後編
朝十時を回ってようやく目を覚ました僕は、ナイトキャップを脱ぎながら、ベッドから足を下ろすと、スリッパを履いて、身支度を整える。
洗面台で顔を洗い、ワシャワシャと歯を磨く。
手早く寝グセを撫でつけ、パジャマを脱ぎすてると、襟付きのワーキングシャツにデニム地のオーバーオールという、いつもの格好になった。
僕はシンクの中で山盛りになっている汚れた食器を見やり、内心でタメ息をついた。
うわ。面倒臭い。でも仕方ないか。さっさと片付けよう。
僕はイヤイヤながらも、腕まくりをする。
足元のバケツで、弱った魚がバチャリと水を跳ねさせた。
食器洗いって、取り掛かるまでが面倒くさいんだけど、始めてしまえば意外と苦にならなかったりする。
何かと集中力の続かない僕だけど、食器洗いだけは別。
ただ腰が痛くなるのだけは何とかなんないかな。
僕は洗い終えた食器を、水切り台の上に逆さまに並べて行く。
僕は食器が乾くまでの間、残った魚の処理をすることにして、足元にあるバケツを拾い上げた。
バケツの中の魚は、慌てて少しだけ暴れた。
魚たちは少ない水の中で苦しそうに口をパクパクさせている。
僕はバケツを引っ繰り返すと、中身をシンクへと空けた。
力なくビチビチ跳ね回る数匹の魚を包丁の背を使って、手際よくガスガスとトドメを刺して行く。
ちょっとした殺し屋気分。
魚は生のままだと日持ちしないので、僕は干物に加工するつもりでいた。
僕はぐったり動かない魚の頭を落として、お腹を開くと腹ワタを掻き出す。
数匹いる魚を同じような目に合わせると、溜まった生ゴミをバスケットへと放り込もうとして僕はあることに気が付いた。
あん? 一匹足りない。
全部で三匹いるはずのケサランパサランが二匹しかいないのだ。
もしかして、逃げ出した?
僕は包丁を握ったままで部屋の中をウロウロと殺人鬼よろしく、ケサランパサランをの姿を探して彷徨う。
おかしいなー。どこ行ったんだろ?
僕は数分かけて部屋のあちこちを探していたら、不意に「キュキィ!」と、引き攣れるような悲鳴がバスケットから聞こえて来た。
僕は慌てて、バスケットへと駆け寄ると、中を覗いてみる。
ケサランパサランの数はさらに減っていた。
さっき見た時には二匹いたはずのケサランパサランは一匹しかおらず、しかもその残りのケサランパサランは口をモグモグさせていた。
え? 何食ってんのお前?
魚のワタはまだキッチンにあるし。
まさか?
僕の脳裏に嫌な予感が過ぎる。
まさか、コイツら共食いするんじゃないだろうな?
そう思った矢先、ケサランパサランの口からズルッと一瞬だけハミ出したのは、シオシオに萎んで、ぐったり動かなくなった、もう一匹のケサランパサランだった。
やっぱりだ。もー。ネコー。そういうことは先に言っといてくれよ!
軽く凹む僕。
それでも僕は、とりあえずバスケットに魚のワタを放り込む。
だって、魚の腹ワタ放っておくと、すぐに臭くなるんだもの。
ドサドサと落ちて来る魚のワタに、残り一匹になってしまったケサランパサランは、キュイキュイと嬉しそうな声を上げて、ハグハグと食らい付く。
あーもー。可愛いと思えなくなっちゃったよ。それにコイツ、どんだけ食えば気が済むんだ? ま、ゴミ箱としてはまだまだ使えそうではあるんだけど。
あれ? コイツ、ちょっと大きくなってない? もしかして、食わせたら食わせただけ大きくなるんじゃないだろうな?
ちょっとだけ不安になる。
んー。まぁ。後でネコに聞いてみるか。
僕はヒラキにした魚をザルに並べると、塩を振ってそのまま放置。
その間にすっかり乾いた食器を食器棚へとしまうことにする。
それが終わると、僕はコーヒーを飲んだり、ケサランパサランをいじくたりして20分ほど時間を潰すと、魚の表面に滲み出た水気を布巾で拭い、風通しの良い表へと出して天日干しにすることにした。
切り身の乗ったザルを片手に、ドアノブを捻ると、そのままドアを押す。
が、どういう訳か、いくら力を入れてもドアは動かない。
ん? おかしいな? どうなってんだ?
もう一度、今度は思いっきり、体重を掛けてググッと力を込めてみたものの、やっぱりドアは開かない。
いや、正確に言うなら、ドアは開く。開くんだけど、すぐさまガツンと何かにぶつかって、そこでビクともしないのだ。
どうなってるんだ?
僕は一先ずザルをキッチンに置いて、小窓から外の様子を伺う。
見ると、僕ン家の玄関先にオレンジ色したカボチャが山積みになっていた。
なんでカボチャが?
しばしの思案。
やおらして、僕の脳裏を閃くものがある。
そうか! アヒルだ! 何だよ、もう! だからカボチャなんか要らないって要ったのにー!!
腹立たしさのあまり、地団太を踏む僕。
そんな僕の目に、外を歩くクマの姿が写った。
ああ! クマ! 何てナイスなタイミング!
「うぉーい! クマー。助けてくれよー」
そう声を上げる僕に、クマは不思議そうな顔をして、少しキョロキョロすると、それでもすぐさま僕を見つけてくれる。
「んん? ニンゲン、どうしたクマ?」
「アヒルに閉じ込められた。玄関先のカボチャ退かしてくれ」
カボチャを必死に指差しつつ、クマへと頼み込む。
「何だ。そんなことクマか。お安い御用クマ」
「助かるよクマ。マジでチョー助かる」
やった。さすがはクマだ。もし通りかかったのがネコなら、こうはいかない。散々グチッた挙句、なにか寄越せって言うに決まってるのだ。
ほんとネコじゃなくて良かったー。
そんなことを内心で思っている内に、カボチャの山は見る間に小分けにされ、玄関前から退かされて行く。
「クマ、ありがとな」
「どうってことないクマ」
ザルを片手に外へと出た僕は、クマにお礼を言う。
それだけじゃ気の済まない僕は、干物が出来上がったら、半分をクマにあげることを約束して、ついでに良かったら、カボチャも持ってけって言ったんだけど、それは断られた。
「オレ、基本なんでも食うクマ。でも、どっちかと言えば、肉とか魚が好きクマ。だから干物で十分クマ」
そう言い残して、去って行くクマ。
なんか、カッコイイな、クマ。そういや、そろそろクマ、冬眠の季節だな。
去り行くクマの後姿を見送りながら、僕は「カッコイイなクマ」と口に出して呟いた。
いやいや、そんなことよりも、このカボチャの山、どうすりゃいいんだよ。
思わず頭を抱える僕の、その背後をリヤカーを引いて、コーポの前の小道を素通りしていくのはネコだった。
「あ。ネコだ。牛乳缶乗せて、どこ行くんだ? ウシに牛乳でも貰いに行くのか?」
「そうニャ。分かってるならいちいち聞くニャよニャ」
ネコがいつものうんざり顔でそう言った。
「なら、僕の分もついでに貰っておいてくれよ。生クリームとバターとチーズ」
そう言いつつ、僕はネコの引くリヤカーにとりわけ大きなカボチャを選んで、6個ほど、何の断りもなく積み込む。
「何ニャ? このカボチャ?」
「ん。ウシにお裾分けだ。いらないって言われても無理やり置いてきてくれ。『乳牛のエサにでもしろ』とか、上手いこと言って。僕一人じゃ、とてもじゃないけど、食べ切れないからな」
ネコにそういいつつ、僕は自分ン家の玄関先を示す。
そこには小分けにされたカボチャの山が4つほどあって、それを見たネコが僕へと駆け寄ってくる。
「何にゃ? よく見たらカボチャだらけニャ。このカボチャみんな、お前のなのかニャ?」
「そうだよ。アヒルが置いてった」
「あのケチんぼのアヒルがかニャ? お前上手いことやったニャ」
「なんなら、分けてやろうか?」
「本当かニャ?!」
「うん。むしろ貰ってくれ。僕一人じゃ絶対に腐らせちゃうからな」
僕の言葉にネコが一瞬、嬉しそうな顔をしたものの、すぐに「うーん」と悩ましげな声を上げながら、カボチャを品定めしつつ、ちょこっとだけ、引っ掻いてみる。
「ああ。やっぱいいニャ。よく考えたら、ウチの爪じゃ、カボチャの皮に歯が立たないニャ」
しょんぼりするネコ。
「それなら心配ないよ。どうせカボチャでシチュー作るつもりだったしな。ついでにネコの分も作ってやるよ」
どうせ一人分を作るのも、十人分を作るのも大して違いはないし。
「あ、そうだ!」
突然浮かんだ、ステキな閃きに思わず声を上げる僕。
「どうせなら、コーポの皆で、カボチャパーティーしようよ!」
そうすれば、カボチャも腐らせずに済むしな。
僕の提案に、ネコの表情がパァと明るくなる。
「それ、いい考えニャ。皆で酒盛りするニャ」
「よし。そうと決まったらウシのとこから、上手いこと言って、ミルクとバターせしめて来い。ネコそういうの得意だろ?」
「なんニャ。ネコ聞き悪いこと言うニャ。でもウチお前ほどじゃニャいけど、そういうの意外と得意な方ニャ」
ネコは目を細めて「ニヒ」と笑う。
重量を増したリヤカーに、多少てこずりつつも、ネコはウシが運営する牧場へと急ぐ。
そのクマとは別の意味で頼もしいネコの後ろ姿を見送ると僕は腕まくりをした。
よし。そうと決まったら、さっそく行動だ。
僕は騒ぐのが大好きなのである。
僕は玄関ドアを開け放ち、カボチャを抱えて、室内へと運び入れる。
10回ほどそうして、20個ほどのカボチャを台所へと転がした。
とはいっても、カボチャはまだまだあって、玄関前に置きっぱなしにするほか、なかったりする。
全部、家の中に入れちゃうと、文字通り足の踏み場もなくなっちゃいそうだからな。
僕はキッチン備え付けの収納から、肉厚で重量感タップリのナタみたいな包丁を取り出した。
カボチャをまな板の上へと置き、僕は「ホアチャー」と怪鳥音を上げつつ、カボチャへと包丁を叩きつけると、そのままグッと体重を掛けた。
すると、カボチャは意外にすんなりと真っ二つに割れてくれる。
カボチャの種はキレイに洗ってから乾燥させて、乾煎りすると、いろいろな料理に使えて重宝する。
塩を振って、そのまま食べてもなかなかイケるし、砕いてクッキーに入れれば、いいアクセントになる。
いつもの僕ならカボチャの種だって、粗末にしたりはしない。
でも今は、うちのエンゲル係数を大幅に跳ね上げてkれるケサランパサランがいる。
もったいないなー。と思いつつ、仕方ないかと諦めて、バスケットへとカボチャの種をワタや皮ごとボタボタと落とした。
ケサランパサランはやっぱりキュイキュイと鳴いて、それに食らい付いていた。
僕はコンロをフル活用して、カボチャを煮たり焼いたり、蒸したりと大忙しだ。
そうこうしている内にネコが戻って来て僕はたっぷりのミルクとバターと生クリームで、カボチャのクリームシチューを作る。
カボチャ以外の具材はネコに誘われたコーポの住人たちが持ち寄ってくれた。
クマは鮭を差し入れてくれたし、養豚場を営むブタからはベーコンを、農夫のカルガモたちからは自分たちで食べるように育ててたキャベツやニンジンを。
にゅふふー。こんだけ大量にイロイロあったら、パーティーやっても大分余るぞ。
日持ちする物以外は町のマルシェに持ってって物々交換しよーっと。
そろそろピクルスも底を尽きそうだし、胡椒とかの香辛料も補充しておきたいし、釘とか針金とか色々物入りだしなー。
そんなイヤらしいことを考える僕。
集まったコーポの住人たちは、料理の手伝いをしてくれるグループと、パーティー会場の支度をするグループへと自然に分かれた。
コーポ前のちょっとした広場には、大きなテーブルが幾つか並べられて連結される。
ネコとクマの凸凹コンビが、そのテーブルの上に真っ白なクロスを広げようとして、体格差と風のせいで、悪戦苦闘していた。
そして、遅れてやって来たアヒルは、偉そうにふん反り返って、やっぱりカボチャをくれた。
だーかーらーっ! カボチャはいらいないって、言ってるだろーっ!
会場の支度が整ったころ、真っ白なテーブルクロスの上へと、所狭しと並べられて行くのは、言わずもがなのカボチャ料理だ。
巨大な寸胴に入った大量のシチューを筆頭に、カボチャを器代わりに使ったグラタン、カボチャのコロッケは大皿の上にテンコ盛りになってたし、ポテトの代わりにカボチャを使ったカボチャサラダは一抱えもあるボウルに山を作っていた。
後は揚げたり煮たり蒸したり焼いたり、作り手のセンスが光る良く分からない創作料理が並んでいる。
そして、ソワソワとテーブルに着いているのは、コーポの住人に加え、日ごろお世話になってる面々だ。
ネコやクマは当然として、子沢山なブタ家族に、大家のビーバー。農園主のアヒルにカルガモが何人も。
バターやミルクを提供してくれたウシ夫妻にイヌのお巡りさん。
気の早い連中はナフキンを襟首に引っ掛け、ナイフとフォークを握ってスタンバイしている。
「では僭越ながら、このコーポの大家であるこのわし、ビーバーから一言」
グラスを持ち上げ、ビーバーが口を開いた。
その途端、テーブルに着いた皆から「ああー」という落胆の声が漏れた。
まぁ。無理もないかな。ビーバーの話、やたらと長いから。
今日は短めに頼むぞビーバー。そうじゃないと、せっかくのご馳走が冷めちゃうからなー。
「えー。わしがこのコーポを建てようと思い立ったのは、まだわしが若かりし頃の話じゃった―――」
あー。駄目だ。これは長くなるパターンのヤツだ。
絶望感が広がって行く中、唐突にイスの上へと飛び乗ったネコは堪りかねたかのように「ウニャー!」と、雄叫びを上げた。
「もういいのニャ! その話ニャら、みんな4回は聞いてるのニャ!」
おおー。ネコがキレた。いいぞネコ。もっと言ったれ!
僕は内心でネコへとエールを送る。
口に出して応援しないのは、ビーバーを怒らせて家賃が上がったりしたら、イヤだからだ。
「もういいニャ。ウチが音頭とるのニャ。ビーバーは大人しく座ってればいいのニャ」
そう言うとネコは、突然のことに目を白黒させてるビーバーを無理やりに座らせると、自分はイスの上に乗ったままで、とって付けたような咳払いを一つ。
「みんな。グラスを掲げるのニャ! 今日はパーティーなのニャ。大いに飲んで食って騒ぐのニャ!」
ネコはそう宣言すると、グラスを勢い良く天へと突き上げ「カンパイなのニャー!」と声を上げる。
それに併せて「カンパーイ!」と、口々に声が上がり、グラスが挙って空へと突き上げられた。
それからはもう、大騒ぎである。
ブタ一家は競い合うように、次々とカボチャ料理を平らげていくし、早くも酔っ払ったネコはクマに絡んでいる。
意気消沈した大家のバービーは、イヌのお巡りさんに「元気出すワン」とかって、慰められてた。
ウシ夫婦は農場主のアヒルと談笑し、カルガモ達は農作業中によく歌っているという歌を「ガーガー」披露している。
僕は秘蔵の果物酒の封を開け、家の中へと戻っては足らなくなった料理を適当に補充する。
その間にコロッケをつまみ、ネコをおちょくり、シチューを平らげ、カルガモ達の歌へと喝采を送り、果物酒を喉へと流し込んでいた。
その時の僕は全く気付いていなかった。
忙しく立ち回る中で、知らない内にケサランパサランが入っていたバスケットを引っ繰り返しちゃってたことに。
自由の身となったケサランパサランは、僕の部屋に転がっている文字通り山のような量のカボチャを手当たり次第に食い散らかしていたのだった。
そんなことになってるとは露知らず、僕は果物酒の満たされたボトルを片手に、いい具合に酔っ払った大家のビーバーを褒めちぎっていた。
ビーバーが何かを言う度に「スゴいですね」「さすが!」「タメになるなー」を連呼し、空いたグラスにどんどんお酒を注いでいく。
ふっふっふー。ビーバーを酔わせて、あわよくば家賃を値下げさせよう大作戦である。
そして僕の目論見通り、いい気分になってイスの上にふんぞり返るビーバーは「ふぉっふぉっふぉ。何か気分いいから、ニンゲンの家賃、半額じゃ」と、僕が家賃のことを持ち出す前に、そう言った。
「ええー? そんな悪いですよー。いいんですか? じゃ、お言葉に甘えさせていただきますー。
あ。僕ホントに大家さんのこと、心の底から尊敬してるんで。マジ、リスペクトっす」
とか、心にもないことを言いつつ、内心で「よっしゃー!」と、ガッツポーズをする。
―――と、その時のことだった。
ミシミシという不吉な音が響いて、思わずみんなの視線が、そちらへと向くのと、僕の部屋のドアが粉砕するのがほぼ同時だった。
何が起きたのか、咄嗟に分からず、呆然とする皆。
部屋の中から外へと転がり出て来たその生き物に、みなの表情が青ざめる。
コーポの面々から悲鳴が迸る。
「ギャー!」
「巨大ケサランパサランだニャー!」
「みんな逃げるんだグワッ!」
「早く逃げないと、食べられちゃうブー!」
あまりの出来事にイスから転げ落ちるビーバーに、シチューの入った深皿を引っ繰り返し、中身を頭から被るネコ。
カボチャパーティーに集まっていたみんなは、半ばパニックに陥りつつも、大慌てで逃げ出していた。
あの怪力を誇るクマでさえ、一目散に逃げている。
イヌのお巡りさんは「みんな早く逃げるんだワン!」と皆が逃げ切れるよう避難誘導をしていた。
そして、僕はというと、イヌのお巡りさんに言われるまでもなく、とっくに道を挟んだ向かい側、雑木林の木陰へと避難していた。
そんな僕の元へ、深皿を頭に被ったまま、命からがら逃げて来たネコが僕へと突っかかってくる。
「だからウチ、あれほど口酸っぱくして言ったニャー! ケサランパサランにエサをあげ過ぎちゃ駄目って、ウチ言ったよニャ!?」
「口酸っぱくは言ってないよー? ちらっと言っただけだよー?
あーあ。コレはアレだなー。ネコのせいだなー。ちゃんとキツく注意しててくれたら、こんなことにはならなかったのになー!」
「なんニャ!? まさかウチのせいにするつもりなのかニャ!? ヒドいのニャ! ウチ全く悪くないのニャ!?」
ギャーギャーニャゴニャゴ言い合う僕ら。
その間にもケサランパサランはテーブルに残されたカボチャ料理を器ごと次々と平らげて行く。
そして、悲劇は起こった。
食い意地が張ってたせいで、今なお一人、テーブルに着いたままシチュー皿に顔を突っ込んでいたブタんところの末っ子がケサランパサランに一呑みにされてしまったのだ。
そのあまりの出来事に、そこかしこから、悲鳴があがり、ブタさんの奥さんが、気を失ったのだろう。 後ろに倒れるのが見えた。
ケサランパサランの食欲はそれでも止まらない。
どんどんどんどん食べ続け、どんどんどんどん大きくなって行く。
「ヤ、ヤバいニャ! カボチャ料理を食べ尽くしたら、今度はウチらの番ニャ!」
顔面蒼白なネコに、僕の顔も引きつっていたに違いない。僕とネコは二人して抱き合いガタガタと震えていた。
ついには、カボチャ料理を食べ尽くし、巨大ケサランパサランは獲物を探して、辺りをウロ付き出した。
僕たちは恐怖で動けない。
あちこちから、悲鳴が上がり、やがて静かになった。
我知らず、瞑っていた目蓋を開く。
「ひっ」と、ネコが息を呑むのが気配で知れた。
僕の目の前には、巨大な毛玉が佇んでいた。
言わずもがな、ケサランパサランである。
ああ。もう駄目だ。僕、ここで食べられちゃうんだ。みんなゴメンよー。僕がバカだったよー。
ケサランパサランのこと良く知りもしないで、テキトーに育てちゃって。
ネコもゴメンね。ちゃんと忠告を聞いてればこんなことにはならなかったのに。
そう後悔する僕に、ケサランパサランはグバッと大きな口を開けると、僕らを呑み込もうとして―――、
その矢先、ケサランパサランは「うっ!」と呻くと、そのまま動きを止めた。
そして、次の瞬間、バボーンッ! という音と共にまるで空気を入れ過ぎた風船のように破裂した。
辺りにはもうもうと白い粉が立ち込め、ケサランパサランに食べられたハズの皆が、破裂した拍子にゴロゴロと転がり出て来た。
「グワワッ! ヒドイ目にあったグワッ!」
「死ぬかと思ったクマ」
ああ! みんな無事だったんだー! 良かったー。
僕とネコの二人は、安堵から、おいおいと咽び泣いてしまう。
突然、破裂した巨大ケサランパサランは、ものスゴい数の小さなケサランパサランへと分裂すると、強く吹いた風に煽られ、タンポポの綿毛みたいに空高く舞い上がって行く。
その場に取り残された僕らは、皆して、しばらく呆然とその様子を眺めていた。
追伸。それから僕は、みんなからこっぴどく怒られて、家賃半額の話もなくなり、壊れたドアの代金もしっかり請求されましたとさ。
おしまい。




