乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その六十一
「……コスプレ会場? ええと、仮装のことですわよね?」
「そうですね。コスプレ会場ということは、別の会場にいるみたいですね」
「……花恋さんもそこにいるのかしら?」
「そうかもしれません、仕方ありませんから私達も行きましょうか」
スマートフォンをゆうかに返すと、凛香とゆうかは二人また手を繋いだまま、コスプレ会場へと向かう。
「ええと……一階が物販で二階が食べ物関係、三階がコスプレ専用の会場みたいですね。ちょうど目の前がエレベーターなので、エレベーターで三階に行きましょうか」
「わかりましたわ」
ゆうかに先導され、凛香とゆうかが三階に向かうためのエレベーターに乗り込み、閉めるボタンをゆうかが押すと、エレベーターの扉が閉まった。
ゆ、ゆうかさんが近い……。エレベーターってこんなに狭かったんですのね……。
狭い空間にゆうかと二人きりになったと自覚した瞬間、凛香はなんだか急に緊張してきてしまった。
お、落ち着きなさい虚空院凛香! 何を緊張することがあるのです!
緊張するなと自分に言い聞かせ、知らず手に力がこもった瞬間、一階から三階に上がろうとしていたエレベーターが突然止まった。中も急に真っ暗になり、隣にいるはずのゆうかの姿すら見えなくなった。
「な、なんですの!」
すぐに非常電灯が付き、明かりは戻ったもののエレベーターは停止したまま。
予想外の事態に凛香が動揺を抑えられずにいると、ゆうかは凛香の手を優しく両手でつかみ微笑みかけてきた。
「大丈夫です、凛香さん。すぐに動きますよ」
凛香を安心させようとしているとわかり、凛香は何故か急に胸が苦しくなった。
「……べ、別に怖くなんてありませんけれど……このまま手を握っていてくださる?」
ドキドキする胸を押さえ、ゆうかから視線を外してそう言うと「はい、もちろん」とゆうかの返事が聞こえた。
どれくらいそうしていたのか、繋いだ手に意識がいっていてわからなかったが、ふと気が付くとエレベーターは再び動き始めていた。
既にゆうかが最寄りの階で止まるようにしていたらしく、エレベーターが止まったのは三階ではなく二階。
エレベーターの外に出ると、アナウンスが聞こえてきた。
『ただいまトラブルによりエレベーターが停止しておりました。点検のためしばらくエレベーターの使用を控えるようお願いします』
「結局何だったんでしょうね?」
「知りませんわそんなこと……」
無駄に恐怖を感じさせられて、普段なら怒るところだが、何故か凛香は怒る気にはなれなかった。
「二階は二階で見て回りたい気もしますけど……先に翡翠さんとの合流をしましょうか」
「え、ええ……」
エレベーターが使えないため、結局階段で三階へ。
三階はフロア内全てが撮影可能で、コスプレをしている人が半分、コスプレをしている人の写真を撮っている人が半分だった。
「見た感じほとんどのコスプレは男装みたいですね。執事服と、制服が多いですかね?」
「そのようですわね……」
コスプレをしている人……コスプレイヤーが集う空間は、こういった経験がまったくない凛香には異様な空間に見えた。
どの人も楽しそうに写真撮影や話しに興じているものの、どのコスプレもどうしてもぬぐえない違和感のようなものがある。
女性が男装をしているから違和感があるのか、あるいはメイクや衣装が合っていないのか。はたまた、そもそもコスプレとはこういうものなのか。
凛香には判断がつかなかったが、一つだけ気が付いたことがあった。
「……奥間さんは浮いてますわね」
「ふふ、ですね」
上品に手を口に当てて笑うゆうかにまたどきりとしつつ、凛香が目を向けた先は、王子様のような服を着た翡翠の姿。
ろくにメイクもせず、ただ衣装を着ているだけだというのに翡翠のコスプレに違和感はなく、記念撮影を求める人で人だかりができていた。
爽やかに笑いつつ、記念撮影を快諾している翡翠を見て、ゆうかは頬に手を当てて「あらあら」と困った顔。
めいの教育の成果か、一々仕草が女性っぽいのでそろそろ本当にゆうかを女性と思い込んでしまいそうになる。
「この様子だと翡翠さんは連れ出せそうにありませんね」
「でしたらどうしますの? 先に花恋さんを見つけましょうか?」
「仕方ありませんね。とりあえずこの階を見て回りましょうか凛香さん」
翡翠のことはとりあえず放っておいて、凛香とゆうかは花恋を探すことにした。
「ところで質問なのですけれど、奥間さんはあらかじめ衣装を持ってきていましたの? 荷物はそれほど多くなかったと思いますけれど?」
探しながら凛香は、どうして翡翠がコスプレをしていたのか気になって隣を歩くにゆうか疑問をぶつけてみるとゆうかは会場の隅の方を指さした。
「凛香さんが思っている通りほとんどの人が自作の衣装でコスプレを楽しんでいるんですけど、レンタルでコスプレもできるみたいですね、翡翠さんはそれを利用されたのでしょう」
ゆうかの指さす方を見れば、確かにレンタルコーナーという看板が見えた。
簡易な試着室が用意されていて、どうやらそこでコスプレに着替えることができるらしく、元々着てた服は預かっていてくれるようで、翡翠が余計な荷物を持っていないのもそのためみたいだった。
なるほどと納得し頷いた凛香を見てゆうかは突然、凛香の手を引いてレンタルコーナーの方へ向かい始めた。
「凛香さんもコスプレしてみたいんですね!」
「ちっ、違いますわ! 誰もそんなことは言っていないでしょう!」
興味が全くないと言えばウソにはなるものの、恥ずかしさが勝った凛香がゆうかの手を逆に引き抵抗した物の、ゆうかは止まってくれなかった。
「遠慮なさらなくても大丈夫です! 私が凛香さんに合う衣装を選んでさしあげます!」
「……ああもう! わかりましたわ!」
別に遠慮をしているわけではなかった凛香だが、抵抗しても無駄だと悟りゆうかの言う通りコスプレに興じることに決めた。
さて、ゆうかさんはわたくしに似合う衣装を選んでくださると言っていましたが……どれを選ぶのでしょう……。
ゆうかがレンタルできる衣装を一つ一つ熱心に見てる様子を隣で顔を赤くしながら待っていると、ゆうかはすぐに衣装を決めたようで、一着の衣装を渡してきた。
「…………」
長い沈黙の後、凛香がゆうかにじとっとした目を向けると、ゆうかは悪気無さそうに微笑んでいるだけ。
「……まあ良いですわ」
ゆうかに渡されたコスプレ衣装を手に持ち、試着室に入り改めて衣装を見ると、それは――――男装だった。
まあ他の参加者も男装がほとんどなので仕方がないと言えばないのだが、何故だかイラッときた凛香は無言でてきぱきと着替えた。
「……はっきり言って微妙ですわね」
ウィッグを使わず金髪の地毛が見えているのが悪いのか、ファンタジー風の男装衣装がどうしても浮いて見えた。
「まあせっかく着ましたし……」
あまり似合っていないと自覚はあったものの、せっかくゆうかが選んでくれたものだからと、凛香が試着室を出てゆうかの前に立つと、ゆうかは凛香の全身に素早く視線を走らせてきた。
「あの……どうでしょうか?」
凛香が感想を求めても、ゆうかは黙って凛香の周囲を一周するだけ。
一周回って凛香の正面に戻ってきたゆうかは一つ頷くと凛香の背に回り込んだ。
「凛香さんちょっと」
「え? ええっ?」
ゆうかに背を押され再び試着室に入ると……なんとゆうかまで入ってきた。
「ゆ、ゆうかさんっ!」




