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エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
1幕 その死は明日また会うために

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4-広くて狭くて脆い世界

「早速だけど、さっきの続き聞いていいか?」


一行が旅を再開してから、ほんの数分後。

先を行くリチャードを見つめていたベルは、再び興味を葬儀屋に移して目を輝かせる。


対して、直前までは慣れた様子でズンズン進んでいた葬儀屋は、明らかにうんざりした顔になる。

出会ってからずっと喋りっぱなしなので、流石に話疲れてきたようだ。


「別にいいけどよ、こちとらもうおっさんなんだ。

お前さんみたく体力あふれてねぇから、気ぃ遣えな?」

「なら棺桶なんて背負ってんなよ」

「これは商売道具だ。手放せるかっての」


近くでそのやり取りを見ているシエルは、特に口を挟まずにそっと離れている。今は余計なことを教えるつもりはない、と言ってはいたが……他の人から聞く分には、わざわざ止めるつもりはないようだ。


もしかしたら、相手が少なからず面識のある葬儀屋なので、それなりに信頼しているのかもしれない。

虚空から杖を呼び出すと、軽く振って生み出した水球や空気を操ったり、その軌道で魔法陣を描いたりしていた。


そんな神秘的な光景を背景に、横目でチラッと見て諦めた葬儀屋は、観念して話を始める。


「はぁ、でー……なんだ、同業者だっけか?」

「そうそう。さっきの口振りだと、他にもいるんだよな」

「いるなぁ」

「その人達って、あんたと一緒に仕事してんの?

なんかそういう集まりとか、やっぱあんのかなぁ」


ベルの言葉を聞いた葬儀屋は、すぐに答えることができずに目を丸くする。どうやら、質問の具体的な内容が予想と少し違っていたらしい。軽く目を彷徨わせると、ポカーンと口を開いて会話を再開した。


「ははぁ……お前さん、マジで知らねぇんだな」

「だからそう言ってんだろ。3日前に旅出たばっかだ。

師匠も今は他に気を取られずに修業しろって言うし」

「……ほぅ?」

「いや、今止められてねぇんだからいいだろ? 教えてよ」


意味ありげに目を細める葬儀屋だったが、ベルは動じない。

サラッと返され、愉快そうに笑いながら言葉を紡ぐ。


「んー、別に葬儀屋限定の集まりとか組織はねぇなぁ。

ただ、大多数が所属するギルドってもんがある」

「ギルド!? なんだそれ!?」

「一言で言うと、自警団ってとこか。お前さんの村も、魔物が暴れてたりすんだろ? そういうのから身を守る組織さ」

「……自警団が、守るのか?」

「目の付け所がいいな。お前さん、この世界に国がいくつあるか知ってるか?」


説明を聞き、途端に首を傾げたベルを見て、葬儀屋もニヤッと笑いながら問う。最初は面倒くさがっていたが、大分気分がノッてきたようだ。


「国ってのは、本にあるような王がいる集落でいいのか?」

「そんなとこだ」

「世界の広さとかわかんねぇけど……」

「とりあえず、村くらいの規模なら家に落ちた砂粒もない」

「えー? あー、めちゃ広いとして。自警団……軍みたいのが機能してないか足りないなら、うーん……」


(リチャードとかいるし、意外と人じゃ勝てないって訳でもないんだよな。でも、魔王種より強いのもいるなら……

というか、機能してないって軍だけの話か?)


「……5個」

「凄ぇなお前さん。正解は2個だ」

「ハズレじゃん」

「いやいや。わざと規模広げてこれだからな? とにかく、国は世界に2個しかない。まぁ、片方は国と言っていいのか微妙なとこだが……ほとんどないことに変わりはねぇ。

だが、人が生きるには集団が必要で、たった2個じゃあ話にならん。そこで生まれたのが、ギルドと自治区ってわけよ」

「……自治区」

「本当にすげぇな。察しの通り、集落を形成してんのに自治できてねぇとこもある。生け贄を出す村とかが代表的だが、魔王種が人を直接家畜として管理・支配してる魔王領……俗に生産区って呼ばれるとこもあるぜ。それから、支配者がいながらギルドが生まれると、絶賛反乱中の抵抗区ってな」


明らかに非人道的な内容だったが、葬儀屋は具体的な部分には触れず、軽い調子でサラッと言い放つ。

シエルの方針もあるだろうが、少なからず子どもへの配慮もしているのかもしれない。


しかし、例に挙げられた生け贄を出す村とは、まさにベルの故郷の村だ。まだマシな部類だとしても、より悪くした想像なら簡単にできる。


予想以上に身近なものとして理解した彼は、心なしか顔色を悪くして考え込んでいた。離れた場所からの視線に刺され、葬儀屋は冷や汗をかきながらさり気なく話を戻す。


「おっと、少し話しすぎたみたいだな。とりあえず、ギルドはそういうとこだ。事務も戦もこなす、文武両道の人類存続機関ってやつ。その分、人材も幅広く集めてっから、その中に葬儀屋もいるってことさ。少ねぇけどな」

「なんで少ないんだ?」

「そりゃーお前、死者になんて構ってらんねぇからだろ。

ギルドにはもちろん強者が集まるし、そいつらは魔王種とも張り合える。だが、張り合えるだけ。なんとか現状維持ができてるだけだ。あちらさんが本気で攻めてくれば、ギルドは連合を組んでも壊滅するとわかりきってんのよ。

いつ家畜になったっておかしくねぇんだから、当然未来しか見てらんねぇわなぁ」


最初から、人がとっくに負けているのは知っていた。

田舎にいても、自然と理解しているくらいに常識だった。


だが、実際に外の世界で生きている大人から言われるのは、感じ方がまったく違う。

抗っている組織があると知り、その上で勝てないのだと告げられるのは、絶望が比べ物にならない。


しかし、同時にベルの脳裏には、村で自分を助けてくれた、魔王種を打ち倒す勇者の姿が思い浮かんでいた。

あの日の憧れが、紛れもない希望の光が。


質問が途切れると、葬儀屋も自分からは口を開かない。

相当に話し疲れたのか、力を抜いてゆっくり歩くだけだ。

一行の周りには、重苦しいほどの沈黙が満ちることになる。


「……リチャードでも、勝てないのか?」

「どーだろうねぇ。それに関しちゃ、俺が話すことじゃねぇなぁ。葬儀屋の範疇を超えてる。ギルドについても、これ以上はいつか自分で知るのがいいんでねぇかなぁ」


すがるように問われた言葉に、葬儀屋は変わらずリラックスした様子で軽く返す。いきなり話を切り上げられたことで、ベルも暗い感情を吹き飛ばして大声を出していた。


「えー? もう終わりなのか?」

「いや、だってこれ以上は俺の経験とかじゃなくなるしな。実際のところは当事者に教わるのが1番だから、止められてねぇんだろ? もちろん、より詳しくならまだ話せるぜ。

このまま話だけ聞いて身に付くとは思えねぇがなー」

「くっそ……」


葬儀屋に窘められたベルも、離れた場所から向けられた視線に気付き、悔しそうに口をつぐむ。


ただでさえ、ギルドやほぼ唯一の国など、興味を惹かれる話ばかりだったのだ。シエルの言う通り、修行に集中できなくて悪影響がでることを否定できない。


話だけ聞いてたって身につかない、というのも、正論でしかなかった。しかし、だからといって戦い以外のことを教わるチャンスを逃せるはずもなく。


ベルは葬儀屋に関係する話題の中から、必死で気になることを拾い上げて問い詰める。


「じゃあさ、旅人について教えてよ! こんな危ない世界で、なんで葬儀屋が必要なくらい旅してる人がいるのさ!?」

「逆に聞くが、お前さんはなんで旅してんだ?」

「……誰かを、助けられる人になりたいから」

「故郷じゃなれなかったのか?」

「絶対になれなかった訳ではない、けど……理想そのものにはなれなかったと思う。いいとこで、いい人たちだったけど、オレには……ちょっときゅうくつだったかな」

「みんな同じさ。人は閉じこもってちゃ生きられない。

何も外から得なければ、死んでるのと同じだ。

だからみんな旅をすんのよ。何ものにも縛られず、自由に人を生きるために、俺たちは憧憬の()を追い続けるんだ」


ほとんどの土地を魔王が支配している、この世界で。

とっくの昔に人類が負けている、この星で。

なぜ、多くの人々はそれでも旅に出るのか。


多くの死を見送った葬儀屋の答えは、すっかりと気を抜いてほんわかしている彼の口から、すらすらと紡がれる。


適当に言っただけにせよ本気にせよ、その声は周囲に響き、風に乗って一行の進む先へ。勇者を名乗る、孤独な少年の髪を揺らしていた。



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