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プロローグ

※キネティックノベル大賞に向けた練習小説です。

ご意見いただけると幸いです。






 胡蝶の夢、という話がある。

 蝶になった夢を見ていた人物が、その夢から覚めた時に考えた逸話だ。果たして自分は蝶になった夢を見ていたのか、それとも蝶が人間になった夢を見ているのか。そのどちらが真実なのだろうか、という問いかけだ。



 だとすれば、今の俺はどちらなのだろう。

 俺の見ている景色は果たして――。









「起きろと言っているだろう、このウスラトンカチ!」

「――いってぇ!?」




 少女の声がして、後頭部に容赦のない一撃が加えられた。

 俺の意識はそれによって、無理矢理に引き上げられる。目を開けるとそこには、見慣れた景色が広がっていた。


 廃ビルの一室。

 剥き出しの鉄筋コンクリート。

 ガチガチに固められて、温かみの欠片もない壁。

 窓であった場所にはぽっかりと穴が開き、吹き抜けになっていた。



「なんだよ。いきなり殴るなって、カトレア」

「口答えするなよ、拓馬のくせに。そもそも、居眠りをしていたそっちが悪いだろう?」

「だからって、後頭部を強打するのは危険だろうに……」



 その風景の中に溶け込むような、一人の少女がいる。

 長い黒髪に、吸い込まれるような赤の瞳。服装は黒のワンピースドレスに、不思議な腰ひもが付いたようなもの。どこか違和感があるようでいて、本当に見事に溶け込んでいるのだ。


 彼女の名前はカトレア。

 俺の雇い主であり、上司といったような存在だった。



「それで? 仕事中に、どんな間抜けた夢をみていたんだ」

「え、夢……?」



 欠伸をしていると、彼女は綺麗な顔に小悪魔的な笑みを浮かべて言う。

 それに対して俺はボンヤリと、先ほどまで見ていた夢の断片を追いかけた。しかしながら、夢というのは移り気で、気を抜けばどこかに行ってしまう。

 要するに、覚えているはずがなかった。



「どうして、そんなことを訊くんだよ」

「…………ふふ、本当に間抜け」



 壁に預けていた身体を起こしながら、俺はカトレアに訊ねる。

 すると小さく笑いながら、少女はこう答えた。



「なにが、朝倉せんぱぁい、だって?」――と。



 それを聞いた瞬間に、俺の顔は一気に熱くなる。



「なっ――!?」

「そんなに、その朝倉先輩という女が好きなのか? そうなのか?」



 反対に少女は憎たらしい笑みを浮かべて、ずずいっと、こちらに身を寄せてきた。至近距離から俺の顔を見上げる。

 そして、触れられたくない部分を掘り下げようとしてきた。

 俺は逃げるようにカトレアから距離を取る。



「だーっ!? うるせぇな! この悪魔! 鬼!!」



 同時に、思いつく暴言を浴びせた。

 しかし相手は怯むことなく、むしろより愉快そうにこう言うのだ。



「それ、ボクに言っても意味がないだろう?」

「く……!」



 それに俺は何も言い返せない。

 そうなのだ。この少女にとって、悪魔や鬼という言葉は無意味だった。

 何故なら――。



「おっと、どうやら他の面子が到着したみたいだ。いくよ、拓馬」

「…………わかったよ」



 と、その時だった。

 どうやら仕事仲間がこちらに到着したらしい。

 俺は渋々ながら荷物をまとめて歩きだす。すると……。



「ん、どうしたんだ。カトレア?」



 ピタリと。

 ふいに、カトレアがその場に立ち尽くした。

 こちらに背を向けて、なにかを言っている気がしたが、聞き取れない。



「いいや、なんでもないさ。行こうじゃないか」

「あ、あぁ……」



 でも、すぐにいつもの調子に戻ってそう言った。

 こちらと目も合わせずに、足早に部屋を出ていってしまう。



「なんだったんだ?」



 俺は首を傾げて、少し考えた。

 ――が、当然に答えなど出てくるはずもない。



「まぁ、いっか」





 そんなわけで、俺は急いでカトレアを追いかけるのだった。



 


面白かった

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