーザ、櫛を鏡台に置く。


皇帝レオンへ身を寄せ、声を潜める。

「シオンは隠しているけれど、カナンには〝黒のダイヤ〟が眠っているそうよ」


皇帝「…炭鉱か」


皇后エリーザ、うなずく。

「カナン自身は知らないの。

シオンが、カナン周辺の地質調査で鉱脈を見つけたのよ。


カナンを掌握したら、炭鉱の利益を原資にアッバースへ侵攻するつもりよ。

シオンは、あの一帯に跨る〝大シオン〟という地図を描いている」


皇后エリーザの瞳が熱を帯びる。

「シオンは戦い続けて、カストルムから武器を買い続けるわ」


皇帝「──ならば尚更、シオンを止めなければならないだろう。

戦火が拡大するのを黙って見過ごすわけにはいかない」


皇后エリーザ、皇帝レオンを見つめ、ふっと笑う。

「カストルムだけではないのよ。

白銀国(ここ)も、いずれ潤うわ。


カナンでは、砲撃で手足を失う者が増えているの。

戦いが終われば、大量の義手と義足の需要が見込まれる。

カストルムの義肢部は既に増産を始めているわ。


カナンの子供も、30分毎に10人が手足を失っている。

白銀国(ここ)にも、子供用の部品の大量注文が入るはずよ。


子供のためとなれば国際社会から復興支援金も集まるし──

過去の大戦を超えるGDPも夢ではないわ」


皇帝レオン、総毛立つ。

「私は、国益ではなく、人道の話をしている。

人命を踏みにじって栄える国に、誇りなどない。


我が国もかつては武具で名を馳せた。

だが、鎧の時代が終わった時に、民生品へ舵を切った。

民を生かすことこそ、国家の務めだと考えたからだ。

君の国(カストルム)に、その判断はできないのか?」


皇后エリーザ、肩をすくめる。

「為政者の責務は、自国民を飢えさせないことよ。

この商機を、みすみす逃せと言うの?

白銀国(ここ)だって、義肢部の増産で利益が出るじゃない。

自国の産業を発展させて、国を豊かにすることの何が悪いの?」


皇帝レオン、険しい表情になる。

「…カストルムも君と同じ考えだと捉えてよいか?」


皇后「大統領()はそうよ。

でも、攻城部の営業チームはもっと先を行っている。

攻城部は、シオンと新兵器を共同開発しているの。

カナンの住民で殺傷能力を検証して、〝戦闘で実証済み〟と宣伝しているわ」


形のいい口元をほころばせる。

「〝実戦で成果があがっている〟と評判で、飛ぶように売れているの。

攻城部の売上は、昨年の4割増を見込んでいるわ」


ガタッ

皇帝レオン、立ち上がり、無言でドアに向かう。


ドアノブに手を掛け、低い声で、

「我が国からカストルムへ納品予定の義肢部品は、全て出荷停止とする。

カストルムへ書簡を送り、正式な回答を得るまでは再開しない。


…もしカストルムが攻城部を拡大するつもりなら──

我が国はカストルムとの提携も考え直さねばならない」


皇后エリーザに背を向けたまま、出て行く。

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