柊一真・二日目・03「桜木ひなたの能力」
「じゃあ、俺は帰るわ」
「あの柊君、話があるので屋上に来て貰えませんか?」
帰ろうとした俺を桜木さんが呼び止めた。
「ええ、いいですよ。もちろん」
桜木さんのお誘いを断るわけがないので、俺は即返事をする。
いったい何の話なんだろうと期待しながら、俺と桜木さんは屋上に向かった。
屋上には休憩できるテーブルや椅子などが設置されている。
晴れた日などはここで昼食を取る生徒も多い。
そして高いフェンスで囲われてあり、安全対策もばっちり。
フェンスの内側には小さな花壇が設置されている。
桜木さんは園芸部に所属しており、屋上の一部が桜木さんのスペースで好きな花を植えていいらしい。
桜木さんの場所にはピンク色の花が多い。
桜木さんはピンク色が好きなんだろう。
「綾花が言ってましたよね。能力者しか部活には入れないって」
「そんなこと言ってましたね。なんだかかんだ理由を付けて、みんな能力を持ってることになってますが。まあ、あまり本気にしない方が良いですよ」
本気になりすぎると痛いことになる。それは俺が一番良く分かっている。
「実は、私本当に能力を持っているんです」
俺は耳を疑った。
今このお方はなんとおっしゃったのですか? 能力がある?
天音に感化されて、桜木さんも中二病を発症してしまったか。
「桜木さん何言ってるんですか? 能力者うんぬんは天音が考えたただの妄想ですよ。無理して付き合うことないですよ」
桜木さんをこれ以上、中二病の世界に巻き込むわけにはいかない。
「綾花の影響で言ってるんじゃありません。私の能力はテレパシー。人の心の中を覗くことが出来るんです」
桜木さんが真剣な表情で俺を見据えていた。
「……テレパシー」
たしかにテレパシーぐらいならありそうな気もする。
だが、そう簡単に信じられるわけがない。
「いきなり言われても信じられませんよね。試しにやってみましょう。柊君、何か食べ物を一つ思い浮かべてください。それを当ててみせます」
「……わかりました」
桜木さんが真剣なので、付き合うことにした。
それに能力がただあるんだと言われても信じられないが、能力を直に見せて貰えれば信じられる。
先程会った姫宮の名前、衣千子が苺に似ているので、俺は苺を思い浮かべる。
「…………」
「……苺ですね? あと姫宮さん、可愛いですよね」
桜木さんは見事に俺の思い浮かべたものを言い当てた。
「あ、当たってます。今、苺を思い浮かべました」
さらに姫宮のことまで言い当てた。
しかし、たまたまという可能性も考えられなくはない。
金髪碧眼の少女のインパクトは大きいかった。
そこから予想することも出来なくはないはずだ。
「今、たまたまだって思いましたね。それではもう一度やってみましょう。次は好きな数字を思い浮かべてください。何桁の数字でも結構です」
俺は心の中で、ゼロを思い浮かべた。
「柊君が思い浮かべた数字はゼロです」
「当たってます。……桜木さん、本当に?」
ここまで見事に的中されてしまっては、桜木さんの能力を認めざるを得ない。
「ええ、本当です。ですから、柊君の中学時代のことも知ってますよ?」
桜木さんは悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「うわー、まじか」
俺は頭を抱えた。
桜木さんに俺の黒歴史を知られていたことに愕然とする。
しかし一年生の時に俺の黒歴史を知っていたのにも拘わらず、普通に接してくれた桜木さんは、やはり俺の女神様であることは変わりなかった。
むしろ、女神様度がさらに上がった。
「柊君には私の能力のこと知っていて欲しかったんです。私の能力は綾花には教えてません。二人だけの秘密です」
人差し指を口に当てて、桜木さんはウインクをした。
なんて可愛い人なんだ。
そして二人だけの秘密か。
うん、すばらしいことだ。
俺は桜木さんに信頼されてるってことなんだ。
そうじゃなきゃ俺に能力のことを打ち明けるはずがない。
「時間を取らせてごめんなさい。話はこれだけです」
桜木さんと屋上を出て行った。
屋上に残った俺は一人で思考する。
桜木さんは本当にテレパシーを使えるのか?
占い師の使うコールドリーディングやホットリーディングなどのテクニックを使用すれば、俺の答えを予想することは可能だ。
だが大まかな見当をつけるだけで、答えをピンポイントで的中させることは難しい。
桜木さんは本物の能力者で、ほぼ間違いないだろう。
本物の能力者となると、マジでどこかの〝機関〟に狙われる可能性がある。
桜木さんのためにも、そして俺のためにも絶対口外しちゃだめだ。
もし噂が広まったらシャレじゃ済まない。
単なるごっこ遊びのつもりだったのに、本物が出てきて命を狙われる展開だけは勘弁してもらいたい。
中学の時の俺なら、両手を挙げて喜びそうな展開だが、今の俺は普通の高校生活を送ることが第一なのだ。
無用なトラブルは避ける方向でいく。
だけど、少しだけワクワクしてる自分がいた。




