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26 銀の塔と異世界観光?

「ないわー」

(ないわー)


 アホな奴が、間抜け面をしていた。


 なお、アホとはアリオスのことだ。


「お前もだろうが!」

(チッ)


 相変わらず不毛な会話をしている俺たちの会話は置いておこう。



 さて、謎の現象によってダンジョン入り口の大結界が破壊されるという大事件の現場に居合わせた俺たち。

 大結界の役目は、ダンジョン内部のモンスターを外に出さないことだそうで、並大抵のモンスターでは、この結界を破壊することは不可能だそうだ。

 だとすれば、その大結界を破壊したモンスターはとんでもない奴だね。


(うわー、凄く怖いー)

 と、白々しいことを思いつつも、俺とアリオスは目の前にある巨大な塔を眺める。


 俺たちはダンジョンの入り口から、クモの子を散らすように逃げだした初級冒険者たちと一緒に、どさくさに紛れてダンジョンの外に出た。

 その後しばらく走りながら移動し、改めて自分たちがどんなところから出てきたのだろうと後ろを振り向いてみれば、そこには天にまでとどく巨大な塔があった。

 塔の外観は銀色で、青い空の遥か果てまで続いている。



 仮に中世の人間が現代の東京に来れば、高層ビルを見て点にまで届く塔と勘違いしたかもしれない。

 だけど、俺は元日本人。

 俺たちが見ている塔は、高層ビルとか超高層ビルなんてレベルの高さじゃなかった。

 東京スカイツリーどころか、俺が地球にいた頃には世界で一番高いビルと言われていた、ドバイにあるブルジュ・ハリファより高い。

 だって、さっき言ったのは比喩でなく、本当に空の果てまで、銀色の塔が伸び続けてているのだ。

 もしかして、宇宙にまで伸びてるんじゃないか?


 しかも銀色の塔は、いつ建てられたのか分からないけど、外壁には黒ずんだ汚れなど全く見当たらず、新品のような輝きだ。


 なんというか、剣と魔法がある中世ファンタジー世界の建物には全く見えない。

 むしろ未来を舞台にしたSFで、地上から宇宙にまで伸びている軌道エレベータと呼ばれた方がしっくりくるほどの異様さだった。


「俺たち異世界に転生したと思っていたけど、実は未来に輪廻転生したんじゃないか?」

(それ、ありそう。一度科学技術が最高度に発達したけれど、その後世界大戦をやらかして文明が一度滅びてリセットされた世界とか)

「本当にありそうで怖いなー」


 何しろ、目の前にある銀色の塔。

 俺たちがさっきまでいたダンジョンの外観には、それだけの存在感があった。


 とはいえここが異世界だろうが、あるいは俺たちが死んだ後の数千年、数万年先の地球だったとしても、俺たちがこれからすることは何も変わらない。



 変わらないというか、単に人恋しさからダンジョンを出て、わざわざ人里を目指してきただけだ。

 なので、

「これからどうする?」

(もちろん何も考えていない!)

「威張るなよ」


 俺の体はアメーバ状なので胸を張れないけど、それでも人間だった時のように、堂々胸を張った気分になって言った。

 そんなに俺にアリオスの奴は、あきれているけどな。


(というか、お前だってこれから何するか考えてないんだろう。俺にばっかり聞いてくるなよ)

「そうだったな。お前みたいな間抜けに聞いても、前向きな意見が出るはずがない」

(なんだと、この間抜け野郎が!)


 この後、しばし俺たちは互いに無駄ないがみ合いを続けるのだった。


 本当、人間に取り付いた俺の並列存在って性格悪いよね。

 全く、こんなのが俺と同じ存在だとは信じられないよ。




 とはいえ、このままいがみ合っていても進歩がない。

 とりあえずは異世界の街を探索してみようと言うことで、俺たちは観光気分に切り替えて街の中を歩いてみることにした。


 なお、周りには未だに悲鳴を上げてる初級冒険がいて、物々しい雰囲気の兵士もいるけど、そんなの知らんな。

 だいたい、怖いモンスターがダンジョンの中から出てくるわけがないんだから。

 (はんにん)が保証するよ。


 てことで、

(ビバッ、異世界観光)

「それはいいけど、お前俺の影の中から出てくるなよ。一応モンスターなんだから」

(分かってらー)


 アリオスは人間でも、俺はモンスターだから注意はしておかないと。

 ダンジョン内ではモンスターからも人間からも、存在ガン無視で相手にされてなかった(シャドウ)けれど、それでも人の住んでいる街中で堂々とシャドウの姿を見せるのはまずい。

 てなわけで、俺はダンジョンから出てきたときと同じく、影移動(シャドウウォーク)のスキルを使って、アリオスの影の中に潜んでいることにした。

 こうしておけば、俺の姿はアリオスの影にしか見えずなくなり、誰も俺を見つけることはできないだろう。




 そうして俺たちは、観光客気分になって異世界の街を歩いてみることにした。


 さてそうなると俺たちの周囲の光景だけれど、俺たちが出てきた銀色の空高くそびえている塔がSFの世界観満載だったのに対して、周囲にあるのは、露店と言っていい出店ばかり。


 串焼き肉を焼いているような匂いや、怪しげな薬のにおいに、香辛料の香りなんてものがしてくる。

 ただそれらの店の店主たちは、みんな威勢のいい声を出して商売をしている訳でなく、皆が揃っていそいそと商品をしまい込んで、店じまいをしている最中だった。


 まだ夜でもないのに、店じまいとはこれ如何に?


「あの、どうして店を閉めているんですか?」

 気になったので、近くにいる店主さんにアリオスが尋ねる。


「兄ちゃん何言ってるんだ!ダンジョンの中からとんでもないモンスターが出てきたって話だぞ。さっき聞いた話だと、ダンジョンの大結界が破壊されたという話だ。モンスターが出てくるなら、こんなところで商売をやってられるはずがねえだろう!」

 店主のおっさんに怒鳴られてしまった。


「俺は商品を片づけたら今すぐ逃げる。だから邪魔をするなよ!」

 なんて言われて、追い払われてしまった。


「……」

(大結界が壊れるって一大事みたいだな。それにしても俺たちが観光しに来た時に限って、どうしてこんな大事件が起きてるんだか)

「……」


 分かってますよアリオスさん。

 俺たちが来た時にたまたま大事件が起こったのでなく、俺たちが来たせいで大事件を起きてしまったってことぐらい。


 ああっ、俺ってこの世界に転生してから、本当にろくなことしてないな。

 人様に迷惑しかかけてないぞ。


「どうして俺のやることなすこと、全部事件になるんだよ」

(本当、なんでだろうな)


 元々同じ人格のせいもあって、俺とアリオスはうんざりとため息をついた。


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