白銀国 - Silver Empire - 1
◯白銀国・ジルバーブルク・銀冠宮・謁見の間(日替わり・午前)
この世界最大の大陸、アルテラシア大陸。そのやや西方に位置する帝国、白銀国。
大陸中央山系の西麓に連なるシュヴァルツベルク山脈に、世界唯一のミスリル鉱脈を擁し、武具の名産地として栄える首都ジルバーブルク。
鍛造の響きに包まれた活気ある工房街を見下ろし、静かに威容を保つ皇宮──銀冠宮。
その謁見の間に、緊張した面持ちのアヴェスが足を踏み入れる。
高い天井を支える梁は太く均等に並び、装飾は最小限に抑えられている。
継ぎ目のない石の壁面には、絵の代わりに武具が掛けられている。
ミスリルの全身甲冑が年代順に並び、鏡のように磨かれた曲面がアヴェスの姿を映す。
アヴェス、中央に敷かれた絨毯の上を進み、玉座の前で足を止め、礼を取る。
「白銀国皇帝陛下に、我が意をお伝えすべく参上いたしました。
バラトール共和国のアヴェスと申します」
レオン・ヨーゼフ・アルブレヒト・フォン・ジルバーブルク──壮年の白銀国皇帝が、静かにうなずく。
「君が来た理由はわかっている。
リートゥス名誉教授のご子息が、世界連帯構想の特別総会で演説したと報告を受けている」
アヴェス、視線を上げる。
皇帝レオン、アヴェスの翡翠色の瞳をじっと見つめる。
「その瞳、リートゥス名誉教授にそっくりだな。
まるで、名誉教授が私を諫めに来たようだ」
アヴェス、口を開く。
「…世連におけるカナン地区の承認決議は、貴国の反対により、否決されました。
──貴国は世連創設当初からの加盟国であり、初代理事国の一つでもあります。
そのような貴国であれば、次の再討議では賛成を頂けるのではないかと、お願いに参りました」
皇帝レオン「世連の調印式には、私も出席したのだよ。
リートゥス名誉教授も存じ上げているし、世連の理念にも共感している」
アヴェス「──では、なぜ」
「この件は、我が国は賛成することになっていたのだが──」
皇帝レオン、玉座の肘掛けを指で叩く。
「私の与り知らぬ所で、そのような結果となってしまった──我が国の問題だ」
アヴェス、思わず顔を上げる。
皇帝レオン、静かにアヴェスを見つめる。
「カナン地区の民の窮状には、私も心を痛めている。
──ここは私に任せてくれないか?」
アヴェス「では、再討議では賛成して頂けますか?」
皇帝レオン「約束しよう」
アヴェス、胸に手を当て、お辞儀をする。
「心より感謝いたします」
皇帝レオン、アヴェスのリュケイオンの制服に目を留め、懐かしそうに眺める。
「私も、リュケイオンの学生だったのだよ。もう30年近く前のことだが。
世連創設に奔走しておられた頃、名誉教授と言葉を交わしたこともある。
名誉教授は、父上の示した道を歩いている、と語っておられた。
君も、父君の背中を追っているのだろうね」
アヴェス、しばらくうつむく。
やがて、言葉を探すように口を開く。
「──父が遺した道は、人類の宝だと思っています。
私は父の道を拡げ、灯りを灯したい。
暗闇を彷徨う人たちが、そこを目指せるように」
アヴェス、再度お辞儀をする。




