姫宮衣千子・三日目・01「創立記念日(三周目)」
今日は三回目の創立記念日。
創立記念日は普通、一年に一度経験するのだが、俺は一年に三回も経験していることになる。
普通ならば贅沢なことなのだろう。
だがしかし、今俺は姫宮の体なのだ。
素直に喜べる状態ではないのが非常に残念である。
今日は、桜木優太と支倉美咲がデートすることになっている。
昨日まで優太と美咲はラブラブで別れるということは考えられなかった。
今日のデートで二人が別れてしまう何かが発生するはずだ。
その何かを確かめ、出来れば二人が別れるのを阻止する。
それが今日の俺のミッションだ。
と、そんなことを考えながら歩いていると、前から超イケメンが歩いてきた。
俺が女だったら、すぐにでも抱いてと言いたいくらいなのに、なぜかモテないそんな彼だった。
今俺の体は女なんだけど、これは借り物なのであまり勝手な真似は出来ない。
だから決して抱いてとは言わないのである。
「やあ、姫宮。偶然だな。買い物か?」
昔の俺こと柊一真が俺に話しかけてきた。
悩み事なんて何にも抱えていないような平和ぼけした顔を見て、俺は少しだけからかうことにする。
「こんにちわ。木冬先輩」俺はワザと名前を間違えた。
「俺の名前は柊だ。漢字を分解すんじゃねえ」
我ながら素晴らしいツッコミを返してくれた。
俺がボケて俺がツッコミを入れるという完璧に息の取れたコンビ。
こいつと組めばお笑い界のトップを目指せるかもしれない。
そんなことを思いつつ、俺は過去を再現していく。
「……ごくろうさんの柊先輩じゃなくて、所持金五千九百六十三円の柊先輩」
俺は柊の財布の中身を自信ありげに言い放った。
「姫宮、何を言っているんだ? まさか?」
柊が自分の財布の中身を確認する。
「……おいおい、違うじゃねーか。正解はよろしくの四千六百四十九円だ」
柊がほっとした表情を浮かべ答え言った。
直後、俺の視界が真っ白になり時間が戻る。
「……よろしくの柊先輩じゃなくて、所持金四千六百四十九円の柊先輩」
これで透視能力があるフリの再現が成功だ。
本来なら姫宮は本当に透視能力を持っている。
しかし中身が俺だと、その能力はなぜか使えなくなっている。
桜木さんのテレパシーや、姫宮の透視は本来なら無能力者の俺には、再現は不可能だ。
だが過去を何度も繰り返している俺には、そのフリが可能。
このループが俺の能力ならば、ある意味二人の能力の上位互換だと言ってもいいかもしれない。
柊と別れた後、俺は優太と美咲を探した。
そしてすぐに二人を発見した。
二人を尾行して、何が起こるのか知らなければならない。
俺は二人に気付かれない適切な距離を取って尾行をした。
二人は恋人らしく手を繋いで楽しそうにデートを楽しんでいるように見える。
しばらくして二人は大通りを外れて、ちょっとした裏道に入っていった。
すると、三人組の男達が前から歩いて来て、わざと優太の肩にぶつかって来た。
「いてぇー! なにすんだよ! くそがきが!」
金髪の男が自分からぶつかったのにも拘わらず、優太の胸ぐらに掴みかかった。
「す、すみません」
優太は完全にびびってしまっていた。
「おい、こら。謝って済む問題じゃねーんだよ。てめー女連れだから、金持ってるだろ? それ全部よこせ。そしたら見逃してやるよ」
「ほんとにすみません、許してください。すみません、ごめんなさい。お金は持ってません」
優太は金髪のむちゃくちゃな要求にただ謝り続ける。
相手が三人組で強そうだからといって、美咲の前でちょっと情けない。
「さっさと金を出せや! ボケぇ、何回もいわすんじゃねえぞ」
そう言うと金髪は優太の顔を殴り付けた。
優太は地面に投げ出される。
口の中を切ったようで、血の混ざった唾を地面に吐き捨てた。
「優太、大丈夫?」美咲が優太に駆け寄る。
「これが、大丈夫に見えるのかよ?」優太は美咲を睨み付けた。
「え?」美咲はまさか自分に敵意が向けられると思っておらず驚く。
「あはは、彼女に八つ当たりかよ。かっこわるいなー」
不良達がバカにした笑いを浮かべた。
「──美咲、逃げるぞ!」
優太は不良が隙を見せた瞬間に、美咲の手を取って逃げ出した。
しかし、美咲はバランスを崩して転んでしまう。
新品の靴が脱げて、地面に転がった。
「美咲……」
優太は転んだ美咲を助けようとするが、
「逃がすかよ!」
不良達が追ってきたので、美咲を助けずに一人で逃げ出してしまった。
影から見ていた俺の元に、優太が全力で走ってくる
気付かずに通り過ぎようとするので、俺は優太の腕を掴んで引き留めた。
「優太、一人で逃げるのか?」
「な、なんで姫が……」
「美咲を置いて逃げるのか?」
「うるさい離せ! 不良三人に勝てるわけないだろ。金だって取られるのは嫌だ。僕の場合は殴られるけど、美咲なら捕まっても酷いことはされないから、大丈夫なんだよ!」
「…………」
俺は空いた口が塞がらなかった。
そして確信する。
優太が美咲にフラれた理由は、これが原因だ。
ここで優太を行かせてはいけないと確信する。
「離せよ!」
優太が俺の腕を振り払おうとするが、俺は優太の腕を離さなかった。
「離さない! 絶対に離さない!」
「離せよ。不良が来ちゃうだろ。このやろう!」
優太は俺が腕を掴んでいるにも拘わらず無理矢理歩き出す。
俺は優太に引きずられる。
姫宮の体は軽いので、優太を止めることが出来ない。
優太に二、三メールほど引きずられて、俺の握力が限界を迎えた後、地面に転がった。
優太は一瞬だけ俺に視線を向けたが、すぐに走っていってしまった。
地面に転がったので俺の服はかなり汚れてしまった。
だけど、今はそんなことを構っている場合ではない。
美咲を助けに行かなければ!
俺は不良に捕まっているであろう美咲の元に走った。
「あなた達、かつ上げなんて、みっともないマネはやめなさい」
俺は不良達を睨み付けて、そう言い放った。
「なんで、いっちゃんが……」美咲が俺を見て驚いていた。
「かつあげじゃねえよ。ただお話ししてるだけだよ、おちびちゃん」
不良が俺を見下してくる。
今の俺の身長はミニマムサイズなので仕方ないが、上から睨まれると正直怖い。
しかし、ここでビビっては駄目だ。
「社会のゴミは、さっさと消えなさい。もうすぐ警察が来るからね」
「クソがきが下手な嘘を付きやがって、少しお仕置きが必要だな」
不良が手を振り上げる。
俺は殴られると思い身を竦めた。
「…………」
いつまで立っても殴られることはなかった。
俺はゆっくりと顔を上げた。すると、
「レディに手を挙げるとは、紳士的ではありませんね」
神崎が振り上げた不良の手を掴んでいた。
「お前なんだぁ? うぜえ、とりあえずボコるわ」
不良達三人が神崎に殴り掛かった。
だが、神崎が不良達の攻撃を簡単に躱し、あっという間に不良達をやっつけてしまった。
「まだやりますか?」
地面に倒れてる不良達に、神埼はとどめの一言を笑顔で言った。
不良達はおのおの捨て台詞を吐いて逃げていった。
「大丈夫ですかお嬢さん? お怪我はありませんか?」
神崎は地面に倒れたままの美咲に手を差し出した。
「平気です。あ、あの助けて頂いてありがとうございます。本当に助かりました」
美咲は神崎の手を取って立ち上がると、深々と頭を下げて御礼を言った。
「神崎先輩、どうしてここにいるんです?」
あまりにタイミング良く現れた神崎に、俺は探るような視線を向けた。
「姫のピンチに駆けつけるのは、ナイトの役目ですから」
神崎は平然とそんなことを言った。
言われたこちらが恥ずかしくなりそうだ。
「何、キザなこと言ってるんですか。助けるならもっと早く助けてください」
神崎が助けに来てくれなかったら、どうなっていたか分からない。
本当に神崎には感謝してる。
だけど、素直に御礼を言うのが恥ずかしくて、ちょっと意地悪なもの言いをしてしまった。
「ははは、これは申し訳ありませんでした。おっと姫、お城からお電話のようです」
神崎は戯けて笑って見せた。
俺はスマフォを取りだして、ディスプレイを見る。
「電話なんて──」
鳴ってない。と言おうとしたところで、電話が掛かってきた。
神崎は電話が掛かってくることを、未来予知で知っていたのだろう。
電話は病院からで、妹が病室からいなくなってしまったという内容だった。
「ごめんなさい、急用が出来たので私は行きます。それじゃ美咲、神崎先輩」
「いっちゃん、ありがとね」
美咲が御礼を言う。
俺は助けには入ったが助けたのは神崎だ。
それが悔しかったが、美咲が無事だったので良しとしよう。
「姫宮さん、頑張ってください」
神崎は俺に何があったのか知っているようで、応援の言葉をくれた。
なんだか全てを見透かされてるようでちょっとムカつく。
そんなことを思いながら俺は美咲と神崎に別れを告げて、その場を去った。




