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同じ風

思い出せたことも、思い出せなかったこともありました。

それでも、同じ場所に立っていました。

放課後。

 気づいたら、あの場所に向かっていた。理由はわからない。ただ、足が勝手に動いていた。

 階段を上る。息が少し上がる。

 ドアの前で止まる。屋上。

 手をかける。冷たい。

 開ける。

 

 風が、強かった。

 

 フェンスの向こうに、街が広がっている。

 

「……ここだ」

 

 口にした瞬間、何かが引っかかる。

 

 見たことがある。

 でも、思い出しきれない。

 

「……湊」

 

 後ろから声がする。

 振り向く。

 紬がいた。

 

「来ると思ってた」

 

「……なんとなく」

 

 それだけ返す。

 

 隣に立つ。少しだけ距離がある。

 

 

「ねえ」

 

「なに」

 

 

 少しだけ間。

 

 

「――わかんなくても、別によくない?」

 

 

 その言葉で、何かが繋がる。

 

 風。フェンス。夕方の色。

 

 

『……わかんなくても、別によくない?』

 

 

 誰かの声。

 

 

「……ああ」

 

 

 それだけ言う。

 

 

 全部じゃない。

 

 

 でも。

 

 

 何かは、思い出した。

 

 

 

「……なあ」

 

 

「なに」

 

 

 

「前にさ」

 

 

 

 言葉を探す。

 

 

 

「ここ、来たことあるよな」

 

 

 

 一瞬だけ、間。

 

 

 

 紬は、少しだけ考えて。

 

 

 

「さあ」

 

 

 

 一瞬だけ、迷ったように見えた。

 

 

 

 それだけ言った。

 

 

 

 

 嘘かどうかは、わからなかった。

 

 

 

 

 でも。

 

 

 

 

 それでよかった。

 

 

 

 

「……まあいいか」

 

 

 

 

 自然に出た言葉だった。

 

 

 

 

 

 風が、少しだけやわらぐ。

 

 

 

 

「最近さ」

 

 

 

 

「なに」

 

 

 

 

 

「楽なんだよな」

 

 

 

 

 

 紬が、少しだけ笑う。

 

 

 

 

 

「うん」

 

 

 

 

 

 それだけだった。

 

 

 

 

 

 

「だからさ」

 

 

 

 

 

 

「これでいい気がする」

 

 

 

 

 

 

 うまく言えない。

 

 

 

 

 

 

 でも。

 

 

 

 

 

 

「意味とか、まだわかんねえけど」

 

 

 

 

 

 

「まあ、生きててもいいか」

 

 

 

 

 

 

 少しだけ間。

 

 

 

     紬が、笑う。

 

 

 

    「でしょ」

 

 

 

     それだけだった。

 

 

 

     フェンスから、手を離す。

 

 

 

     並んで歩き出す。

 

 

 

     少しだけ、距離が近くなっていた。

 

 

 

     ――全部は、思い出せなかった。

 

 

 

     でも。

 

 

 

     それで、よかった。

 

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