姫宮衣千子・二日目・01「入部」
放課後、俺は一階の廊下を歩いていた。
今日は部室に全員が揃う日だ。
神崎は誰かに追われて部室に飛び込んでくる。
そして姫宮は天音の勧誘で入部をする。
そう言えば姫宮は天音の命の恩人らしい。
たしか割れたガラスから助けてくれたらしいが、いったい何が起きるのだろう。
そんなことを思っていると前から天音が歩いてくるのが見えた。
ふと、俺は桜木さんの体だった時のことを思い出した。
桜木さんは柊と二人で部室にいて、外を眺めていた。
そして空高く舞った野球のボールが……。
俺は天音に走り寄り、そのまま勢いよく抱きついた。
天音と俺は廊下に抱き合ったまま倒れ込む。
──直後、野球のボールが窓ガラスをぶち破った。
今まで天音がいた場所に、ガラスの破片が降りかかる。
「え? なに?」天音が驚いて固まってる。
「大丈夫ですか?」俺は立ち上がりながら天音に訊ねる。
「え、ええ。ありがとう」
まだ状況が良く分かっていない天音が目をぱちくりとさせていた。
「野球のボールが飛んでくるのが見えたので。……間に合って良かったです」
「いきなり飛びつかれた時は驚いたけど、そういうことだったのね。本当にありがとう。あなたに助けられなかったら今頃、大怪我をしていたかもしれないわね」
「いえ、当たり前のことですから」
「…………」
天音は何かを考える仕草をしている。
その間に、騒ぎを聞きつけた生徒達がどんどん集まってきていた。
「あの、どうかしましたか?」
「あなた一年生?」唐突に質問をしてくる天音。
「あ、はい。一年の姫宮衣千子です」
「私は二年の天音綾花。衣千子ちゃんって何か部活に入ってるの?」
「いえ、入ってません」
「そう! なら、私の部活に入らないかしら? 新しい部活を作るんだけど、人数が足りなくて困ってるの。どうかな?」
天音が部活の勧誘をしてきた。
相変わらず何の部活なのかの説明はしない。
普通の奴なら絶対に断るだろう。だが、俺は普通じゃないので、
「分かりました。私で良ければ入部します」そう笑顔で返事をしていた。
「本当! ありがとう! きっと入ってくれるって信じてたわ!」
天音は俺の両手を掴むとぶんぶんと上下に激しい握手をしてきた。
こうして俺は天音の作る訳の分からない部活に入ることになった。
部室に行って、軽く自己紹介をしてすぐに解散になる。
天音は部活設立の手続きをやると言って出て行き、柊は桜木さんに呼ばれて屋上に行いった。
部室には俺と神崎の二人だけになってしまった。
「二人だけになってしまいましたね。なんだかドキドキします」
神崎がいきなり歯の浮くようなセリフを吐いた。
「神崎先輩は女性と二人きりなんて、慣れてるんじゃないですか?」
俺は神崎に対して皮肉を言った。
「あはは、可愛い女の子と二人きりというのは、何回経験しても慣れるもんじゃないですよ」
「あなたは、未来予知が出来る。未来が見えるのにドキドキなんてするんですか?」
「能力のことは、まだ誰にも言ったことないのに、どうして姫宮さんが知っているんですか?」
「それは、言えません」
「そうですか。でも姫宮さんが思ってるほど僕の能力は完璧ではありません。ある特定の条件下のみの未来予知ですよ。少しのことで大きく未来が変わったりしますからね。……なんで僕がドキドキしているか教えてあげましょう。それはこの後、僕と姫宮さんがキスするからなんですよ」
「キ、キス!?」
つい、うわずった声が出てしまった。
なんで俺と神崎がキスするんだ。
俺が神崎とキスする理由が何一つない。
キスするにしても男とはイヤだ。
「あはは、顔が真っ赤ですよ。僕はあなたとキスをしても構わないんですが、あなたが嫌そうなので残念です。あと、僕とあなたがキスをすることはないので安心してください」
神崎は俺をからかって、楽しんでいる。
「冗談はさておいて、明日姫宮さんは大変な一日になるので、頑張ってくださいね」
「お得意の未来予知ですか?」
「そんなところです。まあ、僕と姫宮さんの目的は同じなので、お互いに頑張りましょう。それではそろそろ失礼します」
そう言って神崎は部室を出て行った。




