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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その七十四

「まあいいや、それよりこれから凛香さんの家に行くけど、花恋はどうする? 一緒に行くか?」

「えっ! 行きたい! ……っと思ったけどやっぱりやめた!」


 花恋の急な心変わりについていけず思わずその場でずっこけそうになった。


「ええと……ちなみになんでだ? 行きたいは行きたいんだろ?」


 どうして急にやめたのかが気になって聞いてみると、花恋は『そんなこともわからないの? 情けないなあ……』みたいな印象を受ける感じでやれやれと肩を竦めていた。


「そんなの凛香お姉ちゃんの機嫌が悪いからに決まってるじゃん。電話で昨日もお話ししたけど、相当機嫌悪かったから行くなら覚悟しておいた方が良いよ?」

「……そ、そんなにか?」

「にはは……爆発寸前の爆弾って感じだね……」


 ……終業式の日もそういえば機嫌は悪そうだったか。


 優花に補習の間の連絡を禁止した時も、怒ってこそいなかったが、少しだけ拗ねたような感じでぶすっとはしていたことを思い出す。


 んー……翡翠に勝ち誇ってた時はテンション高めだったから……。


 明確に凛香の機嫌が悪くなったのは、優花が執事ができないと言ったあたりからか。


 竜二を『犬』と呼んだ時は機嫌はかなり悪くなっていたように思えたが、補習のことを説明したあたりでは、不機嫌というよりも、優花を心配しているような感じだったので大丈夫だと思っていたが……やっぱりだめだったらしい。


 そんなに執事として優花をこき使いたかったのか……あるいは友人だと思ってくれているのか。


 凛香の心はわからないが、とにかく優花にできることがあるとすれば、誠心誠意謝ることだけだ。



 結局花恋を一人家に残し、凛香の家に着くとめいが出迎えに来てくれた。軽い挨拶の後、門の中に入り凛香の様子を聞いてみると、めいは困ったように笑った。


「お嬢様はここ数日、とても荒れてますよ。ゆうかくん、お願いしますね」


 めいから笑顔を向けられ、優花は曖昧に笑いながら頬を掻いた。


「ええと……まあ、頑張ります」


 とりあえず、いつも通り与えられた部屋でなんだかんだで久しぶりの執事服に着替えるとぐっと気合いが入った。


 ぱちんと両頬を叩いて更に気合いを入れてから、凛香の部屋に向かうと、凛香はいなかった。


 外出をしているという話はめいから聞いていないので、家にはいるはずだけど……。


 凛香の家は間違いなく豪邸と言えるレベルなので、当てもなく探すとなると相当骨が折れそうだった。


 なんだかんだで何度も凛香の家の執事をしているが、凛香に会おうとして会えないという事態になったのは初めてだったことに今更気が付いた。


「……ああ、そうか」


 いつもは、凛香が優花を見つけてくれていたから会えないことがなかったのだと気が付いた優花は、今度は自分の番だと再び気合いを入れなおして凛香の捜索を始めた。


 大きすぎるリビングに本格的な厨房、広すぎる浴室に何部屋もあるゲストルーム。地下室から書斎まで目につく部屋に片っ端から入って見たもののどこにも凛香はいなかった。


 一度めいが居た厨房に戻り、凛香が外出をしていないことは確認しているので、どこかには居るのは確定している。


 ……そもそもこんなに見つからないってありえるのか?


 いくら豪邸で広いとは言っても隠れてるのでなければ、痕跡くらいは残っているはずだが、これまで優花が入った部屋には、人が居た形跡は一切なかった。


 やっぱりどこかに隠れているのか? いや、もしかして……。


 少しだけ悩んだ後、優花は書斎を離れ、屋敷の隅の方にあるゲストルームに入り聞き耳を立てた。


 すると、かすかだがドア越しに足音が聞こえてきたので、ばっとドアを開けて外に出ると、優花の予想通り、凛香がそこに立っていた。


「っつ!」


 急に優花が出てくるとは思わなかったのか、びっくりした拍子に転びそうになった凛香を慌てて助けると、凛香は赤い顔で優花を責めるように見てきた。


「ゆうかさん! びっくりさせないでくださる?」

「あはは……すみません……」


 いや、別にびっくりさせるつもりはなかったんですけどね……。


 普通にしていたら恐らく凛香は見つからなかったので、これしか方法がなかっただけだ。


 凛香が見つからなかったのは、そもそも凛香が優花の背後を姿を隠して追ってきていたからだったということになる。


「まずはお嬢様、また執事として働くことになりましたので、よろしくお願いいたします」


 頭を下げると、凛香はぷいっとそっぽを向いて「……ええ」とだけ答えてくれた。

 さっきからなんで優花から隠れるようにしていたのかはわからないが、まだ凛香の機嫌は直っていないらしかった。


「この度は自分が赤点を取ったせいで、ご心配をおかけしたようで申訳ありませんでした」

「別に心配などしていませんわ!」


 優花がなるべく深く頭を下げると、凛香は食い気味で否定してきた。やっぱりまだ機嫌は悪いらしい。


「それと少しお話があるのですが……」


 問題はここからだ。海の話を先にするのか、それとも両親が帰ってくるという話をするか……。


 海に誘う成功率を上げることを考えれば、少しでも凛香の機嫌が良くなってからの方が良いだろう。今は機嫌が悪い状態なので、海の話は後回しにした方が良いだろうか?


 ただ、両親が帰ってくるので執事の仕事が毎日は無理だと言う話も凛香の機嫌を良くする内容ではない、結局どっちから先に話すべきかがなかなか決められない。


「……なんですの?」


 優花に横顔を向けながら、何から話すべきか迷う優花をちらっと凛香が横目で見てきた。これ以上待たせるとより機嫌を損ねそうだ。


 今日の執事の仕事終了までに機嫌が回復することを期待して、海の話はまだせず、両親が帰ってくる話をすることにした。


「ええと、もうすぐ両親が海外から帰ってくるみたいでして……」


 両親と聞いた瞬間、凛香の耳がぴくっと動いた。どうやら興味を引くことはできたらしい。


 もしかしたら既に花恋から話を聞いていたのかもと思ったが、そうではないらしい。

 

「……ゆうかさんのご両親……それで? それがわたくしと何の関係がありますの?」


 横を向いていた凛香がようやく正面を向いてくれた。


「いえ、ですからまた前みたいに泊まり込みで執事の仕事をするのは厳しいと言いますか……」


 そこまで言ってから凛香の様子を見ると、意外にも凛香は不機嫌を顔に表すことなく、冷静に聞いていた。


 今までの反応を考えれば逆におかしい気がしたが、不機嫌にならないならならないで良いことなので指摘はしないでおいた。


「……そうですの、まあ仕方ありませんわね。ご両親はいついらっしゃるのかしら?」

 

 笑みを浮かべながら続きを促す凛香に、慌てて優花は、両親が来る日取りと、いつ帰るかはわからないことを伝えると、凛香は満足そうに頷いていた。


 ……何か変なことを考えてそうな顔だけど。


 なにやら自信満々で、ふふふと笑い声まで微かに漏れている凛香に、優花がジト目を向けると、凛香は咳払いをしてごまかしてきた。


「こほん、とにかく! ゆうかさんのご両親が帰ってくるのはわかりましたわ。それでも今日は執事をしていかれるんでしょう?」

「ええまあ、それでも夕方までですが……」


 今日は帰る際に明日からの家の掃除用の洗剤を買わなければいけないので、早めに上がるとめいには既に言ってある。


「でしたら問題ありませんわ。それではゆうかさんはちょうど良いのでこのあたりを掃除していてくださるかしら?」

「……かしこまりました、お嬢様」

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