桜木ひなた・三日目・01「創立記念日(二周目)」
今日は創立記念日。学校は休みだ。
この日、俺は天音と二人で買い物をする約束をしていた。
駅前で待ち合わせをして、部室の備品を買いに街を歩き始める。
少しして、柊と出会い三人で行動することになった。
部室の備品を買うために来たのだが、そんなのそっちのけで俺達は洋服売場にやってきた。
試着室の前に柊を立たせて、俺と天音がどうかなと感想を訊ねる。
女子の服は男子の服よりも、見た目が凝っている。
俺は最初、あまり試着することに乗り気ではなかった。
だが今、俺は桜木さんの体なのだと思い返し、桜木さんに色々な着せられることに気付いたら、もう試着するのが楽しくなっていた。
「これどうかな? 柊君」
試着室のカーテンを開け、くるりと回転して柊に服の感想を訊ねる。
「すっごく似合うよ!」
柊は物凄い勢いで頷いていた。
俺と柊の趣味は完全に同じだ。
俺が良いと思う服は、文句なしに柊も良いと感じる。
当たり前だ。中身がまったく一緒なのだから。
「一真くん、どう、かな?」
隣の試着室から天音が顔を出し柊に訊ねる。
「うん、いいんじゃない」
柊が投げやりに答えた。
柊の態度は俺の時と、天音の時で差がありすぎる。
正直なことはいいのだが、だんだん天音の機嫌が悪くなってきているのが分かった。
柊が桜木さんを好きなのは、俺には十分に分かっている。
なんせ柊は俺なんだから当たり前だ。
だかしかし、天音にももう少し気をつかってやってくれと、今更ながら俺は反省した。
「ねえ、ひなた。一真くん、私とひなたで態度が違くない?」
俺が次に試着する服を選んでいると、天音がトコトコとやって来て、ぶーたれた。
うん、俺も天音の意見には同意だ。
俺が悪かったと素直に謝りたいのだが、この姿で、謝ったところで天音には伝わらない。
「私と柊くんは一年の時、同じクラスだったから私とは話し慣れてるのよ。綾花とはまだ仲良くなったばかりだし。それに好きな人の前では、つい素っ気ない態度を取る人っているのよ」
俺は天音にフォローを入れた。
「え! それって一真くん私のこと……きゃーどうしよー!」
天音は顔を赤くして、きゃっきゃと喜んでいる。
これで天音の機嫌も少しは良くなるだろう。
その後、天音は柊のことを意識しすぎて、あまり話が出来なくなってしまった。
天音はこのままではまずいと思ったのか、柊の手を掴んで無理矢理に女性下着売場に連れ込んだ。
「こ、ここは……」
柊は嬉しいやら恥ずかしいやらの複雑な気持ちで、女性用下着売場で固まっていた。
目のやり場に困り、目があっちこっちにせわしなく動いている。
「こういうの好きですか?」
俺は黒の下着を手に取って、柊に見せた。
「お、おお、俺、外で待ってますから!」
柊は顔を真っ赤にして、脱兎の如く走って逃げてしまった。
自分で自分をからかうのは、変な感じだが面白い。
俺は黒い下着を元の場所に戻した。
すると、天音が俺の戻した黒い下着をまじまじと見て「こういうのが好きなのかな」と呟いていた。
その後、天音と色々話ながら俺は下着を購入した。
桜柄の桜木さんにぴったりな下着だ。
天音は、自分の趣味で選んだ下着と黒い下着を見比べて、うーんと悩んでいたので、俺は一足先に柊の元に向かった。
その後、休憩しようということになり、喫茶店に行った。
喫茶店でお茶を飲みながら、三人で雑談をして過ごす。
しばらくして柊がトイレに立つと、天音が探るような目で俺に話しかけてきた。
「ねえ、ひなた。あなた一真くんのことどう思ってるの?」
「柊君は良い人だと思うよ」
天音がどういう意図の答えを期待しているのか分からないので無難に答えた。
「それだけ?」天音が俺の答えに納得がいっていないようで、さらに訊いてくる。
「うん、それだけだよ。それはそうと綾花どう思ってるの?」
「え、え? べ、別になんとも思ってないわよ」
天音は明らかに動揺していた。
「ふーん、なんとも、ね?」
「な、なによ、もう。この話は終わり!」
天音は自分から振った話題を慌てて打ち切った。
「ねえ、綾花。訊きたいことがあるんだけど」
「なに?」
「神崎君とは、知り合いだったの?」
神崎が入部した経緯について気になったので訊いてみた。
「え? 神崎くん? 神崎くんとは昨日会ったのが初めてよ。なんでそんなこと訊くの?」
「神崎君、すんなりと入部してくれたから、綾花の仕込みなんじゃないかと思ったのよ」「……そう言えば、そうね。神崎くんもそうだけど衣千子ちゃんもすぐに入部してくれたし。あっという間に部員が揃って良かったわ」
そう言って天音は嬉しそうに笑った。
「姫宮さんは綾花の命の恩人って言っていたけど、本当なの?」
「ええ、本当よ。割れたガラスの破片から私を助けてくれたの。衣千子ちゃんが助けてくれなかったら、今頃大怪我をしていたかもしれないわね」
俺の知らないところでそんなことがあったのか。
姫宮は小さい体のわりに行動力があるようだ。
そう言えばクレープを二つもあっという間に食べてしまうぐらいだし、元気は有り余ってるのだろう。
天音と話していると、トイレから柊が戻ってきた。
その後、柊と別れて俺と天音は部室に必要なモノを購入して家に帰った。
「はあ、疲れたー」
天音との買い物を終えて家にたどり着いた。
歩き疲れたのもあるが、肩がすごく凝った。
胸が大きいのも大変だなーとしみじみと感じた。
玄関の扉を開けて中に入る。優太の靴はなかった。
そう言えば今日、優太は彼女とデートだと言っていた。
今頃彼女と楽しいデートをしているのだろう。
そんなことを思いながら自分の部屋に上がり、ベットにごろんと横になった。
しばらくベットで横になっていると、スマフォの着信音が鳴り響いた。
送信者は優太からだった。
「もしもしお姉ちゃんです。優太、どうしたの?」
『…………』
「……もしもし?」
『こんばんわ桜木先輩』
優太のスマフォから女の子の声が聞こえた。
一瞬、優太の彼女かなと思ったが、どこかで聞いたことのある声だった。
『私が誰だか分かりますか?』
「……姫宮さん。どうして弟のスマフォからあなたが電話をしてくるのかしら? あなたが弟の彼女なの?」
『違います。優太とはただの友達です』
「じゃあ、どうして? 優太はそこにいるの?」
『います。でも、とても電話で話せる状況ではないので私が代わりに電話をしている、とうわけです』
「電話も出来ないって、何があったの? もしかして事故にでも遭ったの?」
『心配しないでください。怪我はしてません。ただ精神的にショックなことが起きて落ち込んでいるだけです』
「そう」
俺はほっと胸を撫で下ろす。
『それで電話をした用件なんですが。優太は今日、私のマンションで預かります。そのことを伝えるために電話しました。一晩だけ泊めて明日には家に帰るように説得しますので、安心してください』
「そう、わかったわ。優太のことよろしくね」
『はい。失礼します』
そう言って姫宮は電話を切った。
優太に一体何があったのか気になるところだが、姫宮が一緒なら大丈夫だろう。
それに姫宮は彼女だということを否定したが、本当のところは分からない。
もし姫宮が彼女で、その彼女の家にお泊まりするために、一芝居打ったということも考えられる。
そうだとしたら優太と姫宮のことが初々しくて可愛く思えた。




