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エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
3幕 誰にとっての悪なりや

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43-勇者の機動

願いを聞いた。俺に、この街へ来てほしいという声を。

だから来た。それ以上でもそれ以下でもない。


ただ来るだけ。そこから先のことなんて知らない。

他に助けを求められなければ、そんな誰かを探すだけだ。

もしくは、あの女がまた頼み事をしてくるのかもしれない。


ただまぁ、会えないのならもういいとも思う。

こいつらと戦う理由は、俺にないから。


「やぁ、君が勇者?」


悲しくなんてない。苦しくなんてない。

痛みも、空腹も、俺には欠片も存在しない。

俺は何も感じていない。


「……おやおや。無視かい? ひどいなぁ、折角おもてなしの用意を整えたというのに」


門の前で、魔王種が笑っている。

背後に大勢の吸血鬼を引き連れて。


その中にあの女はいない。では、次の救難は不明だ。

ここに俺がいる必要はない。

ノイズの走る視界を閉ざし、俺は相手に背を向ける。


「うーん……もしかして逆効果だったかな? 

さてどうしたものか。義理か利益か悩ましいね」


頭が痛い/痛くない。俺は悲しい/悲しくない。

助けを求める人が、必要だ。


「おーい、シエルちゃん殺しちゃうよー」


そう、人だ。人でなくてはならない。

獣ではなく、神秘でもなく、人。

人間という生き物を、俺は助けなくてはならない。


「ベルくんも殺しちゃうよー」


とても寒い/寒くない。胸が苦しい/苦しくない。

そもそもここは、どこだっけ……?

いったい俺は、誰だっけ……?


わからない。わからないから、助けなきゃ。

俺は、その願いを守らなくてはいけない。そのはずだ。


「助けを求めてる住民たちも、皆殺しにしちゃうよー」


気づいたら、目の前に魔王種がいた。

俺が繰り出していた蹴りを、一歩も動かず受け止めている。


周りの下っ端たちは、1人を除き、余波だけで吹き飛んでいるというのに。

黄金の腕はピクリとも動かない。

あぁ、こいつは強いな。


「そんなやつ、この街にはいないだろ」

「の割に動くのは反射かい?

難儀だねぇ、きみってやつ(生態)は」


探るような視線で俺を見る。戦いたいのか? こいつは。

少しだけ不審に思って、しかしすぐにそれは消えた。


いるなら助ける。いないなら助けない。

この機能さえあれば十分だ。


それに、体が動いたのならいるのだろう。

排除してから見てみればいい。話はそれから。


「だがそうさ。この街にそんな人は1人もいない。

私たちが支配し、洗脳し、食い物にしてるからね。

求められずとも必要としてる。君が本当に勇者なら、助ける義務があるんじゃないかい?」


飛び退る魔王種が、ペラペラと何か言っている。

結局、どっちなんだ?

……いない? いないのか。


「ってちょっと! 帰るの?」


俺は何も考えない――助けを求めている人は、どこだ?

俺は何も覚えてない――人類を存続させるのは、俺の義務だ。


「まぁいいか。あれはなんか違うし、ね……!?」


音がした。ふと見上げると、人影がある。

空高くに、小さな小さな人の影が。


「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」


あぁ、あれは死ぬな。あの高さから落ちたら、人は死ぬ。

何十メートルか、何百メートルか。ともかく人には耐えられない。……どうして吹き飛んだんだろう?


一瞬疑問が頭をよぎるが、やはり興味はない。

魔術を使えるなら助かるかもしれないし、事故ならまぁ死ぬだろうな、と。他人事のようにぼんやり思った。


「誰か助けてぇぇぇ、勇者様ぁぁぁぁ!!」

「……!」


思わず目元に力が入った。

思考が切り替わる。視界が晴れる。

全身が救助のために作り替えられる感覚。

俺はきっと、あの人間の女を助けるだろう。


「あの娘だけは捕まえておけと言ったのに……カーボン!!」


目の前で、魔王種もまた女を見上げ毒づく。

眉を寄せて叫ぶ声に、城壁の表面を覆う錆が生き物のように動き出していた。


カーボン――これもまた魔王種。

群れの中に混じっていた薄汚れたゴーレムは、バグじみた怪しげな挙動で錆を操っている。


標的は俺であり、あの女。

粒体と繋がった手は、数メートルもの規模へと膨れ上がり、それぞれの標的に向けて伸ばされた。


片や捕獲、片や応戦。救出では両方が障害になり、また微細な粒子の集合体は、たとえ斬っても止まらない。

あの男から消さないといけないのは、少し面倒だ。


ただ……あいつ、中身がないな。

心臓部の破損、もう死んでる。

まだ動いてるのは、ここの支配者の能力か。


「ハハハハローハローハロー」


生前の名残りを叫ぶカーボンは、俺を優先していた。

落ちる女と動く俺。考えるまでもない。


知性などないだろうが、こちらもそのつもりで動くまで。

腰に提げていた剣を抜き、迫る壁をじっと見る。

仕留めきれなくてもいい。助ける邪魔さえされなければ。


つまりは3点。両の錆とやつ本体を斬ればいい。

それだけならば、指一本で事足りるほど簡単だ。


「……」


息を吐く。剣を構える。ただそれだけで、迫る錆壁は数十に分かれていた。その隙間に、肩口から胴を真っ二つにされたカーボンが見える。

捕獲の錆も、もはやまともに動けない。


「お、前……!!」


死者に口無し用事無し。やつの叫びを聞き流し、俺は足に力を込める。筋肉は方向を示すもの。主な力はもっぱら神秘。

軽く地面を蹴るだけで、体は空へと羽ばたいた。


錆はとうに崩れている。阻むものは何もない。

目の前にはただ、悲鳴を上げる若い人間の女だけがいた。


「っ!? キャァァァッ!!」


なぜだろう。女が俺を見て悲鳴を上げる。

ふと視線を落とすと、胸には金色の棘が刺さっていた。

横目に見えるは竜種の背。どうやら、あの魔王種に従う竜が奇襲してきたらしい。


やはりあの騒がしい方は強かったな。

では、救出を再開しよう。


「うん? 人の心臓はそこにあるよね?」


魔王種が下でうるさいが、俺には関係ない。

最初から痛覚は遮断している。血も止めた。

尻尾は後で抜けばいい。


動きの邪魔にならないように、斬り離すだけはして空を蹴る。いると分かっていれば、竜もついでに斬るだけだ。

今度こそ邪魔者がいなくなった空で、俺は女を受け止める。


「助けてほしいのか?」

「えぇ……? あなたこそ助けがいるんじゃ……

ううん。大丈夫ならいいの、ありがとう。

はぁ〜、どうにか会えた。あなたがリチャードだよね?」


やたら度胸のあるやつだ。黄金の生成物が迫っているのに、もう安心しきって笑っている。直前まで震えていたとは思えない。これがあの女の用意した頼み事、か。


「個体名リチャード。必要とあらば助けになろう。

この街に助けは必要か?」

「うん、お願い。ここに巣食う吸血鬼を倒して、カルミンブルクを解放して!」


強い光を瞳で受けて、目を閉じ意識を体に向ける。

エネルギー投下完了。目標設定。

標的、黄金の魔王種。次いでカーボン並びに下っ端吸血鬼。


最終目標、支配者の撃破。推定、女王スカーレット。

必要残量、確定。パラメーター調整開始。

システムブレイバー起動。これより救世を証明する。


「ねぇ、ちょっとぉ……!?」


願いは聞き届けた。君の願いは叶うだろう。

あとは……


「勇者と魔王、果たしてどっちが勝つのかな。

私にはわからない。わからないから、得るものを得よう」


あいつが、邪魔だ。


「いやぁぁぁぁぁぁぁッ!?」


喚く女を背中に移し、俺は全力で滑空する。

悠々と地上に立つ魔王種は、迎撃準備を整えることもなくこちらを見上げ、笑っていた。


秘策があるのか、既に準備を終えたのか。

どうあれ自信があるのなら、すべてを貫く攻撃を仕掛けるしかない。


――斬る。必要なのはそれだけだ。

首を飛ばす。心臓をくり抜く。

手足を落として、反撃の可能性まで潰す。

すべての力を腕に乗せ、まずはその首を。


「弾けディアムス!!」


落、と、す。


数秒、思考が止まった。斬撃を防いだのは、既に死んでいるはずの薄汚いゴーレム。いや、目など所々に覗くのは男か。

ともあれ彼は、錆で硬質化した腕で、黄金の魔王種を守っている。言葉は流暢で、バグのような挙動もない。

どういうことだ? 生き返った……?


「はぁ、はぁ……」


耳元に息が当たる。そういえば……


「危ないからしっかり捕まっていろ」

「遅いわよ!!」


さて、言うべきは言った。

次はあの2人の魔王種を――


「では、殲滅を開始する」


殺す。


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