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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その八十

 優花が自分の部屋の掃除を任せると言うと、凛香が目を大きく見開いてぼそぼそと小声で何かをつぶやいていた。


「凛香さん? どうかしました?」

「いえ、何でもありませんわ! わたくしに任せなさい! すぐに綺麗にしてさしあげますわ!」


 おーほっほっほっ! と高笑いしながら、早速優花の部屋に突撃していった凛香の後を追う。


「めい! 着替えを!」


 優花の部屋に入った凛香がぱんぱんと手を叩くと、いつの間にか部屋の入り口にめいが来ていた。


「はい、お嬢様。こちらになります」


 めいが凛香に差し出したのは凛香の体操服入れだった。


「それでは着替えますので、優花さんは覗かないでくださいね?」

「覗きませんよ!」


 慌てて部屋から離れ、少し待つ。


 凛香さんが自分の部屋で着替えていると思うと……なんか変な感じだな……。


 別に着替えを見たいとかそういうことではないものの……なんとなくもやもやした謎の感覚を抱えたまま待っていると、すぐに体操服に着替えた凛香が出てきた。


 長い髪を後ろに束ねたいつもと違う髪型は、いわゆるポニーテール。体育の授業で見慣れているとは言え、すらっとした手足もいつもより少し露出していて目が引き寄せられてしまう。


 優香がまじまじと凛香を見てしまっていると、凛香がふふっと笑った。


「あまり見とれないでくださるかしら? わたくしもあまり見られると恥ずかしいのですわよ?」

「っ! すいません!」


 ばっと顔をそむけると、凛香は楽しそうにくすくす笑っていた。


 からかわれただけなのはわかっているのが、なんだか少し悔しかった。


 こほんと咳払いを一つして気持ちを切り替える。


「それじゃあ、部屋の掃除をよろしくお願いします凛香さん」

「ふふっ、ええ、任せなさい」


 上機嫌な凛香は優花の部屋の窓を開け、早速掃除を始めようとしてどこからか取り出したのははたき。


 多少本や雑貨そして花恋から押し付けられた筋トレ道具(花恋はすぐに挫折していた)で散らかっているとは言え、足の踏み場もないというわけでもない。まずはほこりを落としてからということだろう。


 めいが前凛香が掃除をしたら悲惨なことになったと言うので警戒していたが、これなら大丈夫そうだと安心して、凛香に自室の掃除を任せ別の部屋の掃除をしようとしたところ、めいに肩をとんとんと軽く叩かれた。


「めいさん? どうかしました?」


 振り向いて見てみると、めいがゆっくりと首を横に振った。


「ゆうか君、お嬢様から目を離さない方が良いと思いますよ」

「えっ? でも別に大丈夫そうじゃ……」

「本当にそうでしょうか?」


 本当にそうかって……。


 見ればわかるだろうと、優花の部屋を掃除する凛香の方を向いて、優花は目を剥くことになった。


「ふんふ~ん! 掃除なんて簡単ですわ~!」


 鼻歌を歌いながらぱたぱたと凛香がはたきをかける度に、机や棚からどんどん物が落ちていくのを見て、優花は慌てて凛香に駆け寄った。


「凛香さん! ストップストップです!」

「何ですの? 今興が乗ってきたところでしたのに……」

「いやいや、これ見てくださいよ! さっきより散らかってるじゃないですか!」


 びしっと散らかった床を指さすと、凛香は肩を竦めた。


「あら? わたくしが見ない間に部屋を汚さないでくださる? そんなにわたくしに掃除をしてもらえるのが嬉しいのかしら……」


 凛香が困った人……みたいな顔をしているが、本当に困った人なのはむしろ凛香の方だ。


「いやいやいや! これやったの凛香さんですよ?」

「まあ、ゆうかさんは冗談がお上手ですわね?」


 ……信じてない。


 物を落とした時に音がするので普通わかると思うのだが、何故か凛香は気が付かないらしい。


「ゆうか君、これはまだ序の口ですよ……。私は掃除に戻りますね、それでは」


 なんだか疲れたような声で背後のめいが言ったのが聞こえてきて、優花は冷や汗が出てきた。


 どうなっても良いって言ったけど、このままだと本当にすごいことになりそうだ……。


「り、凛香さん! 俺も手伝って良いですか?」


 凛香を一人で掃除させられないと優花がそう申し出ると、凛香は眉をひそめた。


「わたくしには任せられないとでも言うおつもりですの?」


 まずい……ここで凛香さんの機嫌を損ねたら、一人でやるって言い出しかねないぞ……。


 さっきまで自室に立てこもっていた花恋同様、凛香も一度決めたことは曲げない性質の持ち主なので、そうなったら、優花の部屋はぐちゃぐちゃになる運命から逃れられなくなる。


 自分の部屋を救うために思考を瞬時にフル回転させた優花が出した結論は――――。


「せ、せっかくなら一緒に掃除したいなって思いまして、こんな機会は滅多にないでしょうし……」


 ……いや、一緒に掃除したいって何だよ。


 もっとましな言い訳は無かったのかと、内心自分にセルフツッコミをしながら、なるべく凛香の印象を良くしようと表面上は凛香に微笑みかけると。


 凛香は頬を染めて口を少しだけもにょもにょさせた後、優花から視線を外し横を向いた。


「……ま、まあ? それならば許可してあげないこともないですわ! わたくしの邪魔だけはしないでくださいね!」


 自分ではいまいちな言い訳だと思ったが、凛香的にはこの言い訳で良かったようだ。


 ふう、とりあえずこれで大丈夫だ……。


 後はこっそり凛香が散らかしたそばから片付ければ良い。優花が安堵している内に凛香は掃除を再開させた。


「ふふふふ~ん」


 掃除を再開してすぐさっきよりもなんだか上機嫌な鼻歌が再開され、凛香のはたきが埃と物を落としていく。


 凛香の掃除の様子をちゃんと見てみると、わざとやっているんじゃないかと疑ってしまう程の頻度で凛香の操るはたきは物に引っ掛かり次々に落下させていた。


 落ちた物は絶妙に凛香の足を避けているため、怪我はしていないみたいだが、正直かなり危ない。


 凛香に付いて回り、凛香が落とす傍から落下中の物をつかみ、元の場所に戻していく。


「ふう、埃はこれで落ちましたわね! 次に行きますわよ!」


 埃以外も色々と落ちてましたけどね! とは言わず、優花がはははと引きつった笑みを浮かべると、凛香は満足そうに部屋の様子を見てはたきをしまっていた。


「埃は落としましたから……次は……」


 少し悩む素振りを見せる凛香の視界に入らないように、優花はこっそりまだ落ちていた本などを片付けていると、ぱんと手と手を打ちあわせる音がした。凛香が何か思いついたらしい。


「掃除機をかけましょう! ゆうかさん! 掃除機を持ってきてくださる?」

「……わかりました」


 正直凛香の手に掃除機を渡したくはないが、また拗ねられて一人でやるなんて言われても困る。


 リビングに置いてあった掃除機を手に戻ると、部屋はまた物で散乱しぐちゃぐちゃになっていた。


「ええと……凛香さん? 何してるんですか?」

「あら、ゆうかさん遅いですわよ! ゆうかさんが遅いので手順を変更したのですわ! 掃除機の前に先にお部屋を整理しようと思ったのですわ!」


 んー……部屋の整理をするならはたきをかける前にやっておいた方が良かったと思うけど……。


「はあ、そうですか……」


 既に片付けてあった物までこの短時間で全部床に広げられていて、思わずため息が出そうだった。

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