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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その五十五

「ん? どうしたんだ同士?」

「あっ、いや、何でもない」


 慌てて誤魔化し、とりあえず優花の口から真央に翡翠の件を告げるのはやめ自分の席に戻った。


 翡翠の攻略の件はともかく……竜二の攻略はもう俺がしたことになってるはずだけど……。


 優花が気が付いたのは、白桜がどうなるのかわからないということだった。


 竜二を優花が攻略してしまったので、もしかしたらもう白桜は現れない……可能性が高い。


「ごきげんよう、ゆうかさん。指の調子はどうですの?」


 優花が、白桜のことを考えていると、いつの間にか凛香が登校してきていた。


「あっ、凛香さん。おはようございます。指はまあすごく痛いとかはないんで大丈夫です。それより凛香さんこそ風邪はもう大丈夫なんですか?」

「ええ、もう大丈夫ですわ。心配をおかけしました」


 素直にぺこりと頭を下げた凛香に、教室中がざわついた。


 ……まあそうなるな。


 決して人に頭を下げて謝ったりはしなかったはずの凛香の変化に、クラスのざわめきは昴が教室に来るまで収まらなかった。


 朝のホームルームが終わり、昴が教室を出たところで、優花は昴に声をかけた。


「三日月先生、今日の放課後少し大丈夫ですか?」


 白桜のことで相談できるのは、今のところ昴だけなので、素直に頼ることにした。


「ん? 何か相談事かな?」

「まあ……そんな感じです」


 優花が言い淀んだのを見て、何かを察してくれたのか、昴は快くオーケーしてくれた。


*****


「なるほど……獅道君を攻略してしまった結果、八雲君が全員を攻略することができなくなって、白い桜が現れなくなったんじゃないか……と」

「はい、どうなのかなって……」


 昴と二人きりでいるのは、いつか優花が女子達に追われていた時に逃げ込み、昴に白桜伝説を聞いた時と同じ理科室。


 優花の話を聞き終わると、昴は顎に手を当てて、切れ長の細い目を閉じた。


「……想いの欠片……白い桜……全てのキャラの攻略……ゲーム……」


 ぶつぶつとつぶやいていたかと思うと昴はすぐに目を開けた。


「あくまで僕の見立てですが、たぶん白い桜は現れると思いますよ?」

「へ? えっと……どうしてそう思うんですか?」

「それは……まだ語るべき時ではありませんね」


 ……でたよ。


 答えを知っていたとしても、素直には教えてくれないという昴の悪癖に、優花はこれ以上の追及はできないと悟らざるを得なかった。

 まあ一応、白い桜はまだ現れる可能性があるという昴のお墨付きをもらえただけでも良しとする。


「それじゃあ、俺はこれで失礼します。三日月先生、ありがとうございました」


 礼を言い理科室を出ようとした優花を、昴が呼び止めた。


「不藤君」

「はい?」


 振り返ると、昴は真剣な顔で指を一本だけ立てた。


「ライバルには気をつけなさい」

「ライバル? なんのことですか?」


 一体何のライバルなのかと聞こうとしたが、昴は笑っているだけでもう何も答えてくれなかった。



 ライバル……ライバルねえ……。


 普通に考えれば、白い桜が叶えてくれる願いを狙っている楓がライバルということになるはずだけど……。


んー……どうなんだ?


 昴が言っていたライバルが果たして本当に楓なのか、確信が得られず、うんうんと唸りながら歩いていると、急に聞き覚えのある声に呼び止められた。


「灰島」

「ん? ああ、六道生徒会長、どうしたんですか?」


 優花を呼び止めたのは深雪。

 優花が足を止めると、眼鏡の位置を直しながら近づいてきた。


「昨日の件は聞いている。怪我の具合はどうだ?」

「まあすごく痛むとかはないです」

「そうか……」


 まさか、深雪がまだそれほど仲が良いとは言えないのに、心配をしてくれるとは思わなかった。 


「それならば、少し時間をもらっても良いか? 相談したいことがあるのだが」

「大丈夫ですよ、この後特に予定もないんで」


 相談したいことって何だろうと思いながら、深雪に連れていかれたのは、生徒会室。


「早速だが、これを見てくれ」

「はあ……」


 深雪が出してきたプリントには、文化祭の生徒会企画の案がずらりと並んでいた。


「まだ夏休み前ですけど、もう文化祭のこと考えているんですか?」

「準備は早いに越したことはないからな。それで? どうだろうか?」


 ずらっと並んだ案を見ていくと、白桜学院の歴史をまとめた展示系や、公開授業等、真面目なものばかりだった。


「あー……」


 前みたいに、またつまんなそうと言って良いものかどうか、深雪の様子をうかがうと、深雪は既に優花が何を言おうとしているのか察したらしく、ふうとため息をついていた。


「やはりだめか……これでもそれなりに考えたのだがな……」

「ネットとかで調べてみたらどうですか?」

「あまりよそと同じことはしたくないのだがな……」


 仕方ないと深雪は自分の制服のポケットから飾り気のまったくないスマホを取り出した。


 ちなみに校則では授業中にさえ触らなければ、スマホの所持自体は問題ない。


「ふむ……ダンスや、映画ならできそうだが……」

「まあ、ありがちですよね」


 何か良い案はないかと優花も考えてみることにする。


 文化祭と言えば、定番なのはやはり食事系、もっと言えばメイド喫茶やコスプレ喫茶だろうか。ただ、今回考えるべきは生徒会の企画なので、学校全体で何かをやれた方が良い。

 学校全体で何かとなるとミスコンが良さそうだが、それだとひねりがない気がする。


 もうひとひねり何かないか? ミスコンじゃなくて……。


 何とか案を捻りだそうと、考えている優花の目に飛び込んできたのは、生徒会の隅にあった一枚の写真。


「六道生徒会長、これなんですか?」

「む? どれだ?」


 優花が指さした写真は、どうやら前の文化祭の時の写真のようで。

 白桜学院文化祭と大きく書かれた、横断幕の下に、お姫様のような格好をした女子達が並んでいた。


「ああ、これか。これは二年前の文化祭の時の写真だな。たしか……」


 深雪が記憶を探っている間に、優花はまじまじとその写真を見て気が付いたことがあった。


「……これって、もしかして女装ですか?」

「ああ、そうだ。生徒会の企画で女装体験をやったらしくてな、その時の参加者の写真だ」


 ……これ全員男?


 とてもではないが、男子には見えなかった。

 

 筋肉が見えないようにするためか肌の露出はほとんどなく、ウィッグやメイクも多少濃いと感じる程度で、よく見なければ女装とはわからないレベルだった。


「たしか卒業生に、メイクがあまりに上手い女子がいたらしくてな、その女子に頼んで開催したらしい。なかなか好評だったと聞いている」

「へー……」


 メイクが上手な卒業生と聞いて、思い浮かんだのは、めいの顔。


 めいさんはこういうイベントに参加はしな……いや、しそうか。


 前、優花が着せ替え人形になっていた時、めいも結構ノリノリで優花を女装させていたことを思い出す。


「これをまた開催するのはどうですか?」

「女装体験をか?」

「体験だとつまらないんで……コンテストとか?」

「女装コンテストか……ふむ」


 深雪の中でイベントが可能かどうかの算段をつけているらしい。

 少しの間待つと、深雪は首を横に振った。


「いや、無理だろうな。この企画は協力してくれた卒業生あってのものだ、平凡なレベルの女装では生徒会として承認するわけにはいかないだろう」


 まあ、普通は女装しても、どうしても違和感はでるし、男だとはっきりわかってしまうか。

 ただ女装をするだけではだめなのはわかる。


「じゃあ、上手ければ良いんですか?」

「このレベルなら文句は出ないだろう、もはや芸術の域じゃないか。隣の写真を見てみると良い」

「隣?」


 深雪の言う通り、女装体験の記念で撮られた写真の隣にあったのは、白桜学院の制服を着た男子達の写真。


「……まさか」

「ああ、その写真に写っているのは女装前の男子達だ」

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