乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その八十六
どこかの島にでも行くつもりなのかと思ったら……本当にそうだった。
バスを降りた優花達を待っていたのは、そこそこ大きなクルーザー。圧倒される優花達を尻目に凛香とめいが平然とクルーザーに乗り込んでいった。
「……兄貴、これ本当にどこに行くんすか?」
「さあ……プライベートビーチとしか聞いてないけど……」
ここで止まっていても仕方がないので、竜二と一緒に優花も乗り込むと、真央と翡翠と深雪が続いて乗り込んできた。
「うわー……クルーザーなんて乗るの初めてだよ……」
「安心しろ真央! 何が合っても俺様が守ってやるからな!」
「気合いだけで守れるのなら苦労はせんがな」
クルーザーに素直に感動する真央、そんな真央に甘い言葉を吐く翡翠に、翡翠に小言を言ってまた翡翠と険悪な感じで睨み合う深雪と、いつも通りの光景に、何故だか安心していると、最後に楓と奈央が乗り込んできた。
「うわあ……本当にお金持ちって何するかわからないですよね……」
「あん? 楓は本当に小さいやつだな。いいじゃねえか別に、タダでクルーザーに乗れてラッキー程度に思っとけよ」
クルーザーでの移動に呆れる楓と、楽しそうに笑いながら楓の背中をばんばん叩く奈央の乗船を確認し、いよいよクルーザーが港を離れ、海原を進んでいく。
空は雲一つない快晴、風はあまり無く、波も穏やかで船旅日和……なのだが……。
「うぇ……楓もうだめかもしれません……」
「お……俺様も……」
「あたしもやばい……」
楓と翡翠、奈央が船酔いでダウン、深雪と竜二も気分が悪そうだった。
「はあ……情けない人達ですわね、めい酔い止めを配ってさしあげて?」
「ええ、すぐに」
凛香の指示でめいが手早く酔い止めと水を配っていく。
「みんな大丈夫かな……」
「さあ……何人かは吐くかもなあ……」
いつの間にか優花の隣に居て、ダウンした人達を心配そうに見ている真央に肩を竦めてそう言うと、真央は困ったように笑っていた。
「それにしても、真央は大丈夫なのか?」
翡翠はともかく、深雪や竜二ですらダウンしているのに、普通の女子である真央が平気そうなのを不思議に思いながら聞いてみると、真央はきょとんとした表情を見せた後、すぐに笑っていた。
「……うん、私は大丈夫だよ。ゆうかくんこそ大丈夫なの?」
何だ今の反応? なんか、変なこと聞いたか?
真央のよくわからない反応に感じた小さな違和感は、真央に逆に質問されたことですぐに頭から消えてしまった。
「うんまあ、大丈夫……かな?」
別に船に乗り慣れているとかそういうことは無いのだが、 特に吐き気がする等の違和感はない。
そのまま流れで真央と二人で海の方を見ながら話しているところに、凛香がやってきた。
「お、お二人は何を話しているのかしら?」
真央がいるからか、凛香が緊張気味に少し上がった声で話しかけてきた。
凛香に話しかけられて真央も少し緊張したのが伝わってきた。やっぱりまだ真央は凛香に嫌われていると思い込んだままらしい。
「今は、海は何で青いのかって話をしてました」
優花を挟むように真央の反対側に来た凛香に、何の話をしていたのか教えると、凛香は小首を傾げ、人差し指を顎に当てた。
「あら? そんなこと? それはきっと空の青さが海に映っているのですわ!」
「あー……それじゃあ凛香さんは真央と同じ意見なんですね?」
「真央さんと同じ……」
嬉しいような悔しいような微妙な表情を見せた凛香に、優花が思わず笑ってしまうと、凛香はそれを見てつんと顔をそむけた。
「ゆうかさんはどうして海が青いと思うんですの?」
「あー俺は……」
「ゆうかくんは、海が青いのと空が青いのはたぶん同じ理由で、光の色が関係してるらしいって言ってましたよ!」
真央の言葉を聞いて凛香が、ほうと一瞬感心した様子を見せた。
「テレビで見たか、授業で習ったのか忘れたんですけどね、光の波長がどうとか……」
「あら、誰かの受け売りですのね! 知ったかぶりは感心しませんわね!」
結局凛香に呆れられてしまい、優花は苦笑しながらスマホを取り出して詳しい解説を見ようと思ったが、既に圏外で電波が飛んでいないため、調べられなかった。
「あー……なんか久しぶりに圏外になったような気がする……」
「あはは、基本どこでもネットに繋がるからね、私のも圏外だよ」
「ああ、言い忘れてましたわね。今回の旅行中はインターネットは使えませんわよ?」
結構重要なことをさらっと言われた気がする……。
「ネット使えないのか……本とかゲームとか持って来れば良かったかな……」
なんだかんだで優花も暇な時はスマホで動画を見たり、ネットサーフィンをしたりするので、ネットが使えないのは困るかもしれない。
難色を示した優花に対して、真央はいつもの笑顔で凛香に笑いかけた。
「たまには良いかもしれませんね!」
「そうでしょう? 常に繋がっていられるインターネットから、あえて離れる……そういう時間も必要なのですわ!」
さすがは真央さんはわかってらっしゃるわね! みたいな顔でうんうんと頷く凛香と、あははと笑う真央とそのまま話を続けていると、クルーザーの進む先に島が見えてきた。
切り立った崖の側に白い砂浜が広がる入り江。山のようになった島の中央部分には大きな洋館。島自体の大きさもそれなりにありそうだった。
「もしかしてあれですか?」
「ええ、あれが島ごと買い取って立てた別荘ですわ!」
島ごとって……スケールでかいな……。
お金持ちのスケール感に圧倒されているだけの優花とは違い、真央は現実的なところが気になったらしい。
「維持とか管理とかはどうしてるんですか?」
「良いところに目を付けましたわね! この別荘普段はレンタルしてるんですの」
「れ、レンタル?」
凛香の話を聞くと、どうやら別荘をレンタルするというのは最近ではよくあるらしい。
これから行く別荘も普段はレンタルしていて、維持、管理の手間を極力減らしているとのことだった。
「ちなみに一日いくらくらいなんですか?」
「それほど高くはありませんわ。一日あたり十万円程とリーズナブルですの」
リーズナブルってなんだっけ……。いや、たしかにこのほとんど豪邸みたいな別荘を借りると思えば安い……のか……?
凛香の金銭感覚のおかしさにつられて優花も混乱していると、さすがの真央も苦笑いをしていた。
島に着くと、ダウンしていたゾンビのようなメンバー達の背を押しながらとりあえず島の中央に立つ洋館へと向かうことにした。
「先に注意しておきますけれど、屋敷の中はともかく、外ではあまり一人にはならないようにお願いしますわね。事故が起きないとも限りませんので」
たしかに言われてみれば他に人がいないということは、崖から落ちたり、波に攫われても誰にもわからないということだ。
絶対に一人にならないようにしようと心に誓いながら、屋敷に着くと、そこにはメイド服を着た二人の人物が待っていた。
「お待ちしておりました。凛香様、そしてお客様方」
「これから皆様のお世話をさせていただきます。五月伊戸と五月仁戸。よろしくお願いいたします」
めいさんと同じくらいか、少し下くらいに見える瓜二つの外見をしたサイドテールの美女メイドがぺこりと頭を下げた。
「おお……双子のメイドか……全く見分けがつかねえな……」
たしかにまだ船酔いでダウン中で元気がない奈央の言う通り、ぱっと見は二人の見分けがつかないが、よく見れば肩から流している少し長い髪の方向が左右逆で、髪留めも赤と青で違う。
全員が軽く自己紹介の挨拶をした後、伊戸と仁戸が部屋へと案内してくれた。
普段はレンタルされているということだが、新築のごとく綺麗で広く、部屋数も多いようで、屋敷の中を見て回るだけで一日潰せそうだった。




