夜がこわい理由
夜になると、考えすぎてしまうことがあります。
夜が、少しだけ怖い。
静かになると、考えてしまうからだ。
――生きる意味って、なんだろう。
別に、今すぐ死にたいわけじゃない。むしろ逆で、死ぬのはすごく怖い。
でも、このまま生きてて、何になるんだろうって思う。
いつか絶対死ぬのに、頑張る意味ってあるのか。
そんなことを考え始めると、止まらなくなる。
布団に入っても、目が閉じられない。
このまま地球が滅亡したらどうしようとか、自分だけが取り残されたらどうしようとか。
どうでもいいはずの想像が、やけにリアルで、胸がざわざわする。
「……めんどくさ」
小さくつぶやいて、寝返りを打つ。
こういうことを考えてる自分も、ちょっと嫌だった。
次の日。
授業中も、ぼんやりしていた。
黒板の文字は見えてるのに、頭に入ってこない。ノートも途中で止まっている。
「……おい」
小声で呼ばれて、はっとする。
隣の席のやつが軽く肘でつついてきた。
「先生、見てる」
「……あ、やべ」
慌てて姿勢を正す。
それだけのことなのに、少しだけ現実に戻ってきた気がした。
昼休み。
特にすることもなくて、教室を出た。
なんとなく、屋上に向かう。理由はない。ただ、人が少ないから。
扉を開けると、風が少しだけ強かった。
フェンスの向こうに、街が広がっている。
そのまま、なんとなく近づく。
下を見る。
高いな、と思った。
それだけだった。
怖いとか、怖くないとかじゃなくて、ただ「終われるんだな」って思った。
「……やめなよ」
後ろから声がした。
振り向くと、知らない女の子が立っていた。
「……別に、何もしてないけど」
そう言うと、その子は少しため息をついた。
「そういう顔してる人、大体そう言うよね」
意味がわからなくて、少しムッとする。
「は?」
「別に、いいけど」
その子はフェンスの近くまで歩いてきて、俺の隣に立つ。
同じように、下を見た。
「……ねえ」
「なに」
「生きる意味とか、考えたことある?」
一瞬、言葉に詰まる。
「……あるけど」
そう答えると、その子は小さく笑った。
「そっか。私も」
風が、少し強く吹いた。
「でもさ」
その子は少しだけ目を細めて言った。
「わかんなくても、別によくない?」
その言葉に、何も返せなかった。
初めてだった。
“答えを出そうとしない人”に会ったのは。
「……名前、なんていうの」
気づいたら、そう聞いていた。
「紬」
その子はあっさりと答えた。
「そっちは?」
「……湊」
「へえ」
紬は少しだけ笑った。
「じゃあさ、湊くん」
「明日も、とりあえず来る?」
「……は?」
「学校。意味とかは、あとでいいからさ」
その言葉が、妙に残った。
「……まあ、来るけど」
「じゃあ決まり」
紬は満足そうにうなずいた。
風が、少しだけやわらいだ気がした。




