桜木ひなた・四日目・01「桜木優太」
部活がお開きなった後、俺は姫宮を部室に呼び止めた。
「優太はまだ、あなたの家にいるの?」
「いいえ、もう私の家にはいないですよ」
姫宮はしれっと答えた。
「優太が学校に来てないのに、あなただけ学校に来てるから、どうしたのか心配なんだけど、いったい何があったの?」
「彼女にフラれてしまったんですよ。それがショックで落ち込んでしまったんです」
姫宮の話しぶりから、優太の彼女は本当に姫宮ではなく別にいるようだ。
「そんなことが……。それで姫宮さんの家にいないのなら、今、優太はどこにいるの?」
「たぶんですけど、柊先輩のアパートにいると思います。もし家に戻っていないようでしたら、迎えにいってあげてください」
「なんで柊君のアパートに?」
柊と優太には、まったく面識がない。
それなのになぜ優太が柊のアパートに行ったのかが分からない。
「私がそこに行くように言いました。柊先輩、良い人ですからきっとなんとかしてくれると思ったんです」
姫宮は柊を頼りにしているのだろうか?
柊のことを適当にあしらったりしてるから、そんな感じは受けなかったが本当は柊のことを好きなのかもしれない。
この時、姫宮と柊は出会ったばかりだ。
それなのに柊のアパートの場所を知っていた。
好きな人の住んでいる場所をこっそりと調べたのか。
俺は何となく姫宮を可愛いな思った。
「そうなんだ」
「はい、ではそういうわけですので、失礼します」
姫宮は一礼すると部室を出て行った。俺はすぐに家に帰った。
玄関に優太の靴はない。まだ帰って来ていなかった。
優太のスマフォに電話を掛けるが、電源を切っているようで繋がらない。
俺は柊のアパートに向かった。
俺は自分がまだ柊だった頃のことを思い出していた。
この日、俺は神崎の未来予知で、少年が勝手にアパートに上がり込んでいると言われた。そして実際アパートに帰ると、その通りに知らない少年がいた。
その理由がやっと分かった。
俺は柊のアパートの扉を開けて、
「優太いるのー?」
中に呼びかけながら部屋に上がる。
この時間、柊はコンビニ行っているのは分かっている。
「……姉ちゃん」優太は俺が来たことに驚いていた。
「家に帰ろう」俺は優太の手を引いて、一緒に柊のアパートを後にした。
「……姉ちゃんは何も聞かないんだね?」
手を繋ぎながら道を歩いていると、優太がぼそりと呟いた。
「……彼女にフラれちゃったんでしょ」
「そっか、知ってるだ。姫から聞いたんだね」姫とは、姫宮のことだろう。
「うん」
「…………」
フラれることがどれほど辛いかは俺も分かる。
中学の時、俺もフラれているから……。
フラれた直後に周りがごちゃごちゃいうのは、うっとうしい。
だから、俺は自分から優太に話しかけないようにしていた。
俺と優太は無言で歩き続ける。
「……なんで人には心があるんだろう?」
しばらくして優太が独り言のように呟いた。
「ん?」
「心があるから、こんなに苦しいんだ。心なんてなくなればいいんだ。そうなればいんだ!」
「優太?」
「姉ちゃんもそう思うよね?」
優太の目の焦点が合っていない。
フラれたことが、そうとうショックだったのだろう。
早く家に帰って優太をベットに寝かせた方が良い。
「そうね」
俺は優太に合わせて頷いた。
無理に反論するのは得策ではないと思った。
「ロボットになる。僕はロボットになるよ! 姉ちゃん。決めたよ! どんなに辛いことがあっても、絶対に心が傷つかない最強のロボット」
優太は子共に戻ったかのように嬉しそうにはしゃいでいた。
手を繋いだまま優太がぴょんぴょん飛び跳ねるので、腕が上下に引っ張られて少し痛かった。
「そうね、ロボット良いわね。早く家に帰ってロボットになりましょ」
「うん、そうする! 早く家に帰って僕はロボットになるんだ! どんなや奴だって、ロボットになった僕には絶対に勝てないんだ!」
その後、優太はロボットロボットと延々言い続けてやっと家に帰ってこれた。
家について、すぐ優太を部屋に連れて行きベットに横にして、寝かしつけた。
少し眠ればまた元の優太に戻るだろう。




