乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その七十九
「ふふん、前々から言っていたわたくしとゆうかさんの写真ですわ!」
……二人で一緒に写真なんて撮ったっけ?
優花には心当たりがなかったが、何故か花恋には心当たりがあったらしくすごく食いついてきた。
「あっ! あれか! 見たい見たい!」
「でしたら早く出てきなさい花恋さん。一緒に掃除をしますわよ!」
これは勝負あったかな? と思ったのも束の間、花恋のいつもの笑いが聞こえてきた。
「にはははっ! でも我慢できるもん!」
「……くっ! 粘りますわね!」
花恋の説得に失敗した凛香が悔しそうに歯噛みをしているのを見て、優花の脳に閃きが訪れた。
「あの、凛香さん」
「なんですの! まだわたくしはあきらめていませんわよ!」
凛香もスイッチが入ったらしい、絶対に花恋を説得する気になっているようで、優花は自分の閃いた作戦がいけそうだと確信した。
「それなんですけど、時間かかりそうなんで、凛香さんは花恋の説得をお願いできますか? 俺は先に掃除してるんで」
優花の閃いた作戦は、凛香が足止めされている内に掃除を始めちゃおうというものだった。めいの話を聞くに、凛香の掃除が始まってしまえば、凛香から目を離せなくなるので効率が落ちるからだ。
「わかりましたわ! すぐに説得してお手伝いしますわ!」
優花の裏の意図には気付かなかったらしい凛香は、やる気に満ち溢れていた。
……ゆっくりでいいですよ?
なんて言うわけにもいかず、曖昧に笑いながらその場を離れる。
掃除用品をまとめて置いてあるリビングに戻ると、めいが早速一人掃除を始めていた。椅子や机などを隅に寄せているのを慌てて優花も手伝った。
「ゆうか君、お嬢様はどうしたのですか?」
「ええと、花恋の説得をしてもらってます……」
机を協力して持ちあげて隅に寄せながらされためいの質問に、優花が苦笑しながら答えると、すぐに優花の作戦がわかったらしい。
「なるほど、お嬢様になるべく掃除をさせないためですね?」
「まあ、そうです……。あっ、ここで下ろしましょうか」
めい相手に取り繕っても仕方がないので白状しつつ、運んでいた机をせーので下ろす。
「たしかになるべくお嬢様に掃除をさせない方が良いと私も思いますけれど、全くさせなくてもそれはそれで問題あると思いますよ?」
「あー……たしかに……」
自分が掃除をする前に全部終わっていたら、凛香はへそを曲げてしまいそうだ。
「それじゃあどこか一部屋だけやってもらった方が良いんですかね?」
「ええ、できれば荒れても大丈夫な部屋だと良いですね」
……荒れても大丈夫な部屋って。
凛香は掃除で何をすると言うのだろうか。勉強も運動も高いレベルにある基本万能な凛香だが、料理や掃除などの普段やらない作業は苦手なんて言葉で片付けられない程ひどいみたいだ。
「うーん……それじゃあ俺の部屋ですかね。別にどうなっても構いませんし……」
花恋のように、部屋に見られて困るような物は特にないし、多少荒らされたって元々綺麗な部屋ではないので問題は無い。
「ゆうか君が良いならそれで良いかと。さあ本格的に掃除を始めますよ」
机や椅子等の移動が終わり、いよいよ掃除が始まる。
掃除の基本は上から下。天井の掃除から始め、壁にかかっているものやスイッチ類のほこりを払い、最後に床を掃除する。
凛香の家のように高価な物等無く一々丁寧にやる必要がないことと、めいと二人ということもあり、リビングの掃除はあっというまに終わってしまった。
凛香の方の状況はどうなっただろうと聞き耳を立ててみると、凛香が花恋の説得を続けている声が聞こえてきた。
「花恋さん! そこから出てこなければお花摘みにも行けませんわよ!」
「お花摘み……ってトイレか! トイレならさっき行ったもんね! にははっ! 残念だったね凛香お姉ちゃん!」
「くっ! 花恋さん! なんと強情な人なのでしょう! 良いですわ、それならば次の策です!」
……なんだか二人共楽しそうに聞こえるのは気のせいだろうか。
「まあいいや……今のうちにさっさと終わらせちゃいましょうめいさん!」
「ええ、それでは私はキッチンをやりますね」
「あっ、じゃあ俺はトイレとお風呂場をやってきます! それじゃあ、よろしくお願いします!」
ここからは掃除する箇所を分けて掃除をすることにした。リビング以外の狭い場所の掃除は一人の方が効率が良いからだ。
キッチンはしつこい油汚れ等があり、時間がかかると思ったのだが、優花が一階と二階の二つのトイレの掃除を終えた時点で、既にめいはキッチン周りの掃除を終わらせていて、優花の代わりにお風呂掃除までしてくれていた。
……めいさんには一生勝てない気がするな。
これでも効率的に素早く掃除をしたつもりだが、めいにはまだまま敵わないのがよくわかった。残る掃除の箇所は、優花や花恋、そして両親の部屋等の各部屋。
「凛香さんには俺の部屋をやってもらうとして……花恋はとりあえず自分の部屋だけでもやらせますか」
花恋には見られて困る物が山ほどあるだろうしな……。
「ええ、私は残りを片付けますので、ゆうか君はお嬢様をお願いします」
「わかりました!」
めいに笑顔で送り出され、凛香の元に向かうと、凛香はまだ花恋の説得を続けていた。
「花恋さん! いい加減にしなさい! 終わったらお菓子のご褒美までつけると言いましたのに何がご不満なんですの!」
「にははっ、だって凛香お姉ちゃんが作ったやつなんでしょ? 何と言うか嫌な予感がするんだよねえ……」
意外に勘が鋭いな……。
前回の凛香のお菓子は……『無』なだけで他には害がなかったが、次は何がでてくるのかわからないので、食べないのはとても良い判断と言わざるを得ない。
花恋の危機回避能力の高さに半ば感心しつつ、優花は凛香に声を掛ける。
「凛香さん、花恋は自分の部屋の掃除をやらせますから、もう大丈夫です。花恋もそれなら良いだろ?」
「……えー」
不満そうな声が聞こえてきたので、仕方なく優花は切り札を切ることにした。
「嫌なら凛香さんにやってもらうけど……」
「いや! それはダメだよ! わかった! 自分でやるから!」
お菓子の件同様、危機回避能力の高いらしい花恋が慌てて「自分でやる」と言い出すと、凛香が怪訝な顔になっていた。
「……わたくしに掃除されるのがそんなに嫌なんですの?」
「嫌って言うか……嫌な予感がするって言うか……」
ようやく扉の鍵を開けて出てきた花恋に、はたきと雑巾を渡すと、花恋は渋々受け取ってまた自室に戻っていった。
花恋はこれで良いとして……あとは……。
「ええと凛香さん、掃除を手伝ってくれるってことなんですけど……」
「ええ! この虚空院凛香、一度言ったことを撤回するつもりはありませんわ!」
いや、撤回してくれても良いんですけどね?
「それなら俺の部屋をお願いできますか? 換気はしてるんで匂いとかは大丈夫だと思うんですけど……」
「ゆうかさんの部屋……あの時以来ですわね……」




