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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その九十五

 嬉しいような、恥ずかしいような微妙な気持ちになった優花は、曖昧な笑みを浮かべながら頬を掻きつつ、改めて翡翠の部屋をチェックする。


 まず人が出入りできるのは部屋のドアの一つだけ。他の部屋もそうだが、ここは離島で万が一にも閉じ込められないようにと鍵はつけていないらしく、入ろうと思えば誰でも入れる。


 次はさっきも見た机の所にある窓……と言うより小窓。落下防止のためか、それほど開かなくなっているので、ここから侵入するには小窓を外さなければならないだろうが、翡翠が朝食を済ませて戻ってくるまでの短時間に、誰にも気が付かれずそんなことはできないだろう。


 あとは部屋の様子をざっと見てみたが、ベッドのところも、机のところも荒らされた形跡などはなかった。


「ほら見なさい! 手掛かりなどありませんわ!」


 ふふんと胸を張る凛香に、優花は苦笑しつつ机に手をつくと、ざらざらとした感触がした。


「これは……砂かな?」


 窓が開いていたので、そとからビーチの細かい砂でも入って来たのだろうか。


 結局気になったポイントはそれぐらいで、特に成果もないまま翡翠の部屋の現場検証は終了。翡翠を部屋に残し、優花は凛香と共に一度自室へと戻った。


「どうでしたのゆうかさん。犯人はわかりましたの?」

「いや、全然ですね……」


 正直身内しかいないというこの状況で本当に誰かが盗みを働いたとは思いたくないが、これだけ同時に物が自然になくなるはずもないので、やっぱり犯人はいるのだろう。


 それが誰なのかをはっきりさせるには、やっぱりなんらかの証拠が必要だ。今回のような場合、部屋から盗まれた物を見つけるのが手っ取り早いかもしれない。


「わかりましたわ! 皆さんの部屋を調べて、盗まれた物があった部屋が犯人なのではなくて?」


 同じ結論に達したらしい凛香が自信満々にそう言うのを見て、優花はすぐにそうですねと言おうとしたが、頷こうとしていた首を捻った。盗んだ物を持っている人が犯人――――という考えは危険かもしれないと思ったからだ。


「何か問題がありまして? プライバシーを気にしている場合でもないと思いますけれど?」

「そうですね……単純に盗まれた物を見つけるだけならそれでも良いのかもしれないですけど。犯人をはっきりさせるためには微妙かもしれません」


 犯人が盗んだ物はどれも盗まれた当人にとっては大事な物かもしれないが、他の人から見ればそれほど価値が無いものも多い。犯人の目的が単なる嫌がらせであった場合、盗んだ物を他の人の部屋に放り込むことだってありうる。


「まあ、盗まれた物を見つけることも大事だと思うので、やるとしたら最終手段ですかね」

「そうですわね……ってあら? ゆうかさん?」


 どうしたものかと優花と一緒に頭を悩ませていた凛香がふと何かに気が付いたように、目線を優花の背後へと飛ばした。


「ん? どうかしました凛香さん?」

「ゆうかさんのスマートフォンが机の上に……」


 凛香が指さした先、机の上を振り返って見るとたしかに凛香の言った通り優花のスマホが置いてあった。


「あっ! ほんとだ!」


 慌ててスマホを確認してみると、壊されているということもなく、無事に起動できた。


「ゆうかさんの勘違い……というわけでもありませんわよね?」

「ないですね……」


 つまり優花が部屋を離れている隙に、誰かが優花のスマホを戻したということになる。


「これで誰か犯人がいるのはわかりましたわね……ただ、目的はよくわかりませんけれど……」

大事おおごとになってきたから、戻した……とか?」

「それは……ありえなくはないかもしれませんけれど……」



 せっかく盗んだ物を戻すという犯人の謎の行動は、今考えても仕方がないので置いておくことにして、続いて優花達は深雪や竜二、そしてもう一度楓と奈央の部屋も見て回ったが、やっぱり手掛かりはなかった。


「実際に自分で調べてみるとよくわかりますね、推理小説とかドラマってフィクションなんだって……。そう都合よく手掛かりが見つかるわけないですよね……」

「ええ、そうですわね……」


 そこそこ時間をかけて調査したにもかかわらず全て空振りに終わり、二人で途方に暮れていると、廊下の角から突然黒い猫が飛び出してきた。


 にゃあ!


 優花達を見て、一声鳴くとまた廊下を駆けていく。


「待てこの猫! 逃げるんじゃねえ!」


 優花達があっけにとられていると、竜二が猫と同じく廊下の角から飛び出してきた。


「あっ! 兄貴! 猫が走ってきませんでした? 猫!」


 走ってきた竜二の顔は怒っている感じではなく、むしろ楽しそうな顔をしていた。


「いや、走ってきたけど」

「あの猫、おれが撫でようとしたら逃げたんすよ……絶対捕まえて撫でてやろうかと!」

「そっ、そうか。まあ頑張れ……」

「うっす!」


 猫を追って竜二も行ってしまうと、それを見送った凛香が困り顔になっていた。


「……どうして猫がいるんですの?」

「そう言えば、ビーチから帰る時にも見ましたけど、あれ飼い猫とかではないんですか?」

「違いますわね……。レンタルした誰かの飼い猫なのかもしれませんわ。それにしても……あの子わたくし達が帰っても生きていけるのかしら?」

「どう……でしょうね?」


 ビーチから帰る時に見かけたときは、魚をくわえていたが、まさか海に入って自分でとってきたわけでもないだろう。人がいなければ食べ物などもないだろうし……。誰かがこの別荘をレンタルすれば食料もあるかもしれないが、この島から連れ帰った方が良さそうに思える。


「一応見かけたら捕まえるよう皆に言っておきましょうか。置いていくのも可哀想ですし」

「そうですわね……ところでゆうかさん」

「はい?」


 優花が凛香の方を振り向くと、凛香は気が付いたことがあるけれど、言おうかどうか迷っているという微妙な顔をしていた。


「凛香さん? 何かわかったんですか?」


 優花が水を向けると凛香は渋々といった感じで口を開いた。


「ええと……その……もしかしたらなのですけれど……」

「もしかしたら?」

「もしかしたら、皆さんの物を盗んだのはあの猫なのでは?」


 ………………。


 少し可能性を考えてみたものの、そんな漫画みたいな話があるわけがないと言おうとして、そう言えばここは乙女ゲームの世界だと思いだした。


 ……それならあり得るのか? いや……だめか……。


「……もし猫が盗んでいたとして、俺のスマホをわざわざ元の場所に戻しますかね?」

「まあ……戻しませんわね」


 結局猫=犯人説は否定されたまま、三階に戻ろうとすると、途中で仁戸に会った。


「凛香お嬢様、灰島様。犯人は見つかりましたでしょうか?」


 今朝の伊戸ではなく、昨日の少し硬い口調の伊戸のような口調で仁戸が尋ねてきて、凛香がふりふりと首を横に振った。


「いえ、見つかっていませんわ。仁戸は何か変わったことはありませんでしたの?」

「いえ……特には……」

少し用事で家にいなかったため更新が遅れました! 楽しみに待っていてくれた方お待たせしました!

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