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柊一真・二日目・02「五人」

 放課後、俺と桜木さんは先に部室に来ていた。

 天音は何か用があるらしくまだ来ていない。


 部屋は静かだ。

 桜木さんと二人きりなのは嬉しいが、何を話せばいいのか分からない。

 桜木さんも会話をする気がないようで、ぼーっと窓の外を眺めている。


 俺がどうしようと悩んでいると、どこかでガラスの割れる音が小さく聞こえた。


「あ、野球の球がガラスを割ったみたいです」


 外を見ていた桜木さんが教えてくれた。

 桜木さんは外をずっと見ていたから、野球の球が飛んでくるのを見ていたようだ。


「そうみたいですね。下が騒がしくなってますよ」


 俺が窓を開けて下を覗くと、そこには人だかりが出来ていた。

 窓の外を見ていると、扉の開く音が聞こえた。

 ようやく天音が来たと思い視線を向ける。

 だが、そこにいたのは知らない男だった。

 それもかなりのイケメンだ。


「誰だ?」


 俺が訊ねるもイケメンは無視して、入ってきた扉に耳を当てて廊下の様子を探っている。

 まるでスパイ映画のワンシーンのように、追手から逃げ隠れしているような感じだ。

 イケメンは走ってきたようで息を切らしている。


 俺と桜木さんは無言で、怪しいイケメンを見続けた。

 少しすると、イケメンは安心したようでトコトコと部屋の中に進んできた。


「やあ、驚かせてしまってすみません。〝カノッサ機関〟の手先に追われて逃げていたら、ここに辿り着いてしましました」


 イケメンはさらっと当たり前のようにそんなことを言った。


「なにぃぃぃ!?」


 俺は吹き出していた。

 まさかこの男から〝カノッサ機関〟なんて言葉を聞くとは思っていなかった。


「あら〝カノッサ機関〟に追われているなんて、私達と同じですね」


 桜木さんは平然とイケメンに言葉を返していた。

 桜木さんって天然なのか? それともノリが良いだけなのか。

 まさか〝カノッサ機関〟が本当にあると信じているのだろうか? 

 桜木さんのことが良く分からなくなった。


「簡単に受け入れないでください。〝カノッサ機関〟に追われいるなんて変ですよ。なんでその名前を知っているのか分からないが。……ああそうか、お前、天音にそう言えって言われて来たんだな? それなら説明が付く」


 俺はイケメンが天音の仕込だということに気づいた。

 突然の出来事に混乱したが、よくよく考えれば大したことではない。


「まあ〝カノッサ機関〟というのは冗談ですが、危険人物に追いかけられていたというのは本当です。少し僕を匿ってくれませんか?」


 肩を竦めながらお願いしてくるイケメン。


「別に、少しぐらいならいてもいいぞ」


 なんとなくこのイケメンのことは気に食わないが、追い出すのも可哀相なので許可した。


「ありがとうございます。では、失礼します」


 そう言ってイケメンは俺の隣に座った。

 そしてなぜか俺に笑顔を向けてくる。

 まるで俺が許可することが分かっていたかのごとく余裕綽々の顔だ。

 俺のことを見透かしたような笑顔がムカつく。

 それに男に笑顔を向けられてもただ気持ち悪いだけだ。


 部屋の空気がおかしい。

 桜木さんもイケメンも孫を見るようにニコニコしならが、俺のことを見てくる。

 もしかして桜木さんとイケメンはグルなのか?

 それで俺の反応を見て楽しんでるとか?

 いや、桜木さんに限ってそんなことをするはずがない。

 天音、早くきてくれ。俺はこの雰囲気に耐えられん。


「お待たせー。新しいメンバー連れてきたよー。って知らない人がいる?」


 心の中で天音がくることを願っていると、ようやく天音が部室にやってきた。

 天音はイケメンに気がつくと、驚きの表情を見せた。

 このイケメンは天音の差し金ではないのか?

 それとも知らないフリの演技か?

 まあ、すぐに分かるだろう。


「こいつ〝カノッサ機関〟に追われてここに逃げてきたんだとさ。それで少しの間、匿ってやってるんだよ」


 天音にイケメンのことを軽く説明する。


「なら仲間ね。あなたうちの部活に入って貰いたいんだけど、どうかな?」


 天音が早速イケメンを勧誘している。

 部活の説明が一切無しとか、そんな勧誘で入るわけが……。


「楽しそうな部活なんで、喜んで入部します」


 入っていた。

 イケメンは、なんの部活か説明もされていないのに入部していた。

 あり得ない。どう考えてあり得ない。天音の仕込み以外あり得ない。


「ありがとう、で名前はなんていうの? 私は二年の天音綾花あまねあやかよ、宜しくね」

「二年の神崎仁かんざきじんです。こちらこそ、宜しくお願いします」


 天音と神崎はお互いに自己紹介をしていた。

 いまさら、初対面のフリをしても俺には仕込だと完全にバレている。


「ちょっと、質問なんだが?」


 俺はそろーっと手を挙げた。天音と神崎が俺に振り返る。


「なに? 一真くん?」

「こいつは天音の仕込みだよな?」


 一応、俺にはバレていることを質問形式で天音に教えることにした。

 俺が知らないと思い演技を続けさせるのも可哀想だ。


「仕込み? なんのこと? 神崎くんとは今、知り合いになったばかりよ」


 天音が首を傾げて、知らないフリをする。


「じゃあ、桜木さんの知り合いですか?」

「私も、初めましてです」


 ニコリとそう答える桜木さん。


 ──おかしい。

 本当に仕込みではないとすると、なぜ神崎は入部した?

 なぜ〝カノッサ機関〟の名前を知っていた?

 分からない。まさか本当に能力者というわけでもないし。

 俺にバレたのが恥ずかしくて、演技を続けている。

 まあ、そんなところだろうか。


「それでね。この子も我が部活に入ってくれることになったのよ」


 天音の後ろから金髪の少女が現れた。

 その少女は初めからいたようだが、小さすぎて今まで存在に気付かなかった。


「はじめまして、一年の姫宮衣千子ひめみやいちこです。よろしくお願いします」


 姫宮と名乗った金髪少女が礼儀正しく頭を下げた。

 よく見ると瞳の色が青い。金髪碧眼とはまるで人形のようだ。

 そう言えば磯谷が金髪碧眼の美少女がいるとか言っていたが、もしかしたら姫宮のことなのかもしれない。


「衣千子ちゃんは私の命の恩人なのよ。衣千子ちゃんもきっと能力者だわ」


 天音がまたヘンテコな設定を追加しようとしていたが、適当にスルーして俺と桜木さんも軽く自己紹介をする。


「これでカオス部のメンバーが五人になったわね。表向きは文芸部だけど。本格的な活動は明日の創立記念日以降にしましょう。これから私は部活設立の手続きをやるから、今日はこれで解散! また休み明けに会いましょ」


 天音はそう言って、部室を出て行った。


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