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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その六十八

「なれば良いけどな……まあ俺の補習のことは良いよ、それより竜二、なんで急に田舎に行くことになったんだ?」


 夏休みまるまる田舎で過ごすということは、夏休み中に竜二に会うことはなくなるわけだが、それは優花だけじゃなくて真央もなので、竜二の攻略イベントが完全になくなったことを意味しているはずだ。


「いや、昨日急に親父達から電話がかかってきて、しばらく帰れるからみんなでじいちゃん、ばあちゃんの家に行こうって言われまして……。おれとしては別に行きたくないんすけど、三虎と読子はじいちゃん達に会いたいみたいなんで……」


 ……これも俺が竜二の心の欠片を入手した結果なのか?

 

 優花が心の欠片を入手したことで、竜二の残っていたはずの攻略イベントもなくなり、竜二の周りの事情もゲームとは変化しているのかもしれない。


「そうか……まあさっきも言ったけど電話はできるだろ。いつでもかけてきて良いからな」

「うっす! ありがとうございます!」


 もう一度電話の約束をして笑みを交わし合ったあとは、いつも通りだらだらと歩きながら夏休み中にやりたいことの話なんかをして、竜二とは別れた。



 翌日、早速今日が補習の一日目。


 みんながびびっていた『補習の鬼』に優花も内心びくびくしながら、いつも使っている教室とは違う特別教室棟にある少し小さい補習の教室で一人待つ。


 少人数向けの授業をする教室らしく、教壇に立つ先生との距離も近く感じそうだ。


「……補習受けるのは、やっぱり俺だけか」


 白桜学院の生徒が特別優秀なのか、あるいは期末考査が簡単だったのか、それとも補習の鬼がそれほどまでに生徒に恐れられているのか。


 竹刀を持ったゴリゴリマッチョの物理的に怖いタイプを想像しながら待っていると、がらがらと教室の扉が開いた。


「すっ、すみません……遅れました!」


 教室に入ってくるなりぺこぺこと優花に頭を下げてきたのは、始めてみる白衣を着たとても小柄な女性。背は楓よりも更に少し小さいだろう、丸眼鏡をしていて、見るからに気弱な感じだった。


 この人が補習の鬼? ……ってそんなわけないか。


 そう言えば補習の鬼の補習を受けたのは去年の三年生だった先輩だと凛香も言っていた。今年補習を担当していた教師がやめてしまったのだろう。


 なんだか拍子抜けだった。


 結局補習の鬼なんてもういなかったってオチか……。


 これなら大丈夫そうだなと安堵していると、ぱたぱたと白衣の女性は教壇に立った。


「えっと……私の名前は……」


 一生懸命背伸びをして黒板に名前を書く姿は、もはや子供のように見えた。


鬼島奈央きじまなおと言います! よろしくお願いしますね!」


 にっこり笑った奈央に、優花もよろしくお願いしますと頭を下げると……。


「……なーんて言うと思ったかよ!」


 くっくっくっと突然邪悪な笑みを浮かべた奈央が優花に近づいてきた。


 奈央のあまりの豹変ぶりにあっけにとられている優香の頭を奈央がわしゃわしゃと優花が竜二にするような感じで乱暴に撫でてきた。


「この白桜学院で赤点を取るなんていう、お前みたいな落ちこぼれをたったの三日で勉強できるようにしてやるんだから、感謝してお前はあたしに忠誠を誓えよな! 具体的には追試まで終わったら飯をおごれ!」


 ……急に何言ってんのこの人?


 本当に奈央が教師なのかすら怪しくなるレベルの言動だったが、そのあとすぐに補習が始まってしまい、抗議する暇はなかった。


「はい、まずはこれな」


 まず奈央に渡されたのは、大量のプリント。


 さらっと目を通してみると、範囲は今回優花が答えられなかった問題に絞っていて、ポイントごとに見やすく整理されていて、すごくわかりやすそうだった。


 ……プリントの端には凶暴そうな見た目のウサギのミニキャラが書かれているのは奈央の趣味なんだろうか?

 

「とりあえず帰ってから読んどけ」

「えっと……わかりました」


 とりあえず頷いてプリントをファイルに入れて鞄にしまっていると、奈央は隣の席の椅子を引いた。


「うし、立って補習するのめんどいから隣から教えるわ。今日やる分のプリントはこれな」


 椅子が少し大きめだったこともあり、椅子に座る奈央の足は地面に届いておらずプラプラと浮いている。


 子供が高い椅子に座った時のようで微笑ましい光景……ではなかった。奈央は椅子に座ると早速頬杖をついていて、ぷにっとした頬を潰しながら、にやにやとした悪い笑みは消してはいなかった。


「……いいんですかそれで?」


 なんだか適当だなあと思いつつ、一応注意のつもりで言ってみると、奈央は余りすぎている白衣の袖をひらひらさせながら手を横に振った。


「いいんだよ、別に誰も見てねえしー。三時間も立ってられるか!」


 奈央の言う通り補習は休憩を挟んで、三時間ほど。

 あと三時間もこの変人のちっちゃい先生と一緒に居なければいけないと思うと、なんだか気が滅入ってきそうだった。


「あっ、二人だからって変なことすんなよ! 警察呼ぶぞ!」


 ばっと自分の身を抱くような仕草をした奈央に、優花は青筋を立てる。


「……ちょっと自意識過剰なんじゃないですかね? 鬼島先生のようなちんちくり……子供っぽい見た目は俺のタイプじゃないんで……」


 あまりにむかついたので、奈央に言いたいことを言った結果、今度は奈央が頬をひくつかせ、怒りに顔を真っ赤に染めた。


 ……ふう、ちょっとすっきりした。


 やってやった感を出していると、奈央がだんと椅子から立ち上った。


「誰がちんちくりんだてめえ! もう怒った! おら! さっさと補習を始めんぞ! 地獄を見せてやる!」


 奈央の怒りを買ったあとの三時間の補習はまさに地獄…………でもなかった。


「ほら、また間違えてるぞ、何度言えばわかるんだ!」

「はい、違いまーす」

「お前やる気あるのかー?」

「そこはさっきやったのと同じだろー?」

「……お前本当に大丈夫か?」


 問題を出されて間違えるたびにぐちぐちぐちぐち隣で言われ続ける中、一切言い返さずひたすら問題を解いていく。

 優花が奈央の小言を無視できたのは、頑張って無視をしようとしたからでも、ひたすら我慢したからでもない。


 プリント自体が見やすく、覚えやすいように工夫されている他、優花がまだ指のギプスがついていて、文字が書きづらいのを考慮されていることに気が付いたからだった。


 優花の補習のためにしっかりと準備をしてくれていた証拠だ。


 この人も凛香さんのように言動で損してるタイプなんだろうなと思ったら、奈央の小言によるダメージはなくなっていた。


「ふう、ありがとうございました。明日もよろしくお願いします」


 額の汗を拭き、礼を言うと、奈央はちっと舌打ちした後、がりがりと頭を掻いた。


「お前思ったより我慢強いじゃねえか、心を折ってやろうと思ったのによ」

「心を折るって……そう言えば鬼島先生は補習の鬼って言われてるんですよね?」

「あー……それなー……」


 補習の鬼のフレーズを聞いた瞬間、奈央は気まずそうに目をそらしていた。


 ……何だこの反応?


 奈央がなんでそんな反応になるのかわからず、首を傾げると、奈央がため息と共に理由を話し始めた。

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